寝取られ勇者、ヒロイン居ない方が最強説

@GRMN

第1話

「というわけで、お前のこと大好きだった女全員俺のことが好きになっちまったんだよ!」


 ゲラゲラと品のない笑い声をあげる男。その両手には華────どころか大輪が咲いている。周りも酒の席ということで盛り上がっている。俺の心は冷え切っていたが。


「もうっ、ゲルガ。こんな場所で何処触って……んっ」


 胸を触られて体をくねらせているのは俺の幼馴染で、戦士の少女サリア。ボーイッシュながら体つきは女性らしく成長していたが、どうやらゲルガが一番乗りで手をつけたらしい。


 まー初恋だったよ。それは認める。正直悲しい。


 でもそれより気になるのは────


「ゲルガさん、私との蜜月をお忘れですか?」

「盗賊である私の身も心も奪っていったこと、忘れんなよっ!」


 他の面子までもゲルガの虜となっていることだ。聖堂教会から派遣された回復役の貞淑な僧侶メルフと、魔族にやられて死にかけていたところを助けて忠義に報いるためと仲間になったツインテロリ盗賊ユウア。どっちもゲルガに首っ丈だ。


 ユウアは「何か私の主人に相応しい証をくれ!」と強請ってきたから、お守りをやった。何の変哲もない、布のお守りだったが大層喜んでいたなぁ。


 いや、それはいい。ぶっちゃけ同じ男として色んな女に好かれている状況に腹が立ってくるが、そこは問題じゃない。


 ただ発言的にこれ完全にヤってるよなぁ? 一夫多妻が悪いとは言わないけどさ、何考えてんのこいつ。ハーレム作るとか、王族かよ。平民の出だろ、俺と同じで。そういうのやっちゃダメな立場だろ。


「ハァ……」


 思わず溜息が出る。顔も自然と俯く。こいつらの馬鹿な顔を見るのが我慢ならない。それを俺が悔しがっているとでも思ったのか、ゲルガが誇らしげに笑い、俺の肩を叩いてこようとしてきた。


「まぁ、こいつらは俺の女だから諦め────」


 だから、。俺は勇者と呼ばれる人間だが、聖剣が抜けない人間だったからテーブルの上にあるナイフでだ。


 俺の動きが見えなかったのか、ゲルガは何が起きたのか分からず固まる。だが、次の瞬間、血飛沫が腕の断面から舞ったことで事態の把握と痛覚が追いついたようだ。


「ぎぃ、やあァァァァアアアアーーーーッ!!!!」


 ゲルガの悲鳴で酒場はパニック。俺がやったことだが、テーブルの上にあった料理が奴の血で台無しになっていく。


 それを見ても俺の心は冷えていた。


「巫山戯てんのか、お前」

「な、てめえよくも────」


 ゲルガが吠えようとしたが、その顎を斬り落とした。やはり見えなかったらしい。


「ッ!?」


 最早悲鳴を上げることもできず、床の上でのたうち回るゲルガ。俺の感情は依然動かない。


「勇者パーティで恋愛するのは自由だ。だが、せめて一人に絞れ。色んな女を抱きたいんなら娼館にでも行けよ」


 そう言い残し、酒場を去ろうとする俺を止めるのは元勇者パーティの仲間達だ。


「待ちなよ! ゲルガにこんなことをしておいて、何処に行こうっていうの!?」

「勇者なんだから魔族を狩りに行くに決まってんだろ」

「その前にゲルガを傷つけたことを謝ってよ!!!!」


 サリアからの涙交じりの懇願に俺は間髪入れず答えた。


「断る。俺は何も悪いことをしていない」


 そのまま堂々と踵を返し、出て行こうとする。その背後から影と魔法が飛んでくる。


 俺は咄嗟に床に転がっていた、へし折れた椅子の脚を拾い、魔法を斬る。その後、ユウアのナイフによる斬撃を止めた。


「な……」


 全員が俺のやったことに戦慄している。何がそんなに不思議なことなのか。俺は一度こいつらに自分の力について説明しているというのに。


「言ったはずだろ。勇者には特別な恩恵が授けられる。俺の恩恵は、俺がものを何でも聖剣に変えることが出来る。俺が触れることが発動条件だ」

「椅子の脚が、あんたには武器に見えるっていうの……!?」


 誰も声が上げられない中、ユウアが俺に問いかけてきた。一番この中で実戦経験があるから復帰も早かったのだろう。


 俺は頷く。


「そうだ。何ならお前にやったお守りすらも俺にとっては聖剣になり得る」


 ユウアの首から提げられているお守りを空いた手で引きちぎり、彼女を蹴飛ばす。吹き飛ばされたユウアと入れ違いで魔法が再び飛んでくるも、聖剣と化したお守りを投げつけることで相殺した。


 流石に殺傷能力が椅子の脚よりも低いという認識だったせいで、相殺までしか出来なかったが。


「そん、な……」


 それでも絶対の自信を誇っていた魔法が打ち破られたことがメルフはショックだったらしい。膝から崩れ落ち、意気消沈した。


 俺は彼女から視線を切り、今度こそ酒場を後にしようとする。


 その前に言うべきことを伝えた。


「もうお前達は勇者パーティじゃない。何処へなりとも行ったらいい。そこのゲルガとハーレムを築きたいならどうぞご勝手に……もう遅いが好きだったよ、サリア」


 俺に告白された彼女がどんな顔をしていたのかは分からない。その前に酒場を去り、魔族の気配が感じた方へと駆け出してしまったからだ。












 ……そういえば彼奴の役割は何だったっけ? ああ、踊り子(男)か。

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