大軍隊も夢じゃない

 切り離された俺の腕から、小さな鬼が生まれた。

 その鬼は狸たちに近づき、体に不釣り合いな刀を振り回して切り刻んでいく。

 物凄いスピードで振るわれる刀は狸の首をいとも容易く飛ばす。

 それを見た狸たちは恐怖心を見せながらも、小さな鬼を何とか食い止めようと囲っている。


 そのよく分からない状況に俺は困惑した。


 なぜ、俺の腕が自律的に戦い始めたのか。

 刃を振るいながら、それを考えた。


 まず考えられるのは、狸を食べて得た能力だということ。

 狸たちも体の一部を変形させて戦っているから似ていなくはない。

 しかし、狸の体から作られた馬とか矢は自律的に動いている訳ではない。

 似ているようで、若干違う。


 それでは、屋敷で手に入れた能力なのかと言うと、それも違う。

 これまで腕を切られることなんて数えきれないほどあったのに、それが鬼になったことは一度もない。


 それを踏まえて考えられるのは、二つの能力が合わさった可能性だ。

 例えば、屋敷で自律的な鬼を作り出す能力を手に入れていて、その素体を今回作れるようになったから初めて鬼が生まれたとする。


 そう考えると、理屈は通る。

 理屈は理屈でも屁理屈だが、矛盾はないはずだ。


 とはいえ、答え合わせができないから、あくまでも仮定に過ぎないことを忘れてはいけない。


 戦場に響く狸の悲鳴を聞きながら、俺はそう心に刻んだ。


 こういう時ステータス画面を見れたら楽なのに、と愚痴をこぼす。


 今の状態を知るためにも、ステータスが見れたらどれだけ楽になるか。

 俺の腹の中で腐っている能力たちを有効活用できるなら、どれだけ素晴らしいことか。


 まあ、そんな都合のいい物を考えても仕方ない。

 それに、切り離された四肢は使い道に困るからリサイクルできるのは素直に嬉しい。


 くっつけるより先に再生してしまった場合、残った俺の腕は役立たずになってしまう。

 自分で食べてしまおうかと考えたこともあるけど、流石に躊躇ってしまった。

 忌避感と言うのだろうか。

 これをしたら人間としてダメになってしまうというラインがそこにある。


 喧騒と共にさらなる狸の増援がたどり着いた時、戦場の向こうからラーシャが叫んだ。


「鬼のヌシ、助けはいるか!?」


 俺の周りには六体の歩兵と三体の騎兵のみ。

 大部分は小さな鬼が引き付けてくれているから結構楽だ。

 しかし、省エネで動いているのも事実。

 腕を再生してカロリーを消耗してしまったからだ。

 補給をしたいが、なかなか死体を拾うタイミングがない。


「助けはいらないけど、腹が減った」


 俺がそう言うと、どこかから狸の腕が投げられ、ちょうど俺の胸に届く。

 飛んできた方向を見ると、小さな鬼がいた。


 なんて気の利いた奴だろうか。

 まるで、腹が空いた人に食べ物を差し伸べるヒーローのようだ。


 これから彼のことは敬意を込めて小鬼と呼ぶことにしよう。


「いただきます」


 貰った狸肉を食べながら、小鬼の方を見る。


 小鬼の周りには沢山の狸がいる。

 しかし、小鬼に近づいた狸から順番に足を切られ、腕を切られ、首を飛ばされている。

 とはいえ、小鬼も無事とは言えない。

 目の前の首を切ると、背中から切り付けられる。その傷を治すたびに小鬼はさらに小さくなっていく。

 どうやら他の部位の肉を治癒に回しているようだ。

 死兵とも呼ぶべき死を恐れない戦い方は、多くの敵を道連れにしていた。

 俺もまた何体もの狸を殺していく。


 それでも、敵は増えていく。

 殺しても殺してもキリがない。


 敵が減らない現実を見て、俺は数の暴力という言葉を身を持って理解した。

 だから、俺も数の暴力を使うことに決める。

 せっかくだから狸を利用しよう。


 狸が俺を目掛けて薙刀を振る。

 その軌道上にわざと左腕を差し出す。


 すると、思惑通り薙刀が左腕を切る——かと思えば、半分あたりで刃が止まる。

 狸はそこで諦めて、薙刀を引いた。


 俺は思わず舌打ちをする。

 さっきの再現をしようとしたけど、上手くいかなかった。

 切れ味の悪い薙刀だ。


 仕方なく、右手に持つ邪気丸で残りの半分を切り落とした。


 地面に落ちた左手は一度形を崩し、その後はさっきと同じように小鬼へ姿を変えた。


「成功だ」


 俺は小さく呟く。

 どうやら敵に切られる必要はなく、しかも何回でも作ることができるらしい。


 小鬼は俺の方を向いてペコリと頭を下げた後、走って狸の方に行った。


 少し可愛げがあるように思えてきた。


 新しく生まれた小鬼も狸たちに突っ込んでバーサーカーの如く大暴れする。

 その奮闘ぶりを見ると、俺は誇らしく思えた。それはまるでハイハイを卒業した我が子を見る父親のような気持ちだ。

 実際、小鬼たちは俺の体から生まれたのだから子供で間違いはない。

 母親は知らないが、父親は間違いなく俺だ。


 そんなことを考えていると、左腕が再生した。

 さて、第三子の出産といこうか。

 まだ敵は尽きていない。

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