第16話 ダンジョン発見(一) ~ 探索班四日目

 探索班四日目の朝。昨晩の野営地から、指示された方角に向かって出発した。


「担当範囲の中では、今日が一番奥まで行くみたいだ」


 マソーさんは、地図を広げながら、欠伸あくびをする。


「今日こそ何か見つかりそう!」


 あれれ。みんな静かだね。ジーマ君なんか、木の杖をほんとの杖代わりにしてる。どうしたってんだい。


「いつも元気でいいね。こっちがかえって疲れるぐらい」


 おや。カッツォが不機嫌。


「こちょこちょこちょ」


 なんて、わきをくすぐっても無視。ひどいね。一〇年前だったら大笑いしてくれたのに。しょんぼり。どうやらみんな、お疲れみたいだね。


 正面に、まだ踏みならしていない薮が見えた。


「来た来た。やるよ、カッツォ」


「へいへい」


 気が抜けてるね。にやついて、悪党みたいになたの刃をじっとり舐める仕草を見せても無反応。さみしい。

 その鉈をせっせと振るううち、薮を抜けた。


 おや。


 ふと、足を止めて、鼻をくんくんさせた。


「なんか、くさいね」


「うん。ほんとだ」


 ようやくカッツォが反応してくれた。きゅん!

 こっちのそんな気も知らず、ちょっと顎を上げて、くんくんしてる。きょうだいで、くんくん、くんくん、交互に鳴らす。輪唱みたいにね。


「うそ、何も感じないよ。ジーマ君は?」


「ぼくも、特には」


 後ろの二人も、くんくんさせたけれど、すぐやめた。あれれ。分かんないのかな。


「うん? どぶくさいね・・・」


 生活用水を流す水路にごみが詰まった時、こんなにおいがするね。


「いいや。獣くさいな」


 確かにね。分かる。どぶくさいって、獣くさいのも込みで、どぶくさいもんだしね。獣くさいのが確かに強め。


 カッツォは剣の柄に手を掛けた。ま、そういうことだね。わたしは、ふーっと息を吐く。

 薮で、がさごそ、何かが速く動く音がした。


「出てこないでくれよう」


 カッツォが剣を抜く。ジーマ君とマソーさんも身構えた。

 荒く、大きくなった音が、一瞬止まって、何かが飛び出した。


「ねずみ⁉」


 ジーマ君が叫ぶのと同時に、カッツォとわたしで巨大なねずみを一匹ずつ仕留めた。続けざま、新手が三匹飛び出した。


「二人とも、後ろへ!」


 ジーマ君が指示。それに合わせて後ろへ飛ぶ。そこにマソーさんの火の玉が走って、三匹まとめて炎に包まれた。いいね、手っ取り早い。


「次のが来る!」


 今度はマソーさん。

 で、その後一〇分ぐらい、ぴょんぴょん、ぴょんぴょん、ねずみが飛び出してきた。

 大した傷はなかったけど、爪や牙で、手足を引っ掻かれた。


「ねずみが出るなんて、事前の説明にはなかったな」


 カッツォは静かになった薮をまだ見ていた。


「ジャイアント・ラット。たまに毒を持ってる奴がいる。ジーマ君、アンティドート出して」


 マソーさんは額の汗を腕で拭った。


「アンティドートなんて使わなくても大丈夫です」


 ジーマ君は、マソーさんの足の傷に手をかざして、ぶつぶつ唱えた。手のひらから、またきらきら。でも、あれれ。透明の液体が、傷口からちょろっと出た。


「へー! もう解毒までできるんだ」


 そうなの。わたしたちのジーマ君て、子どものくせに、やる奴なの。ジーマ君はくねくねしながらも、祈り続けてる。

 で、わたしの傷を解毒しようとすると、今度は激しくくねくねした。


「なんでミレーには解毒してあげないんだろ」


「ジーマは女の人に不慣れで・・・」


 こそこそ話が聞こえる。そのうちちょろっと、きらきらが出たけど、不安だったからアンティドートを使った。いい加減にしとけ。


 解毒を続けながら、みんなで車座になって休憩。

 カッツォは寝転がって解毒してもらってる。ジーマ君は大変だね。二人ともよっとぐったり。

 で、マソーさんは、両手を胸の前で組んで、にぎにぎ、指を動かして、落ち着かない。


「もしかするかもね・・・」


 よく意味の分からないことを言う。

 にやにやする。

 目が怖い。

 これ、毒のせいっ⁉


巨大ねずみジャイアント・ラットを、森で見掛けることはあまり多くない。どっちかと言うと、ダンジョンによく現れる」


「ダンジョン! 近くにあるってこと⁉」


 わたしは叫んだ。カッツォも体を起こし、ジーマ君と身を乗り出した。わたしたちはダンジョンを見たことがない。


「なんとも言えないな。慌てないで、このまま予定通りに進もうか」


 なんて言ってるくせに、指がせわしなく動いている。

 そうだよね。わたしも同じ。頭の中は、ダンジョンのことでいっぱい。

 まだ、世界の誰も、この先のダンジョンを見ていないんだ。どんな場所なんだろう。


「解毒なんか後、後。早く行こう!」


 わたしはすぐに立ち上がった。


「あの、ぼくの解毒は・・・」


 ちっ。つい舌打ちしちゃった。めんご。

 で、ジーマ君は震え上がって、自分の解毒がうまくできなかったから、アンティドートを使った。頼りになんねえの。しっかりしてくれ。


 ジーマ君の解毒が終わるのを待って、マソーさんは、よっこらしょ、わざわざゆっくり立った。

 探索を再開。やっぱり巨大ねずみジャイアント・ラットばっかり出て来た。


「うぉりやっ」


「いいぞ、姉さん。マソーさん、火の玉を」


「よし。ジーマ君、準備できたら目で合図する」


「はいっ」


 なんだ、三人とも元気じゃないか。巨大ねずみジャイアント・ラットをてきぱき倒していく。この日の結晶の数、七七個。大儲け。

 足取りが軽くなって、ジーマ君が歩数を数える、ぶつぶつ声もこれまでで最速。ほんとに数えてんのか。


 でも、もう日が傾きだした。そろそろ進むのをやめなくちゃいけないって時。

 躍起になってたはずの、わたしたちの足が止まった。


 立ち並ぶ木の幹の隙間に、石積みの大きい建物が見える。

 言葉が出ない。ただ、爆発しそうな期待。

 合図もなしに、わたしたちは一斉に走り出した。

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