姫宮さんは落としたい~恋愛心理学を駆使して、絶対に落ちない鉄壁地味男子を攻略する~

オリウス

アイドル

 俺、冬木ふゆき智也ともやは恋愛に興味がない。なぜなら既に親に婚約者を決められているからだ。だから学校では女子とは接しないようにしているし、自分から距離を置いている。だが、そんな俺にも絡んでくる女子がいる。


「おはよう、冬木くん」


 笑顔でそう挨拶をしてくるのは隣の席の姫宮ひめみや心愛ここあさん。学校一の女子で、学校のアイドル的存在。絹のような髪に、人形のような大きな目。誰にでも分け隔てなく優しくて、明るい笑顔が眩しい生徒だ。だから俺に話しかけてくるのも社交辞令だと思っている。俺は挨拶を返すだけで、特に話したりはしない。だけど、姫宮さんは俺によく話しかけてくる。不思議な女子だ。やっぱり隣の席というのが大きいのだろう。


「冬木くんってどうして女の子と話さないの?」

「女子のことが嫌いだから」

「うわー辛辣ぅ。でも私のことは嫌いじゃないよね?」

「別に好きでも嫌いでもないけど」

「普通そこは好きだよっていうところだよ」


 噂では姫宮さんは学校中の男子を虜にしているという。だが、俺の心は動かない。凪いでいる。確かに容姿は整っているし、性格も明るく誰にでも優しい。だが、こういう人間ほど裏では何を考えているかわからない。俺は完璧な人間を信用しない。だから、姫宮さんにもきっと裏があると思っている。


 俺の人生は決まっている。親の敷いたレールの上を歩いていくだけだ。だから俺は恋をしない。




 ♡


 私の名前は姫宮心愛。自他ともに認める学校のアイドル。誰にでも優しい超絶美少女。私が少し話しかければ、男の子は私のことを好きになっちゃう。そりゃそうだよね。顔も可愛いし、おっぱいも大きいし、エロイ目で見られていることも知っている。私の容姿が整っているのは早いうちに気付いていた。みんなが私をちやほやしたし、私を取り囲んだ。人気者は辛いよね。でも、私はそれが嫌いじゃなかった。みんなに好きって言われるのは嬉しかったし、男の子に告白されるときなんて、私の自尊心が満たされる瞬間だ。

 でも、だからこそ、気に入らないことがある。

 冬木智也。二学期から隣の席になった男子。私が話しかけてもそっけない態度を取るし、私のことを拒絶している。私が話しかけてあげてるのに、私のことを好きにならない。こんなことは初めてだった。私をちやほやしない男子がこの世にいるなんて、夢にも思わなかった。

 だから私は決めた。絶対にこの男の子を落としてやると。告白させて盛大に振ってやるのだ。それでこそ、私の自尊心は満たされる。

 彼には正攻法で挑んでも無理だということがわかっている。だから私は恋愛心理学を使うことにした。

 まず私が実践したのは単純接触効果だ。これは単純に会う回数を増やすというもので、誰にでもできる簡単なテクニック。私は学校に登校する度、必ず冬木くんに話しかけている。冬木くんの反応は芳しくないが、それでも私に一応返事はしてくれる。


「おはよう、冬木くん」

「おはよう、姫宮さん」

「今日も相変わらずクールだね。かっこいいよ」

「姫宮さんも相変わらず可愛いね」


 こんなことを平然と言ってくる。最初は恋愛に慣れていない男子なのかと思っていたけど、違うと思う。冬木くんは恋愛に興味そのものがないのだ。異性をまったく意識しない。私のことなんてただのクラスメイトぐらいの認識なのだろう。悔しい。私のことを好きにならない男子なんて、この世にいらない。

 それもイケメンならともかく、こんな地味で冴えない男子が私に興味を持たないのが、私はたまらなく気に入らない。

 だから絶対に落として見せる。


「昨日の宿題やった? あれ超難しかったよねー」

「あんなの授業を聞いていれば簡単に解けるよ」

「ええ、そう? だったら答え見せてよ」

「見せるわけないでしょ」

「冗談だよ。私だってちゃんとやってきてるんだから、ほら」


 そう言って私はノートを広げる。冬木くんは興味無さそうに顔を背ける。

 腹立つなこいつ。私が話してるんだからこっち見ろよ。こんなに可愛い女子が話しかけてるのに、どうしてこの男子は表情がちっとも変わらないんだろう。

 もしかして男が好きなのかな。でも友達がいるようにも見えない。

 本当に冬木くんは憐れな男子だと思う。彼に話しかけるのは私ぐらいで、典型的なぼっちだし。

 地味でぼっちで冴えない男子。こんな男子が私のことを好きにならないのは大問題だ。正直言って私の自尊心は傷つけられている。


「冬木くんってクールなところがいいよね」

「褒めても何も出ないよ」

「思っただけだよ」


 一応定期的に褒めてはいる。褒めてはいるのだが、まったく嬉しそうなそぶりを見せない。照れている様子もない。この男の心臓を乱すことはできるのか、私の女の意地がかかっている。

 これでもこの学校の男子は全員一度は私に惚れている。街を歩けば男の目を引き付けるし、ナンパもしょっちゅうされる。だから私の容姿が問題あるわけじゃない。間違いなく大多数の男の好みには刺さっている。

 だから冬木くんも、私のことは可愛いと思っているはずなのだ。

 だから、私は攻めるだけ。この男子を私の虜にするための戦だ。



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