第20話「蒼奈の研究活動報告」


デート翌日の夜。大学から帰宅した麗華がリビングの扉を開けると、蒼奈が昨日の興奮を隠しきれずに、ソファでそわそわしていた。


「あ、お姉ちゃん!おかえり!」


「ただいま。ずいぶん上機嫌ね、蒼奈。リビングまで嬉しさが漏れてるわよ」


「もう、聞いてよ!春馬くん、『美味しい』って言ったの!今までで一番楽しそうな顔だったよ!」

蒼奈は、妹とは思えないほど興奮した声で、昨日の出来事(研究)を報告した。


「ええ、聞いたわ。『オムライス』の話ね。で、あのワンピースを着た効果はどうだったの?」


「完璧だったよ!春馬くん、改札で別れる直前にね、『服も、映画も、オムライスも、新鮮だった』って言ったの。そして、『以上だ』って、いつものように無理に終わらせようとしてた」


「へぇ。『新鮮』、ね。つまり、彼にとって想定外の、新しいものが現れたって認めたわけね。効果抜群だったってことだわ」


「そう!そして私が『楽しかった』って言った後、彼は振り返れなかったの。彼の理論は『楽しさを排除すれば、悲しみも排除できる』でしょ? でも、彼が楽しさを経験した結果、別れ際に振り返れないほどの沈黙になった。これは、別れの後の喪失感、つまり、彼が一番嫌がる悲しい気持ちが出たってこと。つまり、彼の理論は、悲しみを回避するという目的すら達成できなかったんだよ!」


「ふふっ。つまり、自分で作ったルールで、自分を負かしちゃったってことね。やることが極端だわ、その春馬くんって子」


「お疲れ様。研究者さん。これで理論的な結果は出たわね」

麗華は、蒼奈の目を見つめた。


「じゃあ、蒼奈自身の気持ちはどうだったの?」


蒼奈の顔から、一瞬で研究者の冷静な表情が消え、いつもの女の子の表情に戻った。


「えっ……?」


「箕島くんが『うまい』って言ってくれた時、蒼奈は心底嬉しそうだった。そして、別れた後、『また会いたい』って、顔に書いてあるわよ」


蒼奈は、真っ赤な顔で俯いた。


「それは……もちろん、新しいデータが――」


「嘘ね。あの子の『論理』は言い訳だって見抜いたのは、蒼奈自身でしょう? 今、蒼奈の口から出てきた『新しいデータ』という言葉も、『会いたい』っていう気持ちを隠すための、後付けの言い訳よ」


「いいのよ、蒼奈。その『予測不能な気持ち』こそがね、面倒くさいけど、一番価値のある最高の材料なのよ。それが、あの箕島くんの『一人ぼっちでいる方がいい』って考えを、ひっくり返すための、蒼奈の最高のやり方になるんだから」


麗華は、そう言って優しく笑い、蒼奈の頭を撫でた。

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