「⚓転生JDが中華の歴史を変える」転生したんで私は歴史を変えてやる!漢王朝をぶっ潰す転生JDと敵対する転生大学院生女子!

⚓フランク ✥ ロイド⚓

🔵巴蜀・漢中編

第1話 将軍韓信とアンヌの転生

209


 項羽との激しい抗争に敗れた劉邦は、辺境の地である蜀漢へと押し込められた。漢軍は、切り立った崖に架けられた危うい「蜀の桟道」を通り、湿気に満ちた蜀漢の地へと進軍していった。


 かつて項羽を見限り、大望を抱いて漢に寝返った韓信だったが、与えられたのはかつての将官としての地位ではなく、蕭何(しょうか)の下での兵站(へいたん)作業、すなわち食糧や資材の管理という裏方の仕事だった。彼の心は、自らの才能が埋もれていく焦燥感で腐り果てていた。


 竹や木材を組んで作られた蜀の桟道はあまりに脆弱で、足を踏み外した兵士たちは、重い荷駄と共に悲鳴を上げながら雲霞(うんか)の漂う谷底へと転落していった。その惨状に耐えきれなくなった韓信は、ついに兵站指揮を放り出し、軍を脱走しようとした。


 だが、逃亡の途中で将兵に捕らえられ、軍規によって斬首されそうになったその瞬間――。


 月光の下、蕭何が現れて彼を救い出した。


「お前は大将軍になりたいと言ったな。だが、韓信よ。真の大将軍たるもの、兵の命を支える兵站にこそ精通せねばならぬ」


 蕭何は静かに、しかし重みのある口調で諭した。韓信はその言葉に射抜かれ、悔しさを飲み込みながらも、その教えを深く胸に刻んだ。


 やがて、漢軍がようやく蜀漢の拠点にたどり着いた頃、蕭何は満を持して劉邦に進言した。


「王よ、韓信は『国士無双』。天下を争うための将の器にございます。今すぐ地位を上げなされ」


 だが、逃げ腰の劉邦は渋い顔をして、「二階級特進で十分だろう」とケチな返答を返した。


「天下を望む大尽(だいじん)たる者が、そのような出し惜しみをしてはいけません。真に人を動かすのは、相応の礼と覚悟です」


 蕭何に厳しくたしなめられ、劉邦は家臣たちの前で笑いものにされるのを嫌った。


「よし、分かった!ならば韓信を大将軍にせよ!」


 劉邦は、やけくそ気味に一気に最高位の昇進を命じた。


 史実(あるいは、この歪み始めた歴史)によれば、韓信はこの時(紀元前206年頃)、劉邦に抜擢され大将軍となり、その軍事的天才を開花させるきっかけを得た。発奮した韓信は、蜀漢を足がかりに天下を攻略する決意を固めたのである。


 しかし、蜀漢の地に到着した漢軍を待っていたのは、想像を絶する辺境の惨状だった。


 成都を中心とするこの地域は、上下水道はおろか、まともな道路すら整備されていない。田畑は原始的な焼畑農業に頼り、民の暮らしは貧窮を極めていた。


 蕭何と韓信は、軍事行動の前にまずインフラ整備に着手した。韓信は、脆弱だった蜀の桟道に代わり、中原から持ち込んだ最新の土木技術を投入。石材と土を強固に組み合わせた舗装路を建設させた。


 兵士たちに命じて峻険な山を切り開き、運河用の水路と並行する形で幅広い街道を整備した。これにより、荷駄の運搬効率は飛躍的に向上し、軍の補給線は盤石なものとなった。


 さらに、蜀漢の不安定な焼畑農業を改善するため、蕭何はかつて秦の李冰(りひょう)が築いた都江堰(とこうえん)の技術を参考に、大規模な灌漑用水路を各地に敷設。川から豊かな水を引き、水田農業を導入して稲作を強力に奨励した。


 この改革により、蜀漢の食糧生産量は瞬く間に倍増し、軍の長期駐留と遠征が可能となった。また、韓信は衛生面にも目を向けた。成都近郊に溝渠(こうきょ)を掘り、雨水や生活排水を処理する排水路を整備。さらに深く井戸を掘って清浄な飲料水を確保すると共に、中をくり抜いた竹製パイプで水を運ぶ簡易的な水道の仕組みをも構築したのである。


 悪臭は消え、疫病の発生は劇的に抑えられた。こうした民政での驚異的な成果は、韓信を単なる武将ではなく「万能の英雄」として民に刻み込み、劉邦の信頼を不動のものとした。


西2025


 曽根崎(そねざき)アンヌは、東京外国語大学言語文化学部 中国語専攻の三年生、二十歳。


 長崎の潮風に育まれた彼女は、時折「~っちゃ」「~と?」といった柔らかな方言が漏れるものの、現代中国語に関しては並々ならぬ情熱を傾けていた。


 大学での二年間で磨き上げた言語運用能力は、彼女に大きな自信を与えていた。北京語(普通話)のピンインを完璧に使いこなし、超難関のHSK6級も高得点でクリア。将来は国際会議の通訳か、中国の最先端IT企業でバリバリ働く自分を夢見ていた。


 しかし、その日のアンヌは、夏の西日が照りつける中、どうしようもなく苛立っていた。


 原因は、同じ大学の彼氏・拓也との大げんかだ。拓也は普段こそ穏やかだが、最近はデート中も単語帳を手放さないアンヌの「中国語漬け」の生活に、寂しさを爆発させていた。


「もっと俺を見てよ。アンヌは中国語のことばっかりで、俺のことなんてどうでもいいんだろ!」


 そんな子供じみた言葉に、アンヌは逆上した。


「私の夢を邪魔しないで! 語学は積み重ねなのよ!」


 そう叫んで拓也のアパートを飛び出した。東京の街は、まだ残暑の熱気がアスファルトから立ち上っている。不織布マスクの内側が汗で蒸れ、人ごみを避けながら歩く足取りは重かった。


 その夜、彼女は急激な悪寒に襲われた。


 体温計の液晶が示したのは、見たこともない「38.5度」という数字。


「まさか、これって……」


 予感は的中した。翌朝には意識が遠のくほどの高熱――40度近い熱が彼女を襲い、呼吸が浅くなる。新型コロナウイルスの流行は、まだ完全に過去のものではなかった。


 救急搬送され、即座にICU(集中治療室)への入院が決定した。


 アンヌは白く無機質なベッドに横たわり、重苦しい酸素マスク越しに、ぼやけた天井を見つめていた。


(なんで……こんなことに……。拓也、あんな言い方して、ごめんね……)


 最期の予感に胸が締め付けられる。強力な薬剤と高熱の影響か、意識が深い闇へと沈んでいく中、アンヌの記憶はそこで途絶えた。


207


 次に目を開けたとき、世界は一変していた。


 消毒液の匂いではなく、むせ返るような土と獣の匂いが鼻を突く。


 薄暗い部屋の床は固められた土間で、背中の下にはガサガサとした粗末な藁(わら)の敷物があるだけ。見上げれば、煤(すす)けた竹と木が入り組んだ天井が見えた。


 窓にはガラスなど一枚もなく、ただ筵(むしろ)が垂らされているだけだ。その隙間から見えるのは、何層にも重なる峻険な山々と、轟々と響く濁流の音。


「ここは、どこなの……?病院じゃない……」


 アンヌは体を起こした。激しい倦怠感は消え、驚くほど体が軽い。


 だが、自分の体を見て、彼女は凍りついた。


 白く、しかしどこか筋肉質でしなやかな手。鏡はないが、触れた髪は腰まで届くほど長い。身に纏っているのは、ゴワゴワとした茶褐色の麻でできた、前合わせの着物のような服だった。後でそれがパオと呼ばれる、この時代の一般的な衣服だと知ることになる。


 そのパオは膝下までを覆っていたが、決定的な違和感があった。


(……下着、はいてない!?)


 思わず膝を立てて座ろうとして、股間を通り抜けるあまりにダイレクトな風に、アンヌは顔を真っ赤にして脚を閉じた。


「え、何これ!?夢!?それとも、たちの悪いドッキリなの!?」


 混乱する彼女の前で、ガタピシと音を立てて扉が開いた。


 入ってきたのは、日に焼けた顔の男女と、汚れた布を巻いただけの子供たち。どうやら、この家の家族らしい。


ロンロン!起きたか!」


 男が叫んだ。アンヌは弾かれたように顔を上げた。


 言葉の響きは、確かに中国語に近い。だが、自分が学んできた流暢な北京語とは、月とすっぽんほども違っていた。現代中国人のような、あの腹の底から出す甲高い大きな声ではない。どこか鼻に抜けるような響きで、声調(トーン)も驚くほど平坦だったのだ。


ロン?私の名前……?」


 アンヌが恐る恐る自分を指さすと、母親らしき女が近づき、ゴツゴツとした手を額に当てた。


「熱、下がったな。よかった、本当によかった」


 またしても、脳内の辞書にはない奇妙な発音。


 アンヌの脳裏を、言語学の講義で習った知識が駆け巡った。


(……待って。現代中国語の『私(wo)』が、紀元前の『上古中国語』では『nga』や『ŋaʔ』に近い音だったっていう説……。まさか、ここは秦から漢にかけての時代!?)


 さらにこの地が蜀であるなら、中原の言葉に巴蜀(はしょく)地方特有の非漢語要素が混じっているはずだ。


 アンヌは中国語専攻としての全神経を集中させ、彼らの言葉を分析し始めた。


 男が言った「起きたか?」という言葉は、現代の「qǐ(チー)」ではなく、入声(いっしょう/p, t, kで終わる音)を伴う「kʰiəʔ(キアッ)」のように聞こえる。現代の「熱(rè/ラー)」も、ここでは「njat(ニャット)」に近い。


(間違いない……。単音節語が中心で、複音節語がほとんどないこの体系……。ここは、前漢成立直前の蜀なんだわ。私、転生しちゃったの!?)


 とにかく情報を得ようと、アンヌは得意の筆談を試みようとした。


「あの、紙と、筆を……」


 必死に書くジェスチャーをするが、家族はポカンとして首を傾げるばかり。


 当然だ。ここは紀元前206年頃の辺境。秦の始皇帝が文字を統一したとはいえ、識字能力があるのは貴族や一部の官吏のみ。農民にとって言葉は「書くもの」ではなく「話すもの」に過ぎなかった。


 アンヌは早々に諦め、この時代の言葉を習得することに決めた。幸い、耳は良い。


 父親の「sjək kʰa?(食うか?)」という問いかけを、必死に真似る。だが、どうしても故郷・長崎のイントネーションが混じり、「食うっちゃ」に近い響きになってしまう。


 その長崎弁混じりの蜀訛(しょくなまり)は、家族の目には「高熱で少し頭がイカれてしまった哀れな娘」として映ったが、彼らは温かかった。多少頭がおかしくなっても、器量が良くて子が産めて、農作業さえできれば女として問題はない――そんな時代だった。


 日が経つにつれ、アンヌはこの家の事情を知った。


 苗字はヂャン。つまり、自分は張蓉ヂャン ロンという名の娘だ。小作人ではなく自分の畑を持つ自作農で、村の中ではそれなりの地位にある家庭のようだった。


 しかし、生活環境は凄絶だった。


 椅子も机もない土間の上、女たちも脚を投げ出したり股を広げたりして座っている。下着がないから、最初は目のやり場に困ったが、アンヌも次第に老婆の陰部を見ることさえ日常の景色として慣れてしまった。


 もっとも、彼女自身は現代の意地をかけ、常に膝を揃えて座る「正座」か「横座り」を貫いたが。


 そして何より、アンヌを絶望させたのは「便所」だった。


 ウォッシュレットはおろか、紙さえない。そしてこの村のトイレはすべて、恐るべき猪厠ちょせきだった。


 それはなんと、豚小屋の真上に設置されたトイレである。


 板にくり抜かれた穴から排泄物を落とすと、それがそのまま下にいる豚たちの餌になるという、合理的だが現代人には悪夢のようなシステムだ。


(無理……マジで勘弁してぇ~!)


 穴を跨いで用を足す「ヤンキー座り」は、運動不足のJDにはあまりに過酷な筋トレだった。最初の数週間、アンヌの足は常にプルプルと震えていた。


 アンヌは張蓉として、原始的な焼畑農業も手伝った。


 現代の機械化農業や、韓信たちが整備し始めたばかりの灌漑技術の恩恵がまだ届かない末端の村では、生産性は極めて低い。


「こんな非効率なやり方、いつか私が変えてやるっちゃ……」


 アンヌは、この時代を生き抜くための強い意志を固めていった。


「私、ロンっちゃ」


 その独特な訛りが村に馴染み始めた、ある日のこと。


 村の長(おとな)が血相を変えて張家を訪れた。


「数日後、漢の大将軍様がこの地を視察に訪れる。村のしきたり通り、貴人には『夜伽(よとぎ)』を差し出さねばならん。だが、今、村には適齢のおぼこ(処女)がおらんのだ。蓉は十八になるが、幸いまだ誰の手もついておらん。蓉を、将軍様の夜伽とする!」


 事態は急転直下。


 アンヌは母親に土間へ無理やり座らされ、家の外から家族が追い出された。


(ゲゲェ~! 夜伽のレクチャー!? 勘弁してよ!)


 21世紀の体では、拓也と軽いキスをした程度の経験しかない。17歳の蓉の体は、それこそ完全無欠の「おぼこ」だ。


「いいか、ロン。お前は寝床に入って横になるだけで良い。決して逆らうな。将軍様がなされるがまま、すべてを委ねるんだ。最初は痛いかもしれんが、体の力を抜いてゆったりと構えていろ」


 母親は真剣そのものの顔で、娘の股ぐらを叩いた。


「男衆はそうすれば勝手に気持ちよくなって、精を放つ。その時だ、しっかりとその将軍様を股で挟み込んで、お種を体の中に受け止めるんだぞ。そうすれば、お前は将軍様の後宮に呼ばれ、この家も村も安泰だ。……だがな、もし痛がって拒んだり、粗相をしたりしてみろ。お前は村を穢した女として叩き出される。わかったな、なされるがまま、お種を受け止めるんだぞ」


 アンヌは天を仰いだ。村を叩き出されることは、この時代、死を意味する。


「……わかったっちゃ、おっ母。将軍様に失礼のないように、しっかりとお種をもらってくるっちゃ。……そいで、その将軍様、なんて名前なの?」


「漢の大将軍で、お名前をハン・シン(Han Xin)様と申される」

「ハン・シン……? 知らないわ、中国語専攻なのに……どんな漢字かしら。っておっ母、読み書きできないんだったね」

「ふん、村の長が『お前は少しばかり文字が読めるようだから』と、この木簡を預かってきたよ。これだ」


 アンヌが受け取った木簡には、力強い筆致の小篆(しょうてん)でこう記されていた。


『大将軍 韓信』


 アンヌの時が止まった。


(え?大将軍、韓信……?韓信って……あの、国士無双の!?項羽を四面楚歌に追い込んで自害させた、あの戦争の天才、韓信!?えええ~っ!?)


 歴史の教科書どころか、ゲームや漫画でもおなじみの超ビッグネーム。


(ちょっと待って、キングダムどころの話じゃないわよ!私、そんな歴史上の怪物と……初体験(はじめて)をやっちゃうの!?)


 アンヌの転生生活は、いきなり最大のクライマックスを迎えようとしていた。

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