第2話 調査
「思い当たるって言っても、そんな大したことではないんですけど……」
山瀬が話し始めた時には、ゾーンに入り集中していた。
「自分がしているバイトって、実は家庭教師なんです。今担当しているのは、高校3年生1名と、中学2年生2名なんですけど、家庭教師のバイトを始めて2か月くらいして、雫にはフラれちゃって…」
「思い当たる節はあるの?」
「雫って、意外と嫉妬深いんですよ。担当しているのが全員女の子っていうこともあって、あんまりこのバイトをよく思っていなかったんです。」
「別にやましいことは何もないんでしょ?」
「それはもちろん!ただ、高校生の子が雫と顔見知りだったみたいで…」
山瀬の眉尻が目尻にくっつくのではないかという勢いで、困った顔をしている。
「え、やっぱり手出したんじゃ…」
ニヤニヤしながら聞く粕井の顔は、小学生のいたずらっ子でしかなかった。
「ほんと勘弁して下さいよ!そんなんじゃないですって!」
「わかったわかった。結局理由もなくフラれて、可能性としては高校生とデキちゃったと思い込んだからってことね」
「そうです!ほかにもあったかもしれないけど、少なくとも僕はやましいことはしてません!」
「だってよ。なんかわかった?」
「いや……男前が言ってることは嘘じゃなさそうだな」
「そっか!わかった!ありがとう男前くん!!」
二人して席を立ち、学食を後にしようとしたとき、学食の入り口に三崎がいるのを見つけた。
「あら、コレ気まずい場面じゃね?」
粕井がそういうと同時に三崎は逃げてしまった。
「はぁ…はぁ…」
三崎は息が切れたところで、膝に手をつき立ち止まった。
「なんで…いやあの人ならすぐにわかることか…」
ストーカー被害の調査を依頼して、最初に調べるのは、依頼主の過去の交際関係だと、少し考えればわかることだった。そして、あの観察力をもってすれば、ここに来た段階でわかるであろうことも。
「なぁ!追わなくていいのかよ!今話聞けばわかることもあるんじゃねぇの?」
「今は新しい情報は来ない。めんどくさい慰め話を聞いて終わりだな」
佐嘉に制止され、驚いた顔でこちらを見てくる粕井に対し、我ながら冷たいセリフだなと思った。
ただ、今感情の話をされても真実は見えないのも事実だ。
「冷てぇやつだな!いいか女の子っつーのはな!」
「うるさいな…別に口説きたいわけじゃないんだよ」
「……そんな男いるのか…?」
溜息をつきながら、大学を後にすることにした。
後日umbrellaの二人は、山瀬が担当していた女子高生に話を聞くことにした。
「かわいいかな?本物の女子高生と話すの久しぶりなんだけど!」
「ほんとにお前には呆れるよ…山瀬に恋していて、恋人にストーカー行為する犯人だってこともあるんだぞ?」
「ん~女子高生になら!されてもいいかも…!」
真面目な顔をして悩む粕井の後頭部を、平手で叩きながらインターフォンを押す。
「すいませ~ん
家庭教師をしていた山瀬が回収しなくてはいけない教材を、間違えておいて来ちゃったと報告がありまして~」
粕井の人当たりの良さは、天才だが、見た目も相まって怪しい奴にも見えるなと一人で考えていると、玄関が開いた。
「あの……雪はまだ入院してますけど、部屋探されますか?」
「入院…?いきなりお邪魔してすいません!状況がわかっていないのですが…」
肺に空気を入れ込む。集中だ。
「え!階段から落ちた雪を見つけてくださったのは山瀬さんですよ…?」
「あ、すいません!何せうちは担当生徒の数が多いものでして、雪さんは回復されているのでしょうか」
「もう2週間経ちましたので、骨折とかの大きい怪我以外はだいぶ良くなりました。暗かったし、運が悪かったんでしょうね…」
「回復されているなら良かった!そしたら教材は退院したころにまた伺いますね!とにかくお大事になさってください!」
粕井は俺が早くここを立ち去ろうとしていることに気づき、すでに後ろを向いていた。
女子高生の家から見える角を曲がってすぐに、粕井から
「何かわかった?」
「いや…家の感じと母親の話に違和感はなかった。それに山瀬が発見したことに対しても、声のトーンは落ち着いていて、感謝の感情が強いんだろうなと思う」
「なるほど…これはもう一回男前に話聞かなくちゃいけないな~」
「お前、唐揚げ食いたいだけだろ…」
粕井は下手な口笛を吹いて、俺の声が聞こえないふりをしていた。
翌日、山瀬に話を聞きに行こうと思い粕井とumbrella事務所を出た直後、背後から三崎が声をかけてきた。
「大学で遼と何を話してたんですか?」
「もちろん君の依頼についてだよ。大学で怪しい人いないかなって探してたらこっちチラチラ見てる男前がいたからさ~」
「それより、今日は俺たちに話があったんじゃないの?」
「……今時間大丈夫ですか?」
今日はラーメン!とウキウキしながら事務所を出た粕井が、残念そうに下唇を出しながら回れ右をしている様子を横目に、三崎が大学で聞いた人物像に少し当てはまっており、違和感を覚えた。
「私…記憶喪失なのかもしれません…」
急に話し始めた三崎が、突拍子もないことを言い始めたので、ゾーンに入ろうとしていた集中力が途切れた。
「ん?記憶喪失なの?ごめん。どういうこと?」
粕井が聞き返すと、三崎は困ったような顔でこちらを見ながら話し始めた。
「昨日、クレジットの利用履歴見て、なんでこんなに支払金額が多いのかなってびっくりしたんです。よくよく見るとこれ…」
三崎が見せてきた履歴には、50,950円の履歴があった。
「このファッション通販サイト?がどうしたの?大学生の女の子が服を大量に買っちゃったってこと?」
金は貸さねぇ!と財布を抱えながら三崎をにらむ粕井を無視して、
「これ、ドレスの購入履歴なんです」
「え、ストーカーから届いたやつ?」
「はい…購入履歴見たら同じ商品を買っていたんです。でも買った記憶もないし、買う理由もないし…記憶喪失なのかもしれません…」
「カード情報を盗まれてんじゃない?」
「いや、通販サイトのマイページにもログインできるってことは、カード情報と会員情報の二つを犯人は知ってることになる。可能性が高いのは本人が買ったか、どちらも知ることができる人が犯人のどちらかだな」
「本人しか知らない情報をDMで送ってきたり、通販サイトの会員情報も知ることができる…よほど親密な人か、本人か……言ってることはわかるけど、さっぱりだな!」
財布を抱えたまま考えている粕井に、少し呆れながら三崎にはとりあえず分かったと伝えた。
「なぁ!やっぱり男前が怪しくないか?」
粕井は二人になると安心したのか、財布を机の上に置いた。
「だって会員情報を知ろうと考えていて、タイミングを伺っていながら付き合ってたとしたら、調べる事は出来そうじゃん?そもそもそんなことする奴はいないと思うけどさ」
「確かにな…ただ、ドレスを送る意味が分からない。自分がドレスを買ってあげたいと思うんじゃないか?」
「確かに…ゾーン使っても特に違和感はなかったんだな?」
無言で頷いたが、粕井も状況の違和感についてこれ以上聞いてくることはなかった。
肺に空気を入れ込む。
大きく深呼吸を続ける。
ストーカー……ドレス……なぜ会員情報を知ってまで三崎の情報で買うんだ?……女子高生……山瀬が発見……その場にいたとしたら……今回は三崎が依頼主だが、三崎を中心に事が動いていない……中心にいるのは山瀬だ……
再度大きく深呼吸をした。
「粕井。この後確認したいことが何個かある。」
「お!来たね来たね~探偵ドラマの急展開からの幕引きって感じがする!」
そうなることが分かっていたかのように、粕井は靴ひもを結んで俺を待っていた。
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