14話 恋人になった実感

最近、

 距離が自然に近い。

 部活中はちゃんとしてるのに

 給水のとき

 ボトルを渡す指先が触れると

 前みたいに慌てなくなった。

 目が合えばちゃんと笑える。

 放課後、並んで歩く距離も

 前より、ほんの少し近い。

 触れてないのに

 触れてるみたいな感覚。

 ああ、

 私たち、ちゃんと恋人なんだ。

 そう思う瞬間が増えていった。

 でも。

 グラウンドの時計を見るたび、

 胸が、少しだけ苦しくなる。

 高三。

 引退。

 その二文字が、

 頭から離れない。

 キャプテンの背中は、

 いつもより大きく見えるのに。

 あと少しで

 この時間は終わる。

 部活で毎日会えるのは、

 今だけ。

 その“今”が思っていたより短い。

 帰り道。

 夕焼けの中、

 並んで歩く。

 言おうか迷う。

 重いって思われたくない。

 でも。

 言わないほうが、

 もっと後悔する気がした。

「先輩」

「ん?」

 足が少し止まる。

「引退、

 もうすぐですよね」

「……そうだな」

 声が少し柔らかい。

「なんか、

 変な感じです」

 うまく言葉にできない。

「毎日会えるのが、

 当たり前じゃなくなるの、

 ちょっと……」

 怖い、とは言えなかった。

 代わりに、

 俯く。

「寂しいです」

 それだけ。

 本音の半分。

 沈黙。

 嫌な沈黙じゃない。

 でも、答えが怖い。

 もし、

 「仕方ないだろ」って言われたら。

 その瞬間。

 指先にあたたかい感触。

 そっと、手を握られた。

「俺は、

 いなくならない」

 低くてちゃんとした声。

「部活は終わるけど、

 終わるのはそこだけだ」

 握る力が、

 少し強くなる。

「毎日会えなくても、

 会いに行く」

 まっすぐ。

 逃げない目。

 胸がじんわり熱くなる。

 不安は全部消えたわけじゃない。

 でも。

 この人は未来から逃げない。

 それが分かった。

「……重くないですか」

 小さく聞く。

「何が」

「私」

 少し笑って、

 はやて先輩は言った。

「やっと素直になったのに、

 今さら逃げるわけない」

 その一言で全部ほどけた。

 手を繋いだまま歩き出す。

 部活は終わる。

 季節も変わる。

 でも。

 この人とならちゃんと続く。

 そう思えた。

 それが

 “恋人になった実感”だった。

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