サプライズ計画

 そして10日目の朝、いつも通りサトウがご飯を持ってきてくれた。

 そこで結核菌はサトウを見上げた。


「あの、サトウさん……聞いてもいい?」

「ん?なんだ?結核菌」

「……あのね。3時間外に出ている間、僕お手伝いとしてお金を稼ぐことって出来るのかな……?」


 サトウは驚いた。労働することは可能だが、これまで自ら働きたいと言ってきた菌はいないのだ。


「ああ。できるよ。だが、何故?ここにいれば食べ物も寝床もあって不自由なく暮らせてると思うが?」

 サトウは不思議に思いました。

(なぜだ?ストレスか……?このままじゃ高純度のミコール酸が作れなくなる?)

「ううん、何でもないの。僕もみんなみたいに働きたいなって!」

「……分かった。なら今日からの3時間解禁は仕事を用意しよう」

「わーい!ありがとう!僕頑張るね!」


(絶対にサトウさんに喜んで貰うんだ!)

「……パーティー楽しみだね!」

 結核菌は純粋無垢な笑顔を見せた。


 そして待ちに待った3時間解禁。

 結核菌は実験室の奥の倉庫にやってきた。

 シールを箱に貼っていくという単純作業で給料はその日に貰える。


「よし!頑張るぞ!」

 結核菌は細い指と体にスタッフが心配する。

(大丈夫!サトウさんの為なら僕頑張れるから!)そう言い聞かせて3時間の作業をした。


「はい。これ、今日の分の給料だよ」

「わー!ありがとうございます!」


 さっそくその給料とお酒の値段を比較してみた。

「いち、じゅう……あれ?お酒、たくさん0がある……こ、こんなに高いの……?」

 結核菌くんは今日の給料と酒の値段のあまりの違いに絶望した。


(どうしよう。このままじゃ、約束のパーティーにお酒が、サプライズが間に合わないよ……!)

 結核菌はもっとお金を稼がなくてはいけないと思った。


(明日、仕事の人に聞いてみたら何かわかるかもしれない!!)

 結核菌くんはその期待に込めて夜を迎えた。


 そして次の日の3時間解禁、仕事場の人に尋ねる。


「あ、あの!僕もっと稼げるお仕事がしたいの!シール貼りよりも難しくてもいいから……!」

 仕事の人はうーんと言ったあと、一つのを思い浮かべる。


「あっ、じゃあ脂肪抽出の被検体のバイトやってみたら?」


 結核菌はいい仕事内容では無さそうだと瞬時に理解したが、お金のためなら体を犠牲にしてもいいと思ってしまう。

 その仕事内容は彼のミコール酸を少量削ぎ取るという命までも削るバイトだ。


「うっ……怖いよ……」

「怖いのは確かだけど、シール貼りの何百倍も給料貰えるよ?」


 その言葉を聞いて彼はすぐに頷いた。

 そして冷たい被験室に縛り付けられ、メスを皮膚に突き立てられます。彼は怖くて目を瞑って震える。


「んっ!!ぐっ……!」

 激しい痛みに襲われたが、すぐに終わった。

「……はあ……はあ……」


 彼は体力をかなり消耗した。

「お疲れ結核菌。これ給料ね」


 そこにはシール貼りの何百倍もの厚さのお金が入っていた。

 結核菌はサトウの笑顔を思い出してもっと頑張ろうと思えてくる。

(待ってて、サトウさん!絶対に喜ばせてみせるから!)


 檻の中の結核菌はいつもよりもニコニコしている。――腕の傷を隠しながら。

「どうした結核菌。いつもよりも調子が良さそうだな」

「ふふっ。働いてお金を稼ぐの楽しいんだぁ!」

「何か買ったのか?」

「えっ……いや、何も買ってないよ」


(……なるほど、結核菌は菌専用売店でお菓子やぬいぐるみを飼うために貯金してるんだな。まあでもこいつに物欲があったとは意外だが……愛らしい所もあるんだな)


 ふと、サトウは結核菌が描いた似顔絵を思い出してしまう。

(だめだ。いくら愛らしくてもこの研究所の資金なんだ。使命は果たさなくては!)


 ……まさかサトウは結核菌が彼のために働いていてサプライズをしようとしてる何て夢にも思ってないだろう。


 それからパーティーまで残り3日。

 やっと結核菌はお酒を買うお金が貯まったのだ!削ぎ取ってきた皮膚はボロボロで痛々しい。


「やった!これでサトウさんの笑顔が見られる!!」

 彼は貯金をお酒に払った。

「これでこの飲み物ください!サトウさんへのプレゼントです!」


 ――店員は過去1驚いた。何故なら、被検体の菌が自らを犠牲にして働いたお金を自分に使わず殺そうとしているサトウにプレゼントするのだから。 


「……はい。確かに……どうぞ。商品です」

「えへへ。重たい……。僕が買った幸せ、サトウさん喜んでくれるかな?」

 その顔は濁りは一切ない純粋な顔でした。

「あと、残りのお金でこのお菓子を買ってスタッフさんみんなに配っておいてね!」

 そう言って結核菌は、笑顔で檻へと戻っていった。


 店員は複雑な気持ちになり、周りのスタッフに話した。

「えっ!明後日処分予定の結核菌が研究員にお酒をプレゼント!?」

「しかも自らの体を犠牲にして稼いだお金を自分を殺そうとする人にあげるなんて正気じゃない!」

「あんなに優しくて無垢な命が明後日で終止符を打つのか……それでも彼も……スタッフたちの幸せも願っているって……あまりにも残酷じゃないですか?」


 全員涙を流して彼を哀れんだ。

 スタッフたちの間で結核菌は『天使の病原菌』という矛盾した異名が付けられた。


 そして、パーティー前夜。

「ねぇ、サトウさん?明日のパーティー楽しみだね!」

「そうだな。最高のパーティーにするために特別に部屋を用意したんだ。そこでやろう」

「わーい!サトウさん大好き!ありがとう!」


 結核菌は買ったお酒は隠して明日のために備えておく。全ては明日のために……。

 何も知らないはずの結核菌は、自分が殺される明日が待ち遠しくてたまらなかった。

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