2 訪問者
「旦那様、旦那様。奥様にお会いしたいと仰っておられる方が、いらっしゃったのですが」
「え? 誰?」
執筆中だった
「それが、フードを被っておいでで。お顔を見せてくださいとお願いしたのですが、とても用心なさっているようで見せて頂けませんでした。お名前もお伺いしたのですが、それも直接会ってと申されまして」
「う――ん。誰だろう?」
「誰か、尋ねて来る予定でもあるの?」
私は聞いた。
「いや。今日は無いんだけれどもね」
戦いが終わったとは言え、私の
「いいよ。
と言うと、
「いや、そこまで用心しなくても。……。でも、まあ。あいつの時は、突然だったしなぁ」
あいつとは、きっとアルキナの事だな。
「あ、あれは、油断しただけだから」
少しムッとなって言い返した。
「あ、はいはい。そうですね。じゃ、玄関までお通ししてください。何か怪しければ、お帰り頂こう」
「はい。旦那様畏まりました。オルト様方にも、念のためおご連絡しておきましょうか?」
うむ、これは出来る使用人だな。
私だけでは対応できない時に備えて配慮してくれる。
「いや、まだ大丈夫だよ。その時お願いするから」
「はい。畏まりました。では、呼びに行ってまいります」
使用人は執筆部屋を出て、屋敷の外の門の所に向かって行った。
オルトに連絡すると、少し大ごとになるかもしれない。
ましてや、ルナの耳に入ったら、有無を言わさずフードの女性に切りかかって行きそうだ。
オルトという男は、元帝国暗殺部隊の第1位で、現在はリンド皇国・第三特殊守備隊の隊長を務めている。
ルナも帝国暗殺部隊の出身で、私が抜けた後に帝国暗殺部隊の第1位でとなった女性暗殺者だ。
今は、皇太子特殊守備隊1番隊隊長アミュレット・ブクリエの奥さんとなってしまった。
そう、なってしまったのだった。
オルトは、私とルナが抜けた後、元帝国暗殺部隊の第1位となった。
そして、なんやかんやでリンド皇国に来た。
ルナは、特に皇国としての役はないけど、私の補佐役として動いてくれている。
「
私は前回の苦い教訓から、念のために剣を装備した。
「え? あ、そう? まあ、しょうがないか」
普通なら下の応接間まで案内し、私達がそこに向かうのだけれども、今回の訪問者はフードを脱ごうとしないらしい。
名前すら名乗るのを
追い返しても良かった。
だけれども、使用人の様子からとても重要な話をしに来たと、私と
だから会おうと思ったのだが、万が一の時、屋敷内で暴れる訳にもいかない。
玄関を出て、ドアの前でフードを被った女性が来るのを私達は待った。
使用人に連れられて、そのフードを被った女性は歩いて来る。
「どんな怪しい恰好かと思ったけれど、ちゃんとした感じに見えるね」
と、
「そ、そうね」
私は、答えた。
そう答えながら、剣に手をかけた。
フードの女性は、ゆっくりと歩いて来る。
隣の使用人も
当たり前だろう。
だが私は違っていた。
今まで味わったことの無い緊張感が、私を支配していた。
(私は。……、私は。この女を警戒しているのか? 何で、こんな気持ちに?)
柄に手を添えているだけだったのが、いつでも抜ける様にしっかりと握っていた。
そして、フードの女性と使用人が、私達の近くまでやって来た時。
「待て! お前は、誰なんだ?」
私は、フードの女性の喉元に向けて、剣先を突き立てていた。
「リ、リリィ? どうしたの?」
「リリィ様?」
フードの女性は、少し驚いたような表情をして顔を少し上げた。
少しだけフードの中の顔が見えた。
「リリィ。剣を納めてよ。どうしたの? 何か感じたの?」
「リリィ?」
その後、
「!」
戸惑う私。
そして、それは、フードの女性も同じ様子だった。
「あの、すいません。フードを取って頂けませんか? 失礼な事をしていますが、私達も色々と危険な目に会って来たので用心しているので」
下手をすれば、命の危険もあるかもしれないのに。
私の異常な感じを、
「……。これは気が付きませんでした。失礼しました」
そう言うと、女性は頭に
「申し訳ございません。私も、用心深くなっておりましたので変な警戒をさせてしまいました。お許しください」
フードの下の女性は、シャトレーヌと同じぐらいの年齢の人だった。
襟元の隙間から、”前の国”の女性神官が着ていたという服が少し見えた。
フードの女性は私の顔を見ると、優しく微笑んだ。
(何? 今笑ったの? 何故?)
「お名前を伺って宜しいでしょうか? 直接会ってから名乗ると
「重ねて大変失礼しました。初めまして、
「モイラさん?」
「はい。大神官となられたプレア様に仕えておりました。プレア様とは、リリィ様の母上様で事でございます」
「え? リリィのお母さんの? リリィのお母さんの名前は、プレアと言うの?」
「はい、その通りです。まだご存じなかったのでしょうか?」
少し、驚いた表情をするフードの女、モイラ。
「ええ。初めて聞きます。私達も、やっと戦いが終わって、これからどうしようかと思っていたところなので」
「リリィ? 聞いた? リリィのお母さんと一緒に神官をされていた方だって? お母さんの名前、プレアと言うんだって」
「う、うん」
と、私。
「
モイラという元神官の女性は、お詫びの言葉を言った。
「い、いいや。良いんだ」
そう言って、私は剣を
手は、まだ軽く震えている。
柄にもなく緊張していたんだろうか?
「じゃ、中へお入りください。あ、応接室までご案内して」
「はい、旦那様。ではモイラ様。ご案内いたします」
「ありがとうございます」
使用人の案内で、モイラさんは屋敷に入った。
私達も、それに続いて行く。
「ねぇリリィ。フェイスには伝えておこうよ。フェイスならモイラさんに付いて、父上の皇帝様から何か聞いているかもしれない。フェイスも崩壊前の”前の国”の事は知りたいだろうし」
「う、うん。そうね。任せる」
私が、そう言い終えると、
「大丈夫だよ。あの人は、悪い人じゃない」
と、
「……」
私は、空を見上げて少し考えてから答えた。
「そうだね。自分でも、何であんな風に警戒してしまったかわからないんだ。こんな変になったのは、
私は、初めて
「うん、まあ。でも、……。僕から見ても、ただ者ではない感じはするけどね」
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