第10話:カバレッジ

​​ 『ピッ、ピピーー!! セットポイント、北総!!』

​ 絶望的なホイッスルの音が体育館に響く。

 春高予選、ついに迎えた絶対王者・北総高校との一戦。

 だが、コートに立っているのは、交流試合で見せた無敵の城南ではなかった。


​ 「……っ、ハァ、ハァ……!」

 碧斗の膝が、前世の古傷をなぞるように鈍く疼く。頭のなかでシステムから警告音が鳴り響いていた。

 『警告:肉体の最適化レートが低下。オーバーロードの危険があります』


​ 碧斗の不調だけではなかった。

最悪なのは、北総が城南の『アナリシス』を完璧に「逆解析」してきたことだ。

予選大会で他校と戦う城南の試合を分析し、碧斗の打点、蓮のトス回し、高城のリードの癖……そのすべてに完璧な「対策」がなされていた。


​ 「無駄だよ、城南のエース君。君が導く『最適解』のアルゴリズムは、もう僕らの手の中にある」

 ネットの向こうで、鏡合わせのような動きをする二人の巨躯――北総の「双璧」、阿吽兄弟(あうんきょうだい)が冷笑を浮かべる。


​ 碧斗が跳ぶ。蓮からの超高速トス。だが、そこにはすでに双子の大きな手のひらが「巨大な壁」となって完成していた。

 (ドゴッ!!)

 碧斗の全力のスパイクが、双子のシンクロしたブロックに吸い込まれるように叩き落とされる。

​ 「カバー!!……取れない!?」

 後ろで構えていた直人たちが飛びついても、ボールは虚しく床に落ちた。


​ 勢いを失った城南に、北総の攻めは容赦なく襲いかかる。

阿吽兄弟の完璧なシンクロは高城のリードブロックをかいくぐり、高さのあるスパイクが城南のコートを容赦なく射抜いた。


 「カバレッジが甘いね。エースを立てれば、後ろが疎かになる。君たちの守備範囲は、あまりに『穴』だらけだ」

​ 北総の監督は、碧斗のアナリシスのさらにその先の「ディグ(スパイクレシーブ)」の欠落を突いていた。

 それは、知らず知らずのうちに碧斗の個の力に依存していた城南は、組織としての守備網が崩壊していたのだ。


​ 第1セット、25-16。完敗だった。

 コートに膝をつく碧斗の前に、阿吽(兄)が歩み寄る。

​ 「一点豪華主義のバレーは終わりだ。……君一人がいくら高く跳ぼうが、床に落ちるボールは拾えない」

​ プライドをズタズタにされた部員たち。そして、自分の分析の甘さを突きつけられた碧斗にも、巻き返す手だてはなかった。


 「……ディグだ」

 碧斗は震える声で呟いた。

​ 「空中の支配だけじゃ足りない。……地面を這ってでもボールを繋ぐ、泥臭い『カバレッジ』がなきゃ、北総の壁は越えられない」

​ 前世の碧斗が最も敬遠していた根性論、根拠のわからない、泥臭さが足りないのだと突きつけられているようだった。

 しかし、今世で頂点を掴むためのレセプトは、もはや「高さ」だけでは勝利への道筋を切り拓くことが明白だった。


 完膚なき敗北の淵で、城南高校バレー部に、「ディグ」という課題が突きつけられた。

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