森のソロキャンプと運命のもふもふ 12
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『宛先:神様(日本エリア担当)』
よし、間違いない。さて、どうやって切り出すか。こういうのは、最初が肝心だ。感情的にならず、あくまでビジネスライクに、しかし嫌味はたっぷりと。元OLの腕の見せ所だ。
指先で半透明のキーボードを軽快に叩く。
『件名:ポイント制度に関するご確認
お世話になっております、先日お力添えを賜りました山根ことりです。
先日は異世界への転生および、数々の素晴らしい能力を付与いただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、快適なセカンドライフをスタートさせることができております。
早速で恐縮ですが、1点質問がございます。
お詫びとして頂戴いたしました1000万ポイントですが、これは使い切りの初期資金という認識でよろしいでしょうか。
もし、ポイントを増やす方法が存在するのであれば、ご教示いただけますと幸いです。
お忙しいところ大変恐縮ですが、ご返信お待ちしております。
P.S.
『人里の近く』の定義について、今後の参考にさせていただきたく、一度ご確認の上ご教示いただけますと幸いです。』
「……ふふふ、完璧なビジネスメール!」
私は一人、暗闇の中でほくそ笑む。
丁寧な文面に隠された、「森のどまん中に放り出しやがって、このポンコツ神様が!」という強い怨念。P.S.に込めたこの一撃、果たしてあの神様に届くか否か。
でも、『返信は遅いかも』って言ってたしなー。
既読スルーとかだったらマジで泣く。
神様からの返信待ち。うーん、この状況、前世で取引先に送った見積もりの返事を待ってる時の心境にそっくりだ。胃がキリキリするやつ。
もし、このポイントが本当に「初期資金(初期だけ)」で「ポッキリ価格(追加なし)」だったら?
私の全財産、約890万。これを食い潰したら、我が軍のライフラインは完全に断たれる。トイレットペーパーすら買えない未来。それは、文明人としての死を意味する!
ぶるっと、背筋に寒いものが走る。
いやいや、待てよ。
神様の気まぐれな返信を、指をくわえて待ってるなんて柄じゃない。
不確かな未来に怯えるくらいなら、もっと確実な方法があるじゃないか!
「そうだ。稼ごう」
そう、稼ぐのだ! この世界のお金(マネー)を!
ポイントが補充できるかなんて、今は考えない!
目の前にあるのは、「お金を稼いで生き抜く」という、至極シンプルなクエストだ。
そのためにはまず、情報収集。
つまり、人里に出て、この世界の経済ってやつを肌で感じないと始まらない!
【異世界インターネット接続】の地図を開いてみる。
目的地は『ハルモニア』。赤い現在地から黒い点まで、勝利へのルートを指でぴーっとなぞる。
「最短ルートは……やっぱりこの森を直進突破か」
地図上ではただの緑だけど、この5日間で嫌というほど思い知らされたよ……。この広大な森は、見た目以上に厄介な障害物(アトラクション)に満ちている!
「60キロの道のり……。まあ、やるしかないか!」
全ては、愛するコロの食生活と、私の快適な引きこもりライフのために!
……と、威勢よく天に向かって拳を突き上げてみたはいいものの……。
私、この世界の常識、何一つ知らないじゃん。
前世じゃ、初めて行くラーメン屋ですら、事前に口コミサイトで評価をチェックするくらい慎重派だったのに。いきなり異世界の街にノーガード戦法で突っ込むなんて、自殺行為にもほどがある。
「うん、落ち着こう、私。まずは情報収集だ」
深呼吸して、再び【異世界インターネット接続】のウィンドウを開く。
こういう時こそ、文明の利器に頼るべし!
期待に胸を膨らませながら、『検索』機能をタップ。
「えーっと、『ハルモニア 宿屋』っと。ポチッとな」
数秒の読み込み。頼む、大手予約サイトみたいなのが出てきてくれ……!
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