ギャルゲーの中に転生した俺、本来主人公にしか好意を抱かないヒロイン達がなぜか俺だけに懐いてくるんだが。〜2度目の人生を俺は満喫します〜

沢田美

第1話 非モテな俺の2度目の人生

 俺には好きな人がいた。高校二年生の時に恋をしていた一人の女子に告白をした。――いや、正確には告白をする決意をした。だが、それを実行に移す前に、知り合いがその事を周りにチクり、噂は瞬く間に伝播して、最終的にその子の耳に入ってしまった。――もちろん、告白する前にフラれた。


 そもそも俺は非モテ陰キャであり、女子とまともに絡んでこなかった。でも、唯一その子だけは異性として意識して、身なりを気にしたり、筋トレをしたり、外面も内面も磨いてきたつもりだった。


 半年間、毎朝早起きして髪をセットし、休み時間には彼女の好きな話題を必死に勉強し、放課後は図書館で本を読んで教養を身につけようとした。YouTubeでコミュニケーション術の動画を見まくり、鏡の前で笑顔の練習までした。それなのに、その結果が――告白する前にフラれる。という意味の分からない結末だった。


 その事実が今日、俺を絶望の底に突き落とした。多分明日からは俺の肩書きは「好きな異性に告白する前にフラれた男」というレッテルになるだろう。クラスのLINEグループでは既に話題になっているに違いない。想像するだけで吐き気がする。


 非リア充同盟というものがあるだろう。俺もあれに加入しようかな、なんて。そんな自虐的なことを考えながら、俺は放課後の帰宅路を歩いていた。五月の夕暮れ時、オレンジ色に染まった空が妙に虚しく見えた。道端のツツジの花も、今日はやけに色褪せて見える。


「ギャルゲーで鍛えた、コミュ力と言葉の選択肢も意味無くなっちまったな……ハハッ」


 思わずそんな言葉が漏れ出た。そう、俺は欠落していたコミュ力を昔からやっていたゲームで補っていた。今考えればただの痛いやつがやりそうな事だ。最近始めたギャルゲー『恋するハイスクール!〜君と紡ぐ青春ストーリー〜』でコミュ力を補うために、俺はほぼ徹夜するレベルまでやり続けた。


 選択肢を一つ一つ吟味して、ヒロイン達の反応を研究して、何度もやり直して完璧なルートを辿る。ゲームの中では、俺は完璧なコミュニケーションができた。どんな言葉を選べば相手が喜ぶのか、どんなタイミングで話しかければいいのか、全て把握していた。でも現実は違った。現実には「やり直し」ボタンなんてない。


 だが結果は惨敗だ。でも、あのギャルゲー楽しかったな。帰ったらもう一回だけやって、ゲーム屋で売るか。もうあんな痛々しい努力は二度とするもんか。そんなことを考えながら俺は、そのまま信号機のない横断歩道までたどり着いた。


「――あれ?」


 ふと、隣にスマホをずっと見つめて歩いている女子がいた。見覚えのある顔。俺をフった、好意を抱いていた子だ。長い茶髪をポニーテールにして、白いイヤホンをつけている。俺は思わず顔を逸らして、他人の振りをした。


 別に俺はその子から直接フラれたわけじゃない。その子の友達経由で伝えられた。「ごめんね、叶(かなえ)ちゃんは矢次君のこと、そういう風には見れないって」というLINEの文面が、今でも脳裏に焼きついている。惨めだな俺。


 そんなことを考えていた時、ながらスマホをしていたその子は、左右の車を見ずにそのまま歩き続けた。


 信号機のない横断歩道を渡ろうとしている。


「おい! 危ねぇぞ!」


 俺は思わず声をかけた。が、彼女はイヤホンをしている。俺の声に反応しない。――その時、大型のトラックが猛スピードでその子に迫り来た。運転手は完全にスマホを見落としているようだ。ブレーキをかける気配すらない。


 マズイ! 助けないと! でも、俺が助けたところでなんになる? 俺が助けたところで彼女からフラれた事実は変わらない。明日からの学校生活が地獄になることも変わらない――バカか俺! そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろうが!


 体が勝手に動いていた。咄嗟に彼女に向かって全力で走った。止まる様子が見えないトラック。距離はあと数メートル。俺は彼女の背中を力いっぱい突き飛ばした。彼女の体が歩道へと転がっていく。スマホが地面に落ちて画面が割れる音が聞こえた。よし、これで俺も走れば――。


「あ」


 俺の視界には、突然突き飛ばされて咄嗟にこちらを振り返る彼女の、驚愕に見開かれた瞳と、横から既に目と鼻の先まで迫っているトラックの巨大なボディが映った。


 "死んだ"という感情と言葉が脳裏を過ぎる。不思議と恐怖はなかった。ただ、「ああ、これで終わりなんだな」という妙な納得感だけがあった。走馬灯なんて見えなかった。ただ真っ白になって、そして――。


 俺はあっさりと矢次一平(やつぎ・いっぺい)としての人生に幕を閉じた。


 痛みはなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


あとがき


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