第6話 お世話人形

―幼児向け用品リユース店 アルバイト 辻野さん(仮名)の話―




 お世話人形とは、幼児が人形のお世話をすることによって愛情やおもいやりを育む、情操教育を兼ねた玩具である。


 人間の赤ちゃんを模して作られており、人形の重さや頭部と体のサイズ感、黒目がちな瞳など、「こわい」と感じる人も少なくないようだ。


 




 辻野さんが勤める店は子供服やベビー用品、幼児向け玩具等を取り扱っている。そこで辻野さんは女児向けの玩具を主に任されていた。その取扱い品目の中にお世話人形もあった。


 ところで、人形というとホラー漫画や小説の世界では呪いや祟りとセットで不気味なものとして扱われることがしばしばある。ましてや中古となると、以前の持ち主の因縁やら怨念やらで、より一層恐ろしい存在になり得る。


 しかし辻野さんはこの仕事を始めて以来、何百という数の人形を取り扱ってきたが、ホラー漫画のような怪奇現象にあったことはなかった。人形の髪が伸びたことも、人形が話したことも、人形の表情が変化したことも、只の一度もなかった。したがって辻野さんは、呪いやオカルトなどは全く信じていなかった。そんなものは創作物だけのものだと割り切っていた。


 そんな彼女だが、ただ一度だけ、気味の悪い体験をしたことがあるという。


 お客様から買取ったお世話人形を、クリーニングして販売するために状態チェックしていた時のことだった。


 髪の毛の乱れ。手足の布の破れ。内部の針金の折れ。洋服のシミ。その日も手際よくチェックを進めていた。幼児が使っていた玩具であるから、思いもよらぬ損傷があることがある。服をめくると、人形の体中に落書きがあったり、布で出来た胴体に黴が生えていたりすることもある。沢山の人形を、素早くも見落としの無いように、次々とチェックしていった。


 ある人形を手にしたとき、辻野さんは違和感を覚えた。


 いつもと手触りが違う・・・。


 服の下の胴体がデコボコしている。渇いたご飯粒のかたまりでも付いているような硬い手触りだった。


 不思議に思いながら服を脱がすと、体があらわになった。


 何だろう。白い小さな粒がいくつも・・・。


 「うっ・・」


 腹、へそ、わき、胸、背中、腰、肩、腿の付け根。布で出来た肌色の体に、白い小さなものがおよそ20か所、糸で縫い付けられている。


 それが何か気付いた辻野さんは反射的に人形を手放した。


 辻野さんの様子に気付いた同僚が近づいてきた。


「これ、乳歯じゃない・・・?」


 


 人形はそのまま廃棄処分された。




 この話を辻野さんに伺った際に、気になったことを一つ質問してみた。


「防犯カメラや買取データなどから、その人形を持ち込んだ客を特定しようとしなかったのですか?」


 辻野さんは「そんな怖い事しませんよ」と答えた。


 「もしそのお客さんが誰か分かっちゃったら普段通りの接客出来る自信ないですよ。あんな気味悪い人形、健康祈願なんてこと絶対にないですからね・・・。それに・・」


 辻野さんが最も気になるのは、


「・・・あれだけの数の乳歯、いったいどうやって手に入れたんでしょうか」

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