異界を巡る剣士:父の軌跡
塩塚 和人
第1話 異世界の剣士
佐原まさきは、異世界ルミナス大陸の小さな町
――ノルド王国の辺境都市、ブランフォードに立って
いた。44歳の男が冒険者登録を済ませたのは、た
だひとつの理由からだった。
「娘を、探す――」
10年前、あかねが異世界に召喚されたまま消息不明
となった日から、まさきの胸には執念が宿っていた。
現代日本での平凡な生活を捨て、剣士として生きる
ことを決めたのは、そのためだった。
まさきは剣を握る手に力をこめ、登録証を見つめ
た。冒険者ギルドから渡された紙切れには、彼のス
テータスはまだ未確認と記されている。これから全
てを自身の力で切り開くしかないのだ。
町の広場を歩くと、子供たちの声や馬車の軋む音
が耳に入る。だが、まさきの心は戦場にあった。娘
あかねの笑顔――その記憶が、彼を前へ押し出す。
「まずは、情報だな……」
まさきはギルドへ向かう足を速めた。町の小道を
抜けると、古びた石造りの建物が立ち並ぶ広場に
出る。冒険者たちが行き交い、剣や杖を携えた姿
が目に入った。
ギルドの中は活気に満ち、受付嬢が書類を整理し
ている。まさきは一礼し、登録手続きを済ませる
と、冒険者として初めての任務表を手にした。
「……これか」
任務は、小規模の魔物討伐。経験値も報酬も少額
だが、まずは実戦を通して自分の剣技を確認する必
要があった。
その日の夕方、まさきは町のはずれの森に足を踏
み入れた。落ち葉を踏む音だけが響き、魔物の気配
はまだ遠い。だが、剣士としての勘は、森の奥に
潜むものをすぐに察知していた。
突然、枝の間から灰色の影が飛び出した。小型の
魔獣――狼のような姿をした魔物が、まさきに牙を
むく。
「来るなら来い!」
まさきは腰の剣を抜き、構えた。狙いを定め、最初
の一撃を放つ。魔物は素早く回避するが、連続で剣
を振るまい、ついに片足をかすめることに成功した。
魔物は悲鳴を上げ、森の奥へ逃げ去る。まさきは
息を整えながら、自分の腕に満足した。まだ未確認
のステータスだが、剣士としての感覚は衰えていな
かった。
その夜、宿屋で暖かい食事を取りながら、まさき
はふと窓の外を見る。満天の星空が広がり、異世界
の広大さを感じさせる。
「娘は、どこにいる……」
胸の奥に、父としての焦燥と希望が入り混じる。
だが、まさきは決して諦めなかった。剣士として、
父として、娘を取り戻すまで歩みを止めない。
翌日、まさきは町の噂を頼りに情報を集める。商
人や旅人に声をかけ、少しずつあかねに関する手
がかりを探す。町の掲示板には、他の冒険者の依頼
が掲示され、剣士としての腕を磨く場もあった。
その中で、ひとりの青年がまさきに声をかけてき
た。剣術に長け、冒険者としての経験も豊富だという。
「剣の修行なら、私が手伝おう」と微笑むその青年、
エリオ・ヴァレンティアが、まさきの旅の初めての
出会いとなる。
まさきは心の中で呟く。
「よし……娘を探す旅は、これから本番だ」
父としての覚悟が、異世界ルミナス大陸に響く。
そして、まさきの長い旅路が静かに幕を開けた――
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