「介護お疲れ(笑)お前は用済みだから離婚な」とクズ夫に追い出されました。でも、借金逃れで彼が実行した『相続放棄』のせいで、家も土地も全て私の(息子の)ものになったのですが?
品川太朗
第1話 用済み宣言
私の名前は美咲(みさき)、35歳。 小学5年生になる息子の春斗(はると)と、夫の健太(けんた)、そして義父の四人暮らしをしていた専業主婦だ。
私と義父は、初めて会った時から折り合いが悪かった。 頑固で昔気質の義父とは性格が合わず、同居の話が出た時も断り続けていた。
けれど5年前。 義父にどうしても介護が必要な状況になってしまった。
「美咲、頼むよ。二世帯住宅に建て替えれば、将来は春斗のためにもなるし」
健太にそう説得され、悩んだ末に「春斗のためなら」と自分を納得させたのだ。
――だが、予想通り夫の健太は、全くの役立たずだった。
手伝うどころか、介護疲れでふらふらの私に向かって文句ばかり。
「お前の父親の面倒見てるんだから、少しは手伝ってよ」
いくら訴えても、彼はスマホでゲームをしながら鼻で笑うだけ。
「俺は仕事で疲れてるんだよ。お前は専業主婦なんだから、それくらいやれよ」
そんな地獄のような生活が5年続き。 先日、ついに義父がこの世を去った。
不謹慎かもしれないけれど、正直ホッとした。 (これでようやく、終わったんだ……)
そう。 肩の荷が下りたと思っていたのだ。
葬儀も終わり、ようやく一段落した、その夜のこと。
「美咲。お前とは離婚だ」
リビングで一息ついていた私に、健太が突然、緑色の紙を突きつけてきた。
「とっととこの離婚届にサインして、春斗を連れて出ていけ」
「……え?」
思考が停止した。 あまりに唐突で、文脈が理解できない。
「ちょっと、どういう事? なんなの突然」
次第に湧き上がる怒り。 けれど健太は、ニヤニヤと私をあざ笑う。
「別に突然じゃないから。親父の介護がいらなくなったら、お前とは別れようと思ってたし」
――なんて?
「ほんと、介護おつかれさーん」
「なに……? 要は、介護ヘルパー代わりにお情けで結婚生活を続けてたってこと?」
「そうそう、わかってるじゃん」
健太はソファに深く腰掛け、信じられない言葉を吐き出した。
「もうね、親父の下の世話してるお前を見てるとさ、汚いっての。もう女として見れないんだよね。まあ年のせいもあるかもだけどな」
ブチッ。
頭の中で、何かが切れる音がした。
お前の親父の汚物を処理していた私を、汚い……? よく、そんなことが言えたな。
「あんたの親父の為に、女も捨てて尽くしたこの5年は無駄だったってわけね」
「いやいや、すごい役に立ったし感謝してるよ? 口先だけだけどな」
本当に、心底、どうしようもないクズだ。
「そんじゃ、早くサインして出て行ってくれよ。俺はこの家で、新しい女と暮らすんだからよ」
「……は? 健太、あなた……浮気していたの?」
「ああ、そうだよ。悪いか?」
健太はキョトンとして聞き返してきた。 その顔を見て、私の心は急速に冷えていった。 怒りを通り越して、もう、呆れと軽蔑しか残らない。
私も、こんな男とはいつか別れてもいいと思っていた。 でも、もう無理だ。 一秒たりとも、この男の顔を見たくない。
「わかった……離婚してあげる」
私は冷たく言い放つ。
「でも、財産分与と慰謝料はきっちり貰うわよ。それと春斗は私が引き取る。養育費もね」
「はいはい……定期預金の半分250万に、慰謝料200万でいいだろ。俺の情けをありがたく思えよ」
健太は「大金を恵んでやる」と言わんばかりの態度で、別の紙を取り出した。
「よし。じゃあ、この念書にサインしてくれ」
あまりの段取りの良さに、ムカつくのを通り越して乾いた笑いが出そうになる。 私は内容を確認し、その場でサインをした。
「よし、これで離婚成立だな! いやースッキリしたな!」
健太はあからさまに上機嫌になり、伸びをした。
「おい、早く荷物まとめて出て行ってくれよな」
「わかったわよ。もう疲れたから、明日には出ていくわ」
こうして、一方的な離婚は成立した。
――この時。 健太はまだ、気づいていなかった。
彼がこれから実行しようとしている『ある計画』が。 自分自身を、一生這い上がれないどん底へと叩き落とすことになるということを。
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