第16話 作戦開始
……まず大前提として、万が一にもハイオーガの攻撃を受けてはいけない。仮に直撃でもすれば、間違いなく無事では済まないからね。
だからヒットアンドアウェイを基本とする。具体的には隙を見て近づき、ハイオーガの脚を切り付けた後、すぐさまその場を離れ様子を窺う。
その時に奴がどのような反応を示すかはわからないが、まずは近接攻撃を加えることで、僕という不可視の存在がいることを意識させる。
──足元に目に見えない何かがいる。
普通そんな状況に陥れば、ハイオーガも一度足を止めざるを得ないはず。
こうして注意を引いたところで、次に遠方から石を投げる。
ある意味ここは賭けになるが……先ほどまで足元にいたはずの不可視の存在が、今度は遠方から攻撃を仕掛けてきた? ……そう意識を誘導できれば、ハイオーガはその存在を確かめようと僕が石を投げた場所まで移動するはず。
あとはこれらをひたすら継続し、僕という存在に意識を向け続けながら、徐々に村や町から遠ざけていく。
こうして時間と距離を稼ぎつつ、誰かしらがハイオーガの咆哮を受け、援軍を呼びにいっていることを信じて待つ……というのがこれから僕が実行しようとしている内容になる。
正直どこまで上手くいくかはわからない。
そもそも誰かが援軍を呼んでくるかどうかも賭けであるし、この時間稼ぎが意味のある行動になるという保証もない。
「……ただ何もやらずに後悔するよりはずっといい」
僕はそう呟きつつ走り続け、ついにハイオーガへと最接近する。
……こちらに気がついている様子はない。きちんとローブの隠密効果が発揮されている。なら……ッ!
ハイオーガの側で、グッと足を踏み込む。そして身体を捻った後、大きく弧を描くように鎌を振るい、その勢いのままにアキレス腱の辺りを切り付けた。
「……っ! かった!?」
手に返ってくる感触に驚きつつも、僕は素早くその場から離れる。
……どうだ?
いつでも動けるように警戒しつつ、ハイオーガの姿を静観する。
ハイオーガは僕の攻撃を受け、その歩みを止めた。次いで不思議そうに自身の足元へと視線を向ける。
……ケロッとしてるな。この様子だとダメージは無さそうか? ……いや。よく見ると微かに肌に傷がついている。
それは僕の視力でギリギリ見えるレベルのほんの僅かなもの。しかしそれでも、圧倒的格上の化け物であるハイオーガに傷をつけることができたという事実は、僕の心に少なくない勇気を与えた。
……刃が通るのなら、同じ場所を繰り返して攻撃することで、ハイオーガの動きを鈍らせることも可能か?
ふとそんなことを考え、すぐにかぶりを振る。
いや、欲張りすぎちゃダメだ。あくまでもそれは理想として置いておいて、とにかく堅実に攻撃を重ね、注意を引くことに集中しよう。
僕はそう結論付けると、ハイオーガの様子を窺いながら、タイミングを測り……再び接近する。そして先ほどと同様の位置を思いっきり切りつけ、すぐにその場を離れた。
……おっと。
目の前でハイオーガが鬱陶しそうに地団駄を踏む。その度にこちらまで届く振動に僕は苦笑を浮かべる。
……まったく、それだけでも凶悪な攻撃になるのだから恐ろしいな。この様子だと、掠るだけでも致命症になりかねない。気をつけなきゃ。
なんにせよハイオーガの動きは止まり、不可視の攻撃に注意が向いており、今のところ理想通りの展開になっているといえる。
……なら、次のステップだ。
僕は1人頷くと、ハイオーガから距離を取った。
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