めざせアメリカンダイナ―!3歳児とモフモフの異世界スローライフ
遠夏(とおか)
第1話 転生したら3歳でした
「るい……るい!」
パパがぼくの手を握って、涙をこぼしている。
「あぁ、るい……大好きよ」
ママがぎゅうっと強く抱きしめてくれている。
最期まで、いっぱい泣かせちゃったね。
ごめん、パパ、ママ……うん、ぼくも大好きだよ。
でもね――だんだん二人の顔がぼやけてきた。
ぼく、佐藤るいは、ずっと病気とたたかってきた。
七歳を過ぎたころから、何度も入院して、苦しい治療もがんばった。
パパとママも、いつもそばにいて励ましてくれた。
だけど――
十三歳の冬、ぼくはこの世界を去ったんだ。
心残りはひとつ。
――ずっと一緒だった飼い犬のアインに、最後のお別れができなかったこと。
◇
気が付くと、真っ白な世界にいた。
(……ここはどこ?)
目を開けているのか、閉じているのかも分からない。
でも、体の痛みも苦しさも消えていて、ふわふわと気持ちがいい。
(これが、天国ってところなのかな?)
「……ごめんなさいね」
突然、静かな声がぼくに話しかけてきた。
「……だれ……ですか?」
「あなたに分かる言葉で言えば――神、でしょうか」
姿は見えない。でも、優しく包まれるような声だった。
(神さま……女神さま?)
「本来、あなたの魂は違う世界に生まれるはずでした。ですが、私たちの手違いで誤って別の世界に命を授けてしまったのです」
「……え?」
話についていくのは難しかったけど、女神さまは丁寧に説明を続けてくれた。
どうやら、間違った世界に生まれたせいで、ぼくは体に無理がかかってしまったらしい。
「でも……パパとママは? 本物じゃなかったの……?」
胸がぎゅっと苦しくなって、ぼくは泣き出してしまった。
「違いますよ。あなたが生きた人生も、あなたを愛した人たちも、すべて本物でした」
女神さまの声が少し震えた。
「ずいぶんと苦しい思いをさせてしまいましたね。けれど、これで終わりではありませんから。本来の世界へ、あなたを送り返します」
「送り返すって……ぼく、生き返るんですか?」
「ええ。お詫びに、あなたの願いを叶えます。行き先は選べませんが、あなたの力になる加護(スキル)を授けましょう」
(スキル……ってなんだろう?)
「あの。……それなら、アインと会いたいです。ぼくの犬です。ずっと一緒だったんです」
女神さまはしばらく黙ってから、優しく「いいでしょう」と言ってくれた。
「――姿は変わってしまうかもしれませんが、共にいられるよう計らいましょう」
アインとまた会える! そう思うと胸があたたかくなった。
「他に望みは? 戦闘スキルでも富でも名声でも――生きる力になりますよ」
「え……ええと……」
(そう言われても。……ぼくの、望み……かぁ)
「その世界に……ハンバーガーって、ありますか?」
「ハンバーガー……?」
「ずっと病院食ばっかりで……。ぼくは元気になったら、ハンバーガーが……食べたかったんです。……えっと、できたら、ポテトも……」
「…………。」
……あれ? なんか、黙っちゃった。
うわぁ……どうしよう!
やっぱり場違いの願いだったみたいだ。言わなければよかった。
「ご、ごめんなさい! わがまま言っちゃいました。忘れてくださ――」
「い、いえいえいえ! いいんです! 素敵な願いですこと」
あたふたする女神さま。なんだか、声が震えてる?
「その世界にハンバーガー屋が無かったら困りますからね…… 能力(スキル)として授けますね」
なぜか泣きそうな声でしゃべる女神さま。
ぼくのわがままさにびっくりしちゃったのかな。
「材料も揃えておきますから。ええ! アメリカンダイナ―、しちゃいましょう!? たくさん作って食べてください。いっぱいいっぱい……食べて……ください……ね、うっ、ぐすっ」
あ、やっぱり泣いてる! なんで!?
「お姉さ……じゃなくて、女神さま。大丈夫ですか。あの、泣かないで……」
姿が見えないのが、もどかしい。
ぼく、今度もまた誰かを泣かせてるのかな。
「可愛い……! コーラ、そう、コーラもつけます。ええ! これは初期スキルですからね。それはもう、キンッキンに冷えたやつですよっ!」
(しょきすきるってなんだろ?)
なんだか分からないけど、すごく気持ちがこもってた。
「……ありがとう、ございます」
見えない相手に向かって、ぼくは頭を下げた。
冷えたコーラをくれるみたい、ってことだけは分かった。
でも長いこと飲んでいないから、飲みきれるかな?
コーラを待ちながら、白い世界でぼうっとしていると、
「それでは……今度こそ美味しい生活を。さあ行ってらっしゃい、愛し子よ……!」
光が、強くなる。
ぼくの意識が、ふわりと溶けていった。
(……あれ、コーラは?)
◇ ◇
頬と腕の冷たい感触で、目が覚めた。
意識が戻ると、しびれていた身体の感覚がじわじわと戻ってくる。
気がつくと、白い世界でもなく、病院でもなく、つるつるした大きな石の上に、うつぶせに寝転んでいた。
ゆっくりと体を起こすと、見たこともないほど大きな木々にぐるりと囲まれている。
(……えっ、ここ、どこ……? 森?)
思わず息を吸い込むと、濃い森の香りが鼻の奥まで広がった。
病気になる前に連れていってもらったキャンプ場を思い出すような。
深呼吸しても、胸が苦しくならなくてほっとする。
木々に覆われていて光がない。
ぞっとするような甲高い鳥の鳴き声が聞こえてきて、ぼくは自分の体をぎゅっと抱えた。
(えっっ……)
ふと違和感に気づき、自分の手を見つめた。
「ちっちゃい!?」
自分の手は丸くちっちゃくて、ぷにぷにとしている。
はっと足を持ち上げると、はだしの足も短くて小さかった。
――3歳くらいの幼児みたいな手足だ。
白い布を巻き付けただけの体。
腹部をめくると、ぽこりとふくらんだ白い腹が出てきた。
皮膚もなんだか、白い気がする。ぺたぺたと顔を触ってみたけれど、見た目はわからない。
「……どうちよお……」
つぶやいてから、はっと、口をおさえた。
声も発音も、まるで赤ちゃんみたいだ。
ごほん、と咳をしてから「どうしよう」と何度かつぶやき直した。
強く意識しないと、舌がうまくまわらない。
そのとき、ざわっと風が強く吹いて――
森の奥から――一匹の大きな獣が現れた……。
ぼくはぺたんとお尻をついたままで、目を大きく身開く。
この体では、逃げるにも逃げられない。
いや、元の体だったとしても、こんな見知らぬ森で獣から逃げられるとは思えないけど。
狼……ううん、もっとずっとずっと大きい。
大人の人間よりもクマよりも大きそうに思える体躯。
ソレは光る瞳でじっとぼくを見すえていた。
ひと筋だけ差し込んだ光を浴びて立つ獣――
もふもふした毛並みは、白銀に輝いていて……
『怖い』よりも先に、不思議と『綺麗』って思ってしまった。
巨大なもふもふは、ふわりと一飛びして、ぼくの目前に降りたった。
「……アインなの?」
無意識にぼくは手を伸ばしていた。
「アイン、だよね」
もふもふは、大きな体をかがめて、ぼくの小さな手をそっと舐めた。
ざらりと温かい。
「……ルイ……なのか」
――もふもふは、よく響く低い声を出した。
「うん。ルイだよ」
「ああ……会いたかった……ルイ」
うなるようなしゃがれ声が、ぼくの名を繰り返す。
灰色の瞳がぼくを映し、黒い鼻がそっと頬におしつけられた。
(……アイン……だ!)
姿がどんなに違っても、分かる。この獣はアインなんだ。
ぼくはその大きな顔にぎゅっと抱き着いた。
「アインッ。あいたかったよ。だいすきだよ」
あたたかい毛に顔を埋める。姿は違うのに、犬のアインと同じ匂いがする。涙がこぼれた。
「ごめん、ごめなしゃい。おいてっちゃって、ばいばいっできなくて。おーち、かえれりゃくて、しんじゃって……」
泣きながら夢中で伝える。舌が回らなくて涙声になってしまって、何を言っているかきっと伝わらない。
それでも――伝えたかった。
「ルイ。私こそ謝らなくては……私はッ……きみを守れなかった。愛する主人を……」
「ううん、ぼく、びょうきだったんだもん」
「無力だった……。私を、許してくれ。もう二度と……失いたくない」
アインはぼくを毛皮の中に抱き込んで、返事の代わりにオンオンと泣いた。
ぼくも温かなアインに抱きついて、顔を埋め続けた。
なんでアインがしゃべれるのか、
ぼくがどうして幼児なのか、
そんな疑問よりも、今はただ、再会できた喜びで胸がいっぱいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます