遠距離恋愛、今日もトラブル発生中!?

蒼龍 葵

第1話 波乱の大阪旅行 その1


 東京都立T大学附属病院・西4階外科病棟。

 今日も緊急オペと急患が続いて、気づけば昼休憩もまともに取れなかった。

 それでも、胸の奥は不思議と軽い。

 やっと明日、俊ちゃんに会えるから。


「晶ちゃん、いよいよ明日から行くの?」


 高桑晶、26歳。

 4年間続けている遠距離恋愛は、同僚にもう隠すほどのものでもない。

 3ヶ月に一度の“恒例行事”みたいな大阪行きに、今日もあちこちから「お土産よろしく」と声が飛んでくる。


「はいっ! お土産買ってきますね」

「USJに新しいアトラクション増えたんだよね。私も行ってみたいなあ」


 香苗さんはスマホのUSJのマップを眺めながら、羨ましそうにため息をついた。

 どうやら彼氏さんとは、ディズニーランドすら行ったことがないらしい。


「いい歳して恥ずかしいとか言われても、ああいう場所に年齢なんて関係ないですよ」

「む、無理無理! 友ちゃんと沈黙のまま三時間も並んでいられないもん」


 妄想しては照れ、耳まで真っ赤にして慌てる香苗さんは、先輩なんだけど見ているだけで可愛い。

 私も、こんな風にほんわかした雰囲気だったら、もう少し自信が持てるのに。


(まずは……俊ちゃんに飽きられないように、自分磨きしなきゃ)



 いよいよ、明日から彼氏に会いに行く。


 普段は会えなくて寂しくなるから電話は控えているけれど、会う前日だけは別だ。

 4年間ずっと続けてきた“前日電話”。これをすると、ようやくこれから行くんだぞ、という実感が湧いてくる。


「さてっと……これで忘れ物はないよね?」


 荷造りを終え、胸の高鳴りを抑えながら俊ちゃんに電話をかける。

 コールが鳴り切る前に出るのも、いつものこと。


「も、もしもし? 俊ちゃん、準備できたよ」

『おう。明日、11時になったら新大阪駅やな?』


 久しぶりの俊ちゃんの声。甘くて優しい聞き慣れた関西弁。これだけで胸がきゅっと締まる。


「うん。それで、今回はどこに泊まるの?」

『俺ん家やで。晶のために片付けたんや。褒めて』


 俊ちゃんが照れたように声色を変えた瞬間、胸の奥がきゅっと跳ねた。

 ──褒めて、って……なんでそんな甘い声で言うのよ。

 電話越しなのに、耳の先までじわっと熱くなる。


(ちょ、ちょっと待って。落ち着け私。これはただの“片付け報告”…のはず…!)


「で、でも、私が行ったら迷惑じゃない? ほら、弟さんとか」


 声が少し上ずっているのが自分でも分かる。

 俊ちゃんには15歳下の弟さんがいるらしい……

 この4年間、一度も鉢合わせしたことはないけれど──。


『和希は友達んトコ泊まるらしいわ。4日間、家空けるって』

「そ、そうなんだ……ふ、ふーん」


(ふーんって何よ私! もっと落ち着いた返事できないの!? ていうか4日間って……4日間って……)


 その間、ずっと“2人きり”という言葉が、頭の中で勝手に反響する。

 胸の奥がじわじわ熱くなって、思わず息が浅くなる。

 突然黙り込んだ私に、俊ちゃんがくすっと笑った。


『なぁ、晶』


 名前を呼ばれただけで、心臓が跳ねる。

 息を飲む音まで聞こえそうで、思わず携帯を握り直した。


「な、なに……?」


『和希はおらんから、いっぱいエッチ出来るで』

「だ、誰もそんな事聞いてません!」


 反射的に早口に捲し立てた声が裏返った。

 ベッドと壁の間で体育座りしていたお尻が、びくっと浮く。


(やばいやばいやばい。また俊ちゃんにペース乱されてる)


『俺は、したいけど。なぁ、晶』


 電話越しなのに、耳の奥をくすぐるような甘い吐息。

 今、俊ちゃんは隣にいないのに、背中がぞくっと震える。


(ちょっと待って、これ反則……!)


『晶……一足お先に、しよか?』

「な、何を……?」


(何をって聞いた時点で負けじゃない? でも聞いちゃったよ私!)


 ゆっくりと甘い声で彼に囁かれた瞬間、真っ赤になり、思わず汗ばんだ携帯電話を落としそうになった。

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