1週間で終わる俺の転生人生×n

浅井るい

第1話 ハイスピードライフ

 草がさわさわと揺れる心地よい草原。そこで目覚めた俺は仰向けになっていた。


 俺は死んだ。


 死んだという事実だけが頭に残っている、それにこの孤独感は何だ?

 誰か、一人でもいいから傍に居てくれよ……


「ババ~ン! これで寂しくは無いだろう?」

「わ!? ……誰、急に驚かさないでくれ」

「ははは、そこまで驚くなんてね」


 十六歳くらいか、ピンク髪なショートヘアの美少女が隣に座っている。


 短めの白いワンピースに羽織られた赤い上着、その上着を結ぶ細く赤いリボンが可愛げに揺れる。


「君は死んで天国に来ている。そしてお待ちかねの転生タイムだよ? どう? ワクワクして来ない?」


 天国?

 死んだってことは間違いないらしいな。死んでワクワクなんてする訳ないだろ。


「……転生って、天国でのんびりスローライフ送るんじゃないの?」

「君には強制で転生して貰わないといけないのさ。まあとりあえず僕の自己紹介からね、あ、その前に~」


 視界が変わり、いつの間に俺は椅子に座っていた。

 そして目の前にはテーブルに置かれた美味しそうなステーキが!


 ……何故にステーキ?


「君の前世の記憶は全て預かって貰ったけど、その記憶を覗き見して気になってたのがこの日本三大和牛! 天国に来てステーキは鉄板だよね~」


 鉄板じゃないだろ。

 いや、天国に来るのは初めてだし、皆ステーキ通過儀礼があるのか?


 ステーキを丁寧に切って美味しそうに頬張るこの少女、自己紹介の前にまず己の食欲を満たしたいらしい。


 ……なんだろう、この自由な少女を見てたら急に気持ちが落ち着いてきた。俺も食べるか。


「天国でステーキってどうなんだか……そういえば俺前世の記憶が無いはずなのに知識は残ってるぞ?」


 ステーキを食べた記憶はないけど、こうしてナイフとフォークを持って食べれている。


 日本三大和牛も知ってるし、なんなら今食べた牛が松阪牛ってこともわかる。


 もしかして前世は贅沢してた人間なのか?

 にしてもステーキ美味いな。


「僕は記憶は預かったけど知識は預かってないからね、君に転生してもらうのに頭空っぽだったら意味無いでしょ?」


 ナイフとフォークを俺の記憶を辿って使っているのか、初めて食べてるにしては綺麗に食べているな。


 口元をナフキンで拭き終わった少女は薄く赤い瞳を俺に向ける。


「僕は風の女神エルンスト、この天空世界マゼルンを管理する者さ。さあさあ質問があればどんとこいっ! あと僕のことはエルンって呼んでね」


 自己紹介を終えた女神エルンストは、無邪気にウインクを決めた。


 女神?

 俺は神様相手にタメ口叩き込んでいたのか、死刑宣告されないよな? 一ヶ月後死にますとかさ。

 エルンはどこか親近感あったから神様オーラ無かったしな。


「転生するのにスキル貰えますか?」

「もちろん貰えるよ! あ、敬語はダメ絶対。僕の敬語アレルギーが反応しちゃう」

「おお、やっぱりスキルで無双してこそ異世界転生だよな! ……転生先って異世界?」

「もちろん異世界だよ! あ、最初の転生先は妖精世界エディアね」

「最初……? まあいいや、スキルの内容は?」

「スキル:勇者継承。出会った勇者の力を手に入れる最強スキルさ!」


 スキルをコピー出来るスキルなのか!?

 ははははははは、勝ったな。


「ただし一週間後に死にま~す」

「なんだって!!!?」


 死刑宣告された!?

 一週間後!?


「まあまあ最後まで話を聞いてよ。スキル:勇者継承は世界の終焉を救えるたった一つの希望に満ちた最強スキルなんだ、ただ勇者はまだ光る卵の状態、卵勇者と共に世界を救って真の勇者、鶏勇者にしなければならない!」


 終焉を救う?

 なに、俺は勇者を育成するの?

 面倒事に巻き込まれたのか……ワクワクどころか不安でしかない。


「あとスキル:勇者継承が発動するのは死んだ後ね」

「死んだ後!?」

「だから効率良く一週間後に死ぬ事になっているんだ、まあ一週間前に死んでも次の世界に転生するけど」

「……最初に行く妖精世界とやらで勇者継承は使えないって解釈で合ってる?」

「ピンポンピンポーン! 君は封印されし勇者と言う訳さ!」


 ……最強スキルって何だっけ?


 ステーキを食べていた手はとっくに止まっていた。そのステーキが静かに鉄板の上に落ちる。


「そんな絶望に満ちた顔しないでくれよ~。そうだ、転生先の異世界には君の前世と親しみのある卵勇者、つまりお友達が居るんだ! お友達と勇者継承の冒険……ほらほら楽しくなってきたでしょ?」

「ちっとも? 一週間後に死ぬし」

「正確には三つの異世界を転生するの! 異世界を救ったご褒美に好きな三大異世界を選んで自由に暮らせるの! ほら、楽しいでしょ!?」

「ちっとも? スキル封印されてるし」

「最初の異世界から色々補正でスキルとか魔法とか取得出来るから! 複数スキル持ちってだけで珍しいんだよ?」

「最強スキル?」

「……使いようによっては」


 俺はステーキを一切れ食べて美味しさを味わった。

 日本三大和牛ステーキ最高!

 日本三大和牛ステーキ最高!

 あなたも日本三大和牛ステーキ最高と叫びなさい。


「……君の名前は如月蒼真って言うらしいね。なんか青くていいじゃん、君のイメージカラーにピッタリで。可哀想なソウマに僕からのせめてのプレゼントだ」


 現実逃避中の俺を哀れな目で見つめるエルンは指パッチンをした。

 その途端、シンデレラがドレスを着る時のようにキラキラとした光が俺を纏い、新たな俺が爆誕する───


「鏡を見よソウマ! どうだい? 僕を褒めて称えても良いんだよ?」


 そこには高身長金髪美少年オッドアイ細マッチョの姿が!

 なんてものは無く、

 少し青くなった暗いトーンのくせっ毛頭、

 光を失い掛けた地味な青い目、

 ダークブルーなスポーツウェアを着た至って普通の冴えない男がそこに居た。

 顔がまあまあ整ってるのが救いだが、他の負のオーラが帳消しにしている。


 エルンに追い討ちを食らった俺は草原に倒れ込み撃沈した。

 このままもうすぐ転生って。

 本当にどうかしてるぜ。


 心配そうにエルンが顔を覗かせる。


「なんかごめんね、色を変えるだけじゃダメだったかな?」

「もういいです」


 エルンは大袈裟に手をポンとついて。


「あ、いっちばん重要な事を言い忘れてた!」

「一応聞こう」

「僕が、ソウマと一緒に付いてくるぞ!!!」


 期待と自信に満ちたエルン。俺に感極まって嬉しく嘆く、そんな返事を待っているのだろう。


「……はあ」

「なんでため息!? もっと喜んでよおぉぉ! もういいもんね、ソウマ、さっさと転生するよ。さあ行こう、妖精世界エディアへ!」

「え?」


 エルンがそう言いながら俺の右手を強引に引っ張る。やがて前方から激しい風が吹き、風と共に眩しい光が視界を覆い尽くす。

 異世界に通ずるワープの景色に、左手で思わず目を覆ってしまった。

 手の指の隙間から覗いた時、既に青空も草原も消えていた。





 ◇◆◇





 そこに広がるのは中世ヨーロッパ感溢れる街中。


 レンガ造りの建物が立ち並び、赤色の屋根が太陽光を反射する。街ゆく人達は皆美男美女で戯れ、商店を開く者、馬車を引く者、それはもうたくさんのエルフが頓挫していた。


「おっとごめんよ兄ちゃん、急いでいたもんでよ」

「おぉ、おう」


 眼帯を巻いた銀髪エルフに肩がぶつかってしまった。ここは商店街の道ど真ん中らしい。


 いやいやそんなことよりだ。

 ……ここが異世界、俺は実際に転生して異世界に来ている!!!

 


 俺は正直心が弾んでしまっていた。

 やっぱり想像と実際に肌で感じるのとは全然違うな!


 手のひら高速回転な俺は商店に並ぶ武器に目を付ける。


「おいエルン見ろよ! あのでっけえ斧買おうぜ! 時間なんてないんだ、さっさと冒険してとっとと勇者見つけなくちゃな」


 テンション爆上がりの俺は手を繋いでいたであろうエルンに振り返る。しかし手を握っていた相手は……


「わわ! 誰ですか貴方は! 誘拐犯ですか!? これでもくらえです!」


 エルンではなく、見知らぬエルフの手を握っていた。エルフは細い手で弓を思いっきり振り上げ、俺に目掛けてバットの如く振り落とす。


 異世界転生した俺は、転生直後に殴られ失神。雲行き怪しい異世界スローライフならぬ異世界ハイスピードライフは、まだ始まったばかり……


【如月蒼真】

 スキル:勇者継承 ←NEW!

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