第12話 幸せな日々

目を覚まし、服を着替え、部屋を出る。

廊下を歩き、階段を上り、角を曲がる。

部屋をノックし、入ればアルト様がいる。


「アルト様、アルト様、朝ですよ」


優しく肩を揺すると、体を起こすアルト様が大きな欠伸をしていた。

幸せな毎日を送っていた。

あの日からもう1年。帰って来てはバルト様に二人で怒られたことが懐かしい。

バルト様から与えられた罰は、食堂にて料理や清掃の手伝いを半年行うことだった。アレンは腹を抱え笑っていた。


「んー、おはよう」


アルト様の寝着のボタンを外していく。


「昨日はゴブリンが数体出たようですが問題なかったようですよ」


「そうか、良かった」


肌には点々と私が付けた印が付いていた。それを見てついキスをしたくなってしまい、肩にキスを落とす。


「わ!なんだよ」


恥ずかしそうに肩を触るアルト様の左手には指輪が嵌められていた。それは私の左手の指にも嵌められている。

私の不安を察したアルト様からの提案で買ったものだ。

シューベルト領では私たちの関係を知らない者はいない。アルト様も別に隠す気がないのか、たまに私にくっついてくる。


「好きですよ。アルト様」


「知ってるって」


アルト様は素っ気ない感じを出すが、耳が真っ赤なのを知っている。

それだけで私は満足だ。


更衣が終わった後は、アルト様の髪を結っていく。髪にくしを通すと気持ち良さそうにアルト様は目を閉じる。

この時間が好きだ、とアルト様は言っていた。私も同じように好きだ。黒い髪に私の色の紐を付ける。

今日も怪我なく過ごせますように、と願いを込めて。

最後に黒髪にキスを落とす。


「そうだ、そろそろ時期だろ?」


「そうですね」


窓から覗く木は茶色に染まっている。そろそろ友と祖母が亡くなった時期だ。


「オレも一緒に行こうかな」


「いえ、私だけで行きます」


「……そうか」


一緒に行きたかった様子のアルト様の手を握る。

私も本当は一緒に行きたい。しかし、直ぐには帰って来れないのだ。仕方がないことはお互い理解はしている。


「すぐ帰って来ます」


頬にキスすればお互いの視線が通い自然に唇にもキスをする。


「絶対だぞ」


「はい、もちろんです」




その2日後、私はアッシュフォード村に帰省した。


村の近くにある墓地に私は来ていた。白い花束を祖母の墓に置く。


「おばあちゃん、今年も来たよ」


呪いが解けた後にも一度村を訪れていた。その時はアルト様も一緒だった。

優しい風が私の頬を撫でる。

幸せ?と聞かれているような気がした。


「うん、幸せだよ。とっても」


「ちょっと待ってー!」


「ここまでおーいーでーー!」


村の子供が私の横を通り過ぎて行く。


「おばあちゃん、ありがとう」


私は子供達を追って丘の上に上がる。そこには空き家があった。子供達が出たり入ったりしていた。相変わらずここは秘密基地なのだろう。


私はもう1つ用意しておいた白い花束を置く。


「お兄ちゃん、これなに?」


子供達が寄って来た。私は子供達に目線を合わす。


「友達に送るプレゼントだよ」


「ふーん、私もプレゼントする!」


「僕も!」


そう言って子供達は色とりどりの花を詰んでは花束の側に置く。


「大きな花束になったね!」


賑やかな花束がそこには出来ていた。

寂しそうな顔をしていた彼は、今は笑っているのだろうか。

強い風が吹く。花びらが空に舞った。

それはまるで楽しそうに。


「そっか、君ももう悲しくないんだね」


私は手に落ちて来た花びらを見て笑った。


「また来るよ」




アルト様の濡れた髪が湯船に浮かんでいる。私は足の間にいるその人を後ろから眺めていた。

急いでアッシュフォード村から帰って来たのにどこか不機嫌なのだ。


「アルト様、怒っているんですか?」


黒い髪を掬うとぽたぽたと水が滴る音が響く。


「早く帰って来たじゃないですか」


返事が返って来ない。私はアルト様の髪をかき分け、首にキスをする。


「何か言って下さいよ」


「…………一緒に行こう、って言って欲しかった」


「でもそれは無理じゃないですか」


「分かってる。だけど、一緒に行きたかったんだよ」


私は拗ねているアルト様を後ろから抱き締める。


「私はもう悲しくありませんよ」


「……それは、本当か?」


「はい、祖母にも友達にも笑って会って来れました。アルト様のお陰です」


肩や首にキスを落とす。


「ならいい」


耳が真っ赤になっていくアルト様に私は愛おしくなる。耳にキスを落とし、首筋に舌を這わせば肩を揺らす反応が返って来る。


「好きです、アルト様」


「知ってる」


「愛してますよ」


「……おれも」


恥ずかしそうにアルト様が私の方を向く。


「オレも、愛してる」


私は堪らず彼の唇に深いキスを落とした。

そして、一つのベッドで共に朝を迎えた。

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