青髭 第5話
「あんたね、利用者に踏み込みすぎ。あとここで喋りすぎ」
「だって、他に誰も聞いてないんだから良いでしょ」
「まぁそうだけど、看板出してんだから、営業さんとか運送業者さんがくるかもしれないでしょ。」
「その人達だって、聞いたことよそで喋ったりしないよ。」
「……とにかく、お願いされた事をやればいいの。こっちから勝手に家の中の物を動かしたり、処分しちゃ絶対駄目。大事な物だったら尋ねるだけでもクレームに繋がるんだから。気を付けてって言ってるでしょ。」
「クレームクレームって、実際に何かクレームが来たの?」
「あんたには来てないけど、心構えの事を言ってんの!」
『美鳥さん、いつもありがとうございます。
本日の作り置きは4品でお願いします。
その他はいつも通りに。
階段の手すりにささくれがあるので怪我をしないように気をつけて下さい。僕が後で削っておきます。
よろしくお願いします。』
伯母さんはああ言ったけど、私はこれまで怒られた事はないし、お屋敷を快適にする為に心を砕いているだけなんだから。
でも確かに、ご家族の遺品を捨てましょうか、なんて無神経だったな。ちょっと反省しよう。
伯母さんの言う事を聞く訳じゃないけど、これまで通り真面目にお仕事をすれば良いんだ。
棚や窓枠を拭いて、床を箒で掃いて、次はモップ。
それにしても、妹さんの遺品が残されていると思うと、なんだか、お屋敷の雰囲気も相まってお化けでも出そうな感じ。
前に殺人事件が起きそうなんて思ってしまったけど、妹さんの幽霊がお兄さんを恋しがって現れるゴシックホラーだったのかも……。
なんとなく、急に1人で仕事しているのが怖くなってきちゃったな。
私はエプロンのポケットにあるスマホを操作して、イヤフォンから流れてくる音楽のボリュームを上げた。
辺りを見回して怪しい人影や、移動している物が無いか確認する。
「妹さーん、怪しい者じゃないですよー」
なんちゃって。
今までずっと何もなかったんだから、変わりなんかある訳ないない。
駄目駄目、不謹慎よね。
あんなに優しい『ご主人様』のご家族を、怪談扱いするなんて。
……でも、やっぱり決まったお仕事にも、遊び心は大切よね。
私は階段にモップをかけながら、些細な悪戯を思いついた。
2階は全然使わないって聞いたし、もし見つかっても、落とし物だと謝ればいいし。
2階の廊下の突き当たり、少し広く、ホールのようになっている。正面は大きな窓。
左の壁には開かずの扉。多分物置きか何かだったのだろう。両開きの扉に閂きのような立派な鍵が掛かっている。
最初に見た時はぎょっとしたけど、このお屋敷にはそういう扉が多い。
開放されているだけで、ダイニングや応接間の扉だってこのタイプだ。
メモ帳を一枚破り取って、その扉の下に滑らせた。
『だれかいますか』
走り書きのメッセージ。
メイド服じゃないけど、エプロンのリボンが揺れるのは可愛いんじゃない?
土足じゃないから足音は響かないけど、気持ちだけはヒロインのつもりで可憐に走り去る。
私的珠玉のプレイリストから、ちょうどぴったりな歌が流れてきたわ。
「うーんめっいーのー、ルーレーット……♪」
メイドさん探偵美鳥はこうして館に纏わる因習の謎を解き明かし、呪われた美しき兄妹の心を救うのだ!
なんちゃってなんちゃって、……小説家になろうかしら。
『本日もご利用ありがとうございました。
また来週の月曜日に伺います。 桃木美鳥』
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