第10話 愛は偉大でした

ユーリを落ち着かせると回復魔法を使いオレの傷をあらかた治してくれた。

オレは疲れてしまい、今日はこのまま野宿することを決めた。魔物避けの魔法を施す。ユーリは焚き火を用意してくれていた。

ユーリの横に腰を下ろしネックレスを渡す。


「その魔法石、お前のことすごく助けたがっていたよ」


「そう、なんですか」


「何回も戻るなんて、お前も馬鹿だよ」


何回も人の為に死ぬなんて馬鹿だ。


「私は自分の死より、貴方を失う方が怖かったです」


真面目にそう答えるユーリに笑ってしまう。

オレだったらどうだったのだろう、と考えてしまう。きっとユーリのような真似は出来ないかもしれない、と思った。


「……その、呪いはどんな魔物から?」


「ヘルハウンドです」


珍しい魔物だった。ここら辺では出ないからだ。


ユーリは過去の出来事をポツリ、ポツリ話してくれた。


「私の村は祖母が魔法石で結界を張っていました。しかし、ヘルハウンドが迷い込んでしまったのですーー」


ユーリは悲しそうな顔をする。

そのヘルハウンドと友達になってしまったこと。

それを見てしまった村人がヘルハウンドを討伐に来てしまったこと。

ユーリが騎士団を呼んだと思い込んでしまったヘルハウンドが呪いをかけて絶命したことを話してくれた。


「そのヘルハウンド、番がいたようなんです。なのに離れてしまって……魔物なのに情が湧いてしまう。おかしいですよね」


「そんなことないよ」


1匹と1人の子供の悲劇だった。

そのまだ終わらない悲劇にオレは巻き込まれているのだろう。


「……その呪い、解き方知ってるか?」


「いえ、知りません。貴方を殺してしまう以外……」


オレは声を出して笑ってしまった。どこか骨が折れているのか、体の至る所が痛くなり悶えた。


「お前、調べろよ。解き方、もう1つあるんだよ」


「……え?」


「顔……、顔、もっと近付けて」


オレは少し恥ずかしくなった。

しかし、どこもかしこも痛くて腕ぐらいしか動かない。


「こ、こうですか?」


「もっとだよ」


目の前にユーリの顔がある。目がしっかりオレを映してオレを見ていた。

オレは嬉しかった。

片腕をユーリの首に乗せ、引き寄せる。


初めて「ユーリ」にキスをした。


ぶわっと黒いモヤがオレを覆う。しかし、それは拡散するように空気に消えた。

夜が終わり太陽が顔を覗かせる。その差し込んだ光はオレたちを温かく照らしているようだった。


「ユーリ、愛してる」


腕を離し、ユーリが顔を離す。


「顔、真っ赤だな」


きっともう触れても大丈夫だろう。

オレはユーリの頬に手を置く。


「私、やっと……」


ユーリの顔がくしゃくしゃに歪んで行く。大粒の涙が灰色の瞳から零れていく。


「うん、そうだな」


オレはユーリの頭を抱く。

苦しくて暗い長い長いユーリの旅が終わった。

胸の中で子供のように声を上げて泣くユーリをオレは泣き止むまでずっと頭を撫で続けた。






騎士団に戻れたのは夕方だった。

ボロボロのオレ達を見たアレンはオレにポーションやら回復魔法やら掛けまくる。

その後ろで怒り心頭の様子でこちらを見ていたバルトの姿は見ない振りをした。

色々落ち着いたのは夜で、ユーリは、オレの部屋にいた。


「ネックレスは?」


「呪いが消えると同時に砕け散りました」


「……そうか」


ユーリの腕にはオレがあげたブレスレットがいた。


「私にはあれはもういらないものです。今はこれが私の大切なものです」


「ユーリ……諦めないでいてくれてありがとう」


「……私はただ、呪いの解除が分からなくて貴方に会いたくて戻っていました」


会いたいだけで死ねるお前がすごいよ、とは口には出さなかった。


「最初は10年前、次は9年と戻って行ったのは驚きでした。徐々に貴方と居られる時間が減る度に苦しくてたまらなかった」


「……もう、ずっといられるよ」


「私が横にいてもいいですか?」


「ずっといた奴が何を言ってるんだよ」


ユーリはオレの頬に手を添える。


「……ずっと、お慕いしておりました」


「知ってるよ」


ユーリはオレの髪紐を取る。はらり、と長い黒髪が垂れる。

ユーリが啄むようなキスを落としてくる。ベッドにゆっくり倒される。


「ずっと一緒にいて下さい」


「うん、一緒にいよう」


「魔物から貴方を守ります」


「じゃぁ、オレはお前を守るよ」


「愛してます。アルト様」


「うん、知ってる」


オレたちは、初めて夜を迎えた。

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