第12話 夜桜栄華の転落

「姉様本当に料理うまいですね! こんな美味しい手料理を食べたのは生れて初めてかもしれません」


「大げさですって。春斗さんにも言われましたけど、私の料理はそこまで大層なものじゃありませんよ?」


「そんなことないですよ! ねっ兄様」


「ああ。本当に美味しいよ。いつもありがとう刹那」


「……いえ」


 ここ最近刹那の手料理しか食べていないけど、全く不満を感じることはない。

 それどころか、日々新たな発見ができているような気がして楽しくもある。


「兄様って、そんな顔も出来たんだね」


「そんな顔? 俺今変な顔してたか?」


「心底幸せそうな顔だよ。実家じゃそんな顔見たことなかったから」


「そうなのか? あんまり自分の顔を意識したことないから分かんないけど爽夏がそう言うならそうなのかもな」


 確かに最近は毎日幸せを感じてるし、今まで退屈でつまらなかった日常に色がついたような感じだからな。

 そう言う精神面での変化が表情に現れたのかもしれない。


「昔の春斗さんってどんな感じだったんですか? 差し支えなければ教えて頂きたいです」


「良いですよ~昔の兄様は本当にカッコよかったんですから」


「春斗さんは今もカッコいいと思いますけど」


「気を抜けば甘い雰囲気になるんですけど、兄様何とかしてください」


「どうしようもない気がするんだけど?」


 刹那にカッコいいと思われてるとわかって嬉しい反面、こう面と向かって言われるとやっぱり照れくさくもある。


「それもそっか。まあ、そんなことは置いておいて昔の兄様はカッコよかったし可愛かったと思います。ねっ兄様」


「そこで話を俺に振るのかよ」


 昔の自分が可愛かったか否かなんて本人に聞かないで欲しいものだ。

 自分で可愛い事をした自覚が無いし。

 てか、男子で可愛いってどういう事なんだ?


「凄く気になります! 教えてください」


「良いですよ~せっかくなら夕飯を食べ終わったら姉様の部屋で話しましょ!」


「わかりました! 凄く楽しみです」


「ほどほどにしてくれよ」


 水を差すわけにもいかなかったので、爽夏に変な事を言わないようにだけ言ってから二人は夕飯後にウキウキと部屋に消えて行った。


「ま、楽しそうならいいんだけどな」


 刹那が楽しそうにしている分には問題ない。

 今のうちに俺もこっちの問題を片付けておかないとな。

 全部片付いたら三人でどこかに出かけたっていいかも。


「まずは俺のストーカー問題を解決してからその後は刹那の幼馴染の件。それが終わったら秋雨高校に流れてる刹那の悪い噂の抹消。意外とやることが多いな」


 でも、どれもやらないといけないことだし地道に一つづつ終わらせていくことにしよう。


 ◇


「じゃあ、少し出かけてくるけど大人しくしてろよ? 爽夏」


「言われなくてもわかってるよ~姉様と仲良く二人で待ってるからね!」


「春斗さん、お気を付けて」


「ああ、行ってきます」


 爽夏が家に来てから初めての休日。

 俺は少し用事が出来たと言って一人で家を出た。

 理由はもちろんストーカー問題を片付けることだ。


「さて、どうしたもんかな」


 家の近くに居すぎると刹那の目に入ってしまうかもしれない。

 そう言った点を考慮して少し家を離れる。

 本当に俺は面倒ごとに愛されているのか、それとも刹那が問題を抱えすぎているのか。


「考えても仕方のない事か。はぁ」


 ため息を一つついて家から少し離れた人気のないベンチに腰掛ける。

 それから数分座っていると前方から声をかけられた。

 視線を少し上げるとそこには刹那と似た綺麗な銀髪の女性が立っていた。


「あなた、刹那の婚約者よね?」


「そう言うあなたは刹那のお姉さんでしたよね?」


「夜桜栄華よ」


 腕を組みながら自身に満ち溢れた声音で再び自己紹介をしてくれる。

 正直言ってこの人に何ら興味は無いのだけど、ストーカー問題を解決するために少しは会話に乗らないといけないのが億劫で仕方がないな。


「ご丁寧にどうも。改めまして広隆寺春斗です。それで、今日はどういったご用件でしょうか」


「刹那なんかやめて私と婚約してくれないかしら?」


「そう簡単に婚約者を変えることはできませんね。それにあなたには付き合っていた彼氏がいたはずでは?」


 村瀬樹と言う刹那の幼馴染と付き合っていたはずの彼女がどうして今、俺に婚約を申し込んできたのか。

 夜桜富次には関わるなと言っておいたはずなんだが、こいつは聞いていなかったのか?


「ああ、樹の事? あいつは正直キープみたいな感じだし。刹那と付き合ってたからちょっかい出してたらコロッと私に靡いたから付き合ってあげてた感じ。だから気にしなくてもいいでしょ」


「そう言うわけにはいかないでしょう」


「良いじゃない。そんな細かい事気にしないで。それに私の方が刹那なんかよりも百倍良いでしょ」


 さも当たり前かのように栄華は刹那のことを下に見ていた。

 なるほど。

 これが刹那の自己肯定感が低い原因か。

 日常生活において家族から常に下に見られていれば自信を失うのも納得できる。


「それはないな。お前みたいな下劣な人間と刹那を比べるだなんておこがましい。それに、今の刹那は広隆寺家の人間だ。そんな彼女を悪く言うと言うことは広隆寺に喧嘩を売っているという認識で問題ないか?」


「い、いやそう言うつもりで言ったわけじゃ」


「もう遅い。俺は自分の大切な存在を傷つける奴を許せないんだ」


 ナチュラルに刹那の事を見下したのもそうだし。

 おそらく、刹那が今まで辛い思いをした原因はこいつにある。

 幼馴染の男を奪ったこともそうだし、彼女を常に見下していることもそうだ。


「な、何を言って……」


「これから刹那が受けた苦しみのほんの少しでもお前に帰してやるから覚悟しておけよ」


「ちょ、ちょっと待ってよ! あ、謝るから」


「もうおせぇよ」


 これ以上取り合う必要もないから膝から崩れ落ちる栄華を無視して、家に向かう。

 しっかりと後をつけられていないことを確認してから電話をかける。

 内容は簡単で、夜桜富次の解雇の件を彼が務めている会社の社長に伝えておいた。

 どうやら、普段の素行にも問題があったらしい富次の解雇は二つ返事で決定した。


「あとは、幼馴染の件と秋雨高校の件だな」


 今日一日ですべては解決できないが、夜桜栄華の問題は無事に解決することができた。

 この調子で地道に進めていくことにしようか。

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