殲滅作戦(失敗)

「それで、なんで俺に殲滅作戦の協力要請なんて出ているんですか?」


「私も詳しく知らされてないのですが、どうやら新入社員の研修も兼ねているそうで」


 横を歩く制服姿の花蓮が言う。

 都合がいいからと、放課後合流したので俺も制服だ。

 花蓮の制服は中学のブラウス。俺は高校のワイシャツ。


 妹の葵あたりに見られたら不味いので、合流地点は中学校から少し離れた位置にした。


「まあ殲滅作戦のことは分かりました。素直に引き受けます。それより気になるのは、花蓮ちゃんの体の方です。アレを飲んだ後に変わりはありますか?」


 アレとは、俺の血のことだ。

 あの時は気絶してしまったから詳しいことは聞かずじまいだった。


「……それがですね、すごく調子がいいんです。体が熱いというか、満たされているというか、とにかく実践で早く試したくて仕方ないくらいですよ!」


 花開くような笑顔だ。

 殲滅作戦の時に力を使ってみるつもりだろう。

 本人曰く、封印師としては兄弟より実力が劣るため侮られることが多かったそうだ。

 それを見返すためか、殲滅作戦へのやる気が満ち溢れている。


 ちなみに、花蓮は血を飲んだ時の状況を覚えていないらしい。俺も言うつもりはない。

 妹の同級生相手にちょっとエロかったとか言えるはずがない。


「それなら良かった。問題なさそうですね。作戦についても、わざわざ直接説明してくれてありがとうございます」


 礼儀なので頭を下げる。


「いえいえ、私からお誘いしたので、こちらこそありがとうございました」


 それではまた、と言い残して花蓮は去って行った。


 しばらくした後、スマホの電源を入れる。

 俺のスマホには妹に位置情報を送っている疑惑がある。だが、今日は電源を切っていたから大丈夫のはずだ。多分。


 葵が知ったら、また放課後デートだとか騒ぐに決まっている。できるだけ隠さないと。


 #


「今回集まってもらったのは他でもない。怪異の棲家殲滅のためだ。今日、目についた怪異は全て殺せ。一匹たりとも逃すな」


 週末。殲滅作戦の日がやって来た。

 今演説しているのは、どうやら今回の指揮官らしい。名前は志喜屋百合。花蓮の姉だ。


「怪異を殺せば、その分報酬を出す。だから沢山殺せ。殺して志喜屋家に貢献しろ。分かったか?」


「はいっ」


「おう!」


「任せてください!」


 などと、野太い声が響く。

 俺はドン引きだった。

 さっきから殺せとしか言っていない。

 特に作戦らしい作戦もなかった。

 それなのに、この志喜屋百合という人は人気者らしい。

 わいわいと活気立つ。所々でさすが百合様とか言う声も聞こえた。


 怪異を食べるために殺す、襲われたから殺すのは分かる。俺がそうだからだ。

 しかし、ただ殺すために殺すというのは中々に野蛮に思えてしまう。


 この作戦に参加しているのは合わせて四十人ほど。半分が本職で、残りは俺と同じ一般人という感じだ。


「百合姉さんは流石の人気ですね」


 隣にやって来た花蓮が言う。


「なんでアレが人気なのか俺には分からないんですけど」


「人気の理由は……頼もしい発言とそれに見合った強さですね。特に今回の場合は予定より参加人数が少ないので、不安な人は百合姉さんが頼もしいのでしょう」


「……予定よりも人数が少ないって、何があったんですか?」


「次郎兄さんです。本当はあの人が参加予定だったのですが——」


 俺が殺してしまったと。

 しかし、まだ大きな問題にはなっていない。次男の死はまだバレていないからだ。次男は重度の引きこもりらしく、滅多に部屋に出ないから部屋で生きていると思われているそうだ。


なんでも部屋の中に一年分の食料を持ち込んでいて、外部との接触を極力拒むという話だ。


「でも、それだと一人減るだけじゃないですか?」


「派閥というものがあるので、次郎兄さんの派閥丸ごと今回は参加しなかったのです」


「なるほど」


 馬鹿馬鹿しいが、権力争いというのはそういうものらしい。

 花蓮は派閥を持っていないから、自分もよく知らないのですがと付け加える。


「非封印師はこっちに集まれ!」


 演説と同じ女の声が響く。


「……呼ばれているようなので、行きますね」


「はい、お気をつけて」


 声の元に向かうと、既に大半が集まっていた。


「よし、これで全員だな。まず言っておくが、私はお前たち非封印師に一切期待していない。それでも今回の作戦に呼んだのは、将来への投資のためだ」


 志喜屋百合の言葉に、周りの俺と同じような境遇の人たちがざわめき始めた。


「私は今回の作戦でお前たちを、ふるいにかけようと思う。殲滅作戦では非封印師の死亡率がすこぶる高い。つまり、その中で生き残れた者は非封印師でありながらも強者だということだ。だからもし生き残れたとしたら、褒美として私の直属の部下にしてやろう。精々死なないように死ぬ気で頑張れ」


 それだけ言い残し、高笑いを浮かべながら封印師の元に歩いて行った。


 意味がわからないほど自己中心的な人間だった。

 だから他のやつも混乱していると思ったら——


「うおお! 百合様の直属の部下なんて大出世じゃねぇか!!」


「絶対生き残ってやる!」


「俺ならやれる。俺ならやれる」


 やる気が爆発していた。

 なんだこの温度差は。


 そうやって困惑している間に、戦闘の口火が切られようとしていた。


「——それでは、怪異の棲家に突入する! 死ぬ気で手柄を立てろ!!」


「「「うぉおおおお!!!」」」


 本職の封印師と思われる人たちが続々と森の中に入っていく。

 今回俺たちが殲滅を目指す怪異の棲家だ。

 棲家の名に相応しく薄らと霧がかっていて不気味だ。


「な、なあ俺たち非封印師は集団行動しないか?」


「いいなそれ。そっちの方が安全だし」


「私も賛成」


 二十人近くの男女が口々に同意を示す。

 しかし、その中で——


「ふんっ、お前らは揃いも揃って臆病虫か? この程度、一人でも別に問題ねぇよ。俺は先に行かせてもらうぜ」


 一人の大きな男が集団から離れた。

 男の身長は二メートルは優に超えているように見える。それに加え、横にも広いため威圧感のある見た目になっている。


「あ、じゃあ俺も別行動します」


 みんなが男に注目しているのを利用して、俺もそそくさと森の方に走った。


 後ろの方では、


「なにアレ。孤高気取ってるの?」


「あーあ、協調性ないやつだ」


「こういう時、一人になるやつって初めに死ぬよね」


 などと好き勝手に言われてしまっていた。

 しかし、これだけ大量に怪異がいるのだ。

 少しの批判を恐れて食べられないのは勿体無い。


 森に入ると、霧が濃くなって視界がぼやけた。

 数メートル先さえはっきりと見えない。


 しかし、視覚に頼らなくても聴覚や嗅覚は働いている。実際に今も、俺に近づいて来る一つの生命体を捉えていた。


 今日は刀を持ってきてないから素手だ。

 どうやって戦おうか。


 そんなことを考えていたが、その生命体が近づいて来ることで人間だと気づいた。

 何かを叫びながら走っている。


 とうとう俺の目の前に姿を現し、乱れた呼吸を整えるために膝に手を置いた。

 そして、俺を睨みつけるように見て叫ぶ。


「百合様がやられた!! 撤退しろっ!」


 ざわざわと森が騒がしくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪異の世界に閉じ込められた一般人、禁忌を犯す〜本職より強くなってしまって気まずい〜 真田キツツキ @N0raken

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ