第33話「共同作業⑤」
共同責任プロトコルの発動と、論理的な対価カフェでの激しい論戦を終え、春馬の『孤独の最適解』のシステムは、「裏切りリスクゼロ」という絶対的な利益と引き換えに、「共同の最適解」プロトコルを発動させた。
二人は、カフェを後にし、ショッピングモールの通路を歩いていた。春馬は、依然として蒼奈との間に1.5メートルの物理的な距離を保ちながら、論理的な対価の演算を始めた。
「(若宮蒼奈という変数が、俺の生存戦略に論理的な利益をもたらした。彼女の『悪意のない論理』は、嘲笑という負の変数を完全に排除した。この利益に対し、何らかの資源で返済する必要がある)」
春馬は、人としての「感謝」という非論理的な感情を、「借り」という論理的な義務に変換し、対価を払おうとした。
「……若宮」
「なぁに?春馬くん」
「先刻、通路で発生した遭遇リスクにおいて、君の『論理的な防御壁』は極めて高効率に機能した。俺の生存戦略に論理的な利益をもたらしたことに対し、対価を支払う」
「今日の共同作業は、俺の論理的な満足度が初期予測値を200%以上上回った。よって、この対価として、時間という資源を君に提供する。君が今、このショッピングモール内で最も効率的だと考える行動に、一時間を上限として付き合おう」
若宮 蒼奈:「わぁ!春馬くん、律儀だね。じゃあ、私が最も効率的だと考える行動は……服を選ぶことだね!」
「(データ異常!服選びは目的の定量化が困難で、時間コストが予測不能である。他者の感情に依存する非効率な行動であり、周囲の視線という非論理的な変数を最大に集める高リスクな行動だ。それは『論理的な対価』として不適格だ)」
春馬の絶対防衛システムが、赤い警報を鳴らした。
「ふふふっ!違うよ、春馬くん」
蒼奈は、春馬の論理的な抵抗を楽しみながら、彼女自身の論理的なフレームを提示した。
「服選びこそ、最高のフィールドワークだよ!私たちが目指す『認知論理の領域』において、服選びは『社会的文脈における、他者の視線という非論理的な変数が、自己の幸福度という論理的な結果に与える影響』を、定量的に観測するための絶好の機会だね!」
「(演算エラー!彼女は、『認知論理』という新しい共同目標を、俺の拒否論理を破壊するための盾として利用した!)」
春馬は、もはや拒否できなかった。「服選び」を拒否することは、「論理的な自己矛盾」に直結するからだ。
「……観測の一環として、不本意ながら承認する。ただし、滞在時間は30分を上限とし、物理的な接触はゼロとする」
「ありがとう、春馬くん!じゃあ、行こうね!」
蒼奈は、春馬の論理的な譲歩に満足し、春馬の制止を無視して、近くのアパレルショップへと足を進めた。
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