第6話 気になります

解放されたのは日が昇る前だった。


「そろそろやめろって……んっ」


さっきからずっとキスをされている。

しつこいくらいに。

このままだとオレの部屋でユーリが目が覚めてしまう。


「も、自分の部屋に帰れ!じゃないと怒るぞ」


ピタリ、と体が止まる。乱れた服装を整え、ふらり、とユーリは出て行った。

オレは盛大なため息をつく。何も知らないユーリのために服を整え、横になる。

目を閉じると頭痛がした。


ーーまただ。

オレの頭に記憶が流れ込んでくる。



オレは長い廊下を走っていた。腕を捕まれ、どこかの部屋に連れ込まれる。

恐怖で震えるオレを押し倒すユーリの瞳は禍々しい赤だった。

オレの抵抗虚しく体が重なり合う。


暗転し、目を開けばあられもないオレの姿を見て涙を流し絶望するユーリの姿があった。



「ーート様、アルト様」


目を覚ますといつもと変わらないユーリがいた。


「……部屋に戻れたのか」


「何か仰られましたか?」


「いや、何でもないよ。おはよう、ユーリ」


また、オレには心当たりがない記憶だった。

そもそもユーリとの体の関係が始まったのは最近だ。

だが、体はどこか覚えている気がする。最初の頃にも感じたがオレの体はユーリを簡単に受け入れていた。


「アルト様、何か深く考えていますね」


「ああ、ちょっとな……違和感が凄くて」


「それはそれと関係あるのですか?」


オレの体に散った赤い印を指さす。

やっと消えたのにまた付けられてしまったのだ。


「……止めさせた方がいいと思います」


「それが出来たら苦労しないっていうかさー……嫌でもないしな」


「そうですか」


そう、嫌ではない。むしろ受け止めてあげたいと思うくらいだ。

おかしな話だな、と自分でも思う。


「髪、結っていきますね」


慣れた手つきで髪を梳かし、結っていく。

この時間が1番穏やかでオレは気に入っていた。


「なぁ、今日、久しぶりに街に行かないか?新しい髪紐が欲しいんだ」


「私とですか?」


「当たり前だろ、他に誰がいるんだよ」




残っている隊をアレンに任せ、オレたちは賑やかな街に出ていた。


「あ!アルト様だ!」


「アルト様、いつもありがとねぇ。ほら、これ持っていきな」


「坊ちゃん、これも持ってけ!」


両手には沢山の食べ物などが積み上がっていく。それを全てユーリに渡す。

魔物から守っているということが大きいのだろう。

みんなが笑っている。オレはそれだけで嬉しい。どんな魔物からでも守りたいと思う。

暫く歩いていると道端に髪に付ける装飾品出している商人がいた。


「お、ちょっと見せてくれる?」


「これはアルト様、これも良かったらどうぞ」


商人は別のところから髪紐も出して来る。

様々な色があった。

ひとつの紐を持ってユーリの髪に当てる。


「……同じ色だな」


死ぬ前に付けていた色だ。

もしかしたらユーリもここで買ったのかもしれない。


「店主、これ買うよ」


「アルト様。ひとつよろしいでしょうか」


「なんだよ、急に」


「どうしてこの色なんですか?貴方に似合う色はもっと沢山ありますよ」


なぜか分からないがこの色を手に取ってユーリの髪に当てていた。

この色が欲しい、と思っただけだった。


「…なんとなくだよ」


「はいよ、アルト様。もう付けていくかい?」


「そうだね、もう付けていくよ。ありがとう」


髪紐を店主から受け取り、今朝縛ってもらった髪紐を外しすみれ色の髪紐を付ける。

そのまま宝飾店にも入る。

ユーリの新しいネックレスを買おうとした。


「ここへは何しに?」


「んー、お前のネックレス。それはもう錆びてるだろ?」


「このままでいいです」


ユーリが胸元のネックレスを握る。何かに縋っているかのような顔をしていた。


「いや、でもーーー」


「これでいいんですっ。お願いです。本当に大丈夫だから」


必死な様子で、苦しそうだった。

オレはそれでも、と店の棚に目を配らせる。

目に止まったものがあった。


「……わかった。じゃぁ、これにしよう」


オレはブレスレットを取って、なるべく肌が触れ合わないようにユーリに付ける。

サファイアの宝石が1つはめ込まれたシンプルなものだった。


「これは……」


「これならいいだろ。店主、これくれる?」


店主に金貨を払い、店を出た。

帰り道、ユーリは何も話さなかった。

俯いて顔は見えなかったが喜んでいるのかもしれない。

オレも何も話しかけなかった。

自分でも何してるのか分からなかったから。

オレの瞳と良く似た色を渡した。

なぜだか分からないがそうしたかった。

なんとなくだがユーリのことを意識し始めているのかもしれない。

そう思うくらい今のユーリの気持ちが知りたかった。


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