第三回:『魔力連結(コネクト)の儀式』
帝国の魔導兵たちが放つ漆黒の雷撃が、地下室の石壁を砕く。 エライは一歩も動かず、ただ黄金の瞳でその軌道を「視て」いた。
「低効率な術式だ。――減衰(ボルト・ダウン)」
エライが空間を軽く撫でると、迫り来る雷撃は空中で霧散し、ただの静電気へと成り下がった。 だが、その瞬間、エライの視界がぐらりと揺れる。鼻から一筋の鮮血が滴り落ちた。
「エライ君! ダメ、それ以上『直接ハック』を使っちゃ!」 ミリーが叫びながら、防御障壁を展開する。 「君の脳はもう限界よ。管理者権限の負荷を一人で受け止めたら、次の戦闘で自分の名前すら忘れてしまうわ!」
「……だが、やらなければ全滅だ」 エライの黄金の瞳に、冷徹な計算結果が浮かぶ。 包囲網を突破する確率は、今のままでは12%。エライが全出力を解放すれば98%に跳ね上がるが、その代償として彼は「言葉」を失うだろう。
「方法ならあるわ! ……リコちゃん、私の手を取って!」 ミリーが必死の形相でリコの手を掴み、二人でエライの背中にしがみついた。
「な、なによミリー!? こんな時にくっついて……っ」 「黙って繋がって! エライ君、今から私の意識を君の回路に同期させるわ。君の『熱』を、私たちに逃がして!」
これが、ミリーが古文書から導き出した禁忌の回避策。 『魔力連結(コネクト)』。
エライの脳にかかる演算負荷を、深い精神接触によって仲間たちへ分散させる術式だ。
「……接続(リンク)、承認」
エライが短く呟いた瞬間、三人の間に激しい衝撃が走った。 「っ!? なにこれ……エライの頭の中……すっごく、熱くて……悲しい……」 リコが顔を真っ赤にしながら、エライの服を強く握りしめる。 「……入ってくるわ、エライ君の『真理』が……! これが神の視点なのね!」
三人の魔力が混ざり合い、黄金の回路が地下室全体を包み込んだ。 エライの頭痛が引き、代わりに視界がかつてないほど鮮明になる。二人の少女の鼓動と魔力が、まるで自分の一部のように感じられた。
「リコ、前方十時の方向に矢を。ミリー、僕の座標に収束回路を形成しろ」 「ええ!」「了解よ!」
エライの解析眼が、二人の感覚を「拡張」する。 リコが放つ矢には、エライによって「絶対命中」の因果が書き込まれ、ミリーの魔導弾には「空間破砕」の属性が付与された。
「――一掃(ワイプ)する」
エライが手をかざすと、三人の魔力が合一した黄金の奔流が放たれた。 それは帝国軍の重装歩兵も、堅牢な魔導盾も、まるで紙細工のように塵へと変えていく。
数分後。 地下室の周囲には、音もなく消滅した兵士たちの残滓だけが漂っていた。
「……はぁ、はぁ……。助かった、のね……」 連結が解け、リコがその場に座り込む。彼女の顔はまだ火照り、エライと「繋がっていた」余韻に震えていた。
「成功ね。エライ君、記憶の欠損はどう?」 ミリーが懸念を口にするが、エライは静かに首を振った。
「……問題ない。君たちが負荷を肩代わりしてくれたおかげで、今回は『今日の朝食の内容』を忘れるだけで済んだようだ」
「それなら良かった……って、リコちゃん? 何その顔」 ミリーの視線の先で、リコがエライをジト目で見つめていた。
「……エライ。あんた、繋がってる間、私のこと『胸が邪魔で弓が引きにくそうなバイタルだ』とか思わなかった?」 「……? 効率的な事実を思考ログに残しただけだが」
「このバカエライ!! 連結してる間は、考えてること全部筒抜けなのよ!!」
怒るリコ、宥めるミリー、そして感情の欠けた瞳で空を見るエライ。 三人の絆は、この禁忌の連結によって、より深く、より危険なものへと変質していった。
📊 第三回:解析レポート
エライの崩壊度: 9%(連結により抑制)
【喪失済み記憶】:
リコとの思い出(全消去)
今朝の朝食メニュー
新機能: 魔力連結(コネクト)
ヒロインと感覚を共有し、能力を大幅強化する。ただし、思考が筒抜けになるため「修羅場」が発生しやすくなる。
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