第3話

放課後。俺たちは2年B組の教室を早々に抜け出し、いつもの溜まり場である駅前のハンバーガーショップへ向かった。

 この世界のファストフード店も、看板のメニューに「魔力回復(MP)セット」などという妙な文字がある以外は、驚くほど俺たちの知る日常のままだ。


 俺はトレイに置かれたアイスコーヒーを一口飲み、喉を潤した。三十代の胃袋なら少し躊躇う冷たさだが、十六歳の肉体にはこれくらいが丁度いい。


 「……さて。改めて、情報の整理をしようか」


 俺が切り出すと、健太、直樹、美咲の三人が真剣な表情で頷いた。

 周囲に客はまばらだが、俺たちは念のため、奥のボックス席で声を潜めた。


 「まず、俺のスキルについてだ。ステータスに出ているのは【既視感(デジャヴュ)】。体育の授業で確信した。これは、初めて見る相手の動きや魔力操作を、『過去に経験したことがある感覚』として脳に誤認させる能力だ」


 「それって、つまり……」


 美咲がポテトを摘む手を止めて、俺を見つめる。


 「ああ。予備動作の時点で次の一手が分かるし、魔力操作の正解も直感的に導き出せる。そして……石動との模擬戦で新しいスキルが派生した。【既視的猿真似(デジャヴュ・コピー)】。一度見た動きを、そのまま自分の肉体で完璧に再現できる力だ」


 「マジかよ……」


 健太が絶句した。直樹もメガネのブリッジを押し上げ、鋭い目で俺を見る。


 「驚異的だね、新。本来、スキルの派生には数年単位の修行が必要だと歴史の教科書にはあった。君の【既視感】という特性上、成長のプロセス自体を『経験済み』としてスキップして、芋蔓式にスキルを増やしていける可能性がある」


 「そうだと思う。このスキル、成長の速度が通常の人間とは根本的に違うみたいだ」


 俺の報告を終え、自然と視線は他の三人に集まった。


 「次は俺だな」


 健太が少し興奮気味に、しかし力強く言った。


 「俺のスキルは【剛腕】だ。これ、最初は攻撃の瞬間に威力が上がるような一時的なバフスキルだと思ってたんだけど、全然違った。根本的な『筋力のスペックアップ』、それも激増だ。重い荷物を持って歩いても全く息が切れないし、それに伴い支える身体の芯が鋼鉄の柱になったみたいに安定してる。攻撃力が上がるっていうか、重武装を軽々と使いこなせるような圧倒的なベースパワーが手に入った感じだわ」


 「なるほど。バフじゃないなら、魔力を流せば常にその怪力で動けるってことか。前衛としてこれ以上ない資質だな」


 俺が頷くと、次に直樹が口を開いた。


 「僕は【構造把握】。対象に触れることで、その内部構造や欠陥、魔力の流れが図面のように頭に浮かぶんだ。……新、これって戦闘以外でも幅広く利用できる。もし僕が将来『鍛冶』なんかの技術を覚えたら、完璧な設計図に基づいた極めて強力な武器や魔道具を設計・製作できるだろうね。それに実戦なら、ダンジョン内のトラップ探知やその解除、敵の急所の特定にも応用できるはずだ」


 「……設計から攻略時のスカウター役までこなせるのか。頼もしすぎるな」


 最後に、美咲が少し控えめに、しかし意志の宿った瞳で言った。


 「私は……【光の加護】。ステータスを確認して試してみたんだけど、手をかざした相手の疲れを少し取ったり、小さな擦り傷を治したりできるみたい。……戦うのは怖いけど、みんなの役に立てるなら、精一杯やるね」


 「美咲、そのスキルは魔力レベルが上がれば相当化けるはずだぞ」


 不安そうな美咲に、俺は確信を持って言葉を重ねた。


 「今は小さな癒やしでも、出力が上がれば広範囲の浄化や強力な障壁にもなるかもしれない。派生スキルだって期待できる。俺たちの命綱になるのは美咲だ、頼りにしてる」


 「……うん。ありがとう、新くん。私、頑張るよ」

 「よし、全員のスキルの傾向は見えた。……ただ、一つ断定できることがある」


 俺は手紙の内容を思い返し、仲間に告げた。


 「あっちの俺たちは、自分たちを『落ちこぼれ』と言い、スキルを使いこなせなかったと言っていた。でも……俺のこの【既視感】があれば、どんなスキルだろうと使いこなせないなんてことはまずあり得ない。一度見れば正解が分かるんだからな。つまり、今俺たちが持っている力は、あっちの連中が持っていたものとは根本的に別物だろう。魂が入れ替わったことで、俺たちの資質に合わせてスキルが再定義されたんだろう」


 「なるほどね。あっちの僕たちがハズレを引いたのか、それとも僕たちの資質がこの力を呼び寄せたのか……。いずれにせよ、僕たちの手にあるのは『本物』だということだね」


 直樹が納得したように頷く。


 「ああ。俺たちがこの力を限界まで引き出せれば、絶望して逃げ出した彼らの代わりに、この平行世界で頂点まで駆け上がれるはずだ」


 「……検証しよう、ってことだな?」


 健太が拳を鳴らす。


 「ああ。週末、学校の近くにある低難易度の『地下型ダンジョン』に行ってみないか。実地でどれだけ通用するのか、俺たちの力を試すんだ」


 「……賛成だ。あっちの僕たちがなぜ逃げ出したのか、その理由を肌で知っておく必要もあるしね」


 三十代の慎重さを、十六歳の全能感がじわじわと侵食していく。


 「決まりだ。週末までに、各自で準備を整えよう。……俺たちの初陣だ」

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