高校生に入社試験は早い

「入社試験?」


「はい、本来は調査を十回実施しなければ対象にならないのですが、糸瀬蓮さんは特例で入社試験を受ける権利を得ました」


 封印師の少女から会えないかとメールが来たと思えば、白井が言っていた入社試験のことだった。


「白井もこれ、受けるんですか?」


「はい、白井奈緒さんは取り決め通り調査を十回達成して権利を手に入れました。今なら白井奈緒さんと同じ試験を受けられますよ。知り合いがいた方が何かと都合がいいのでは?」


 確かに受けるなら知り合いがいた方が安心はするけど、そもそも社員になりたいかと言われると微妙だ。


 給料はバイトでも十分高いし、就職するにしても高校生では早すぎる。


 しかし、昨日の兄妹を思い出す。

 ニートの兄を蔑む目で見る妹。

 自分も将来、葵に愚兄なんて言われる日が来るのかもしれない。そんなのは嫌だ。いつまでも立派な兄でいたい。


 そのために就職するのもアリっちゃアリだ。

 大学に行ったからと大企業に入れるわけじゃない。

 それなら、今のうちに就職してスキルを磨くのも一つの道だ。

 就職するのが封印師の会社という、社会的信頼があるはずもない場所だけど。

 ローンとか組めなさそう。


「伝え忘れていましたが、私たちは表向きこういう名前で活躍しています」


 机に名刺を置く。

 そこには所属部署こそ特別対策部と怪しげな雰囲気があるが、会社名は誰でも知っているような超大手だった。


「シキヤですか。名前は聞いたことがあります。建築とか、食品開発とか、とにかく手広くやってる会社ってイメージです」


 CMにも出ているし、就活生からの人気も高い。

 だが、手広くやりすぎて仕事内容がよくわからないと有名だった。


「この会社の創業者は志喜屋次郎。今も続く封印師の名門志喜屋家の人間です。当初は志喜屋家の財政のために運営されていましたが、シキヤの規模が大きくなり、業務の一環として怪異対策が行われるようになりました。もちろん、他の一般社員には秘密です」


 なんともまあ、日本を代表する大企業にとんでもない秘密があったものだ。

 よくこれまで漏れなかったと感心する。


 内部から告発があっても、誰も信じない気はするけど。


「社員になったとして、給料はどのくらい貰えるんですか?」


「歩合制なので確かなことは言えませんが、アルバイトよりは稼げると思いますよ」


 歩合制——実力次第ってことか。


「仕事内容は?」


「より大きな仕事を任されるとだけ。会社のサポートがあるので、アルバイトよりは死亡率が断然低いです」


 曖昧な返事だ。

 基本的に社員は調査を十回達成した人がなれると言っていた。

 それなら、社員の死亡率が低いのは当然である。


「拘束時間はどのくらいですか?」


 これが一番気になる。

 たとえ給料が高くても休みが少ないなら入らない。仕事に人生を捧げる社畜にはなりたくない。


「週に十時間程度です。特別対策部は何かあれば呼び出しがある程度の非常勤雇用なので、それ以外の時間は好きにしていいですよ。私も普段は中学校に通っています」


 以前見た制服姿。

 やはりコスプレなんかじゃなかった。


「分かりました。入社試験を受けます」


「了解しました。それではいつものように詳細はメールで送ります」


 少女は頭を下げてカフェから出て行く。


 そう言えばと、受け取った名刺を見る。


 名前は、志喜屋花蓮。

 少し親近感が湧く名前だった。


 苗字が会社と同じなのは引っかかったけど。


 #


 それは夕飯の時だった。


「そうだ。今度、友達とうちでお泊まり会していい?」


 葵が珍しく友達を家に連れて来ていいかと言い出した。

 葵は俺と違って友達が多い。

 しかし、我が家の懐事情もあって遊びに行かせられないことも多かった。


 そんな葵がうちでお泊まり会したいと言うのだ。俺は最近バイトで潤っている。お泊まり会程度なら余裕だ。断る理由がない。


「もちろんだとも。何人くらいの予定だ?」


「私含めて三人。ツバキちゃんと、カレンちゃん。みんな良い子だよ」


 最近、葵の口からよく聞く名前だ。

 今年のクラス替えで三人とも同じクラスになり、仲良くなったらしい。


「そうかそうか。お泊まり会がどんなものか知らないけど、きっと楽しいよ」


 俺はお泊まり会なんてしたことがない。

 まあ、当然だ。

 遊びに誘っても絶対断るやつをお泊まり会に誘おうなんて思わないだろ。

 あ、だけど今年はお金あるから遊びに行けるんじゃないか?

 高校生になって、心機一転。

 友達と青春を楽しむのも良いかもしれない。


 よし、決めた。

 今年の目標はお泊まり会をすることだ。


 今のクラスでまともに話せるのは白井しかいないけどな。


「お泊まり会では何をする予定なんだ?」


「えっとね、カレンちゃんがゲーム機を持ってきてくれるって言ってた」


 なるほど、お泊まり会ではゲームをするのか。

 トランプとかも楽しそうだな。


「あれ、それならカレンちゃんの家でお泊まり会したら良いのに、なんでわざわざゲームのないこの家で?」


「なんか、家が大きすぎてお泊まり会には不向きだって。趣がないって言ってた」


 お泊まり会には趣が必要なのか。

 意外と難しいんだな。


「へぇ、ツバキちゃんも同じような理由?」


「ツバキちゃんはニートの兄がいるから他人に見せられないって言ってた。苦労してるみたいだよ」


 どこかで聞いたことのある話だ。

 どこだっけな?


「色々なご家庭があるんだな。よし、お泊まり会の日にはご馳走を作ってやる。楽しみにしとけよ」


「やったーっ! 私、ケーキがいい!」


「……ケーキは無理かも」


 何はともあれ、葵が楽しそうで良かった。

 お金があると、人生に潤いが生まれるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る