日本代表に選ばれるレベルの高校球児・東堂龍は、突然昭和時代の野球部員・西大路英虎の身体に憑依してしまう。令和に生きる彼からすれば当時の練習は非効率の極み。龍はその非効率さを監督に正面から指摘し、さらに体罰を行おうとする監督にカウンターパンチまで決めてしまう。
しかし、このことをきっかけに野球部の中心となった龍は、最新知識を活かした指導によってチームを改革していくことに。根性論や精神論が重視される当時の高校野球だが、現代っ子の龍はそうしたやり方をロジカルな形でズバズバと切っていく。
しかし、口先だけでは誰もついてくるわけがなく、当然中には反抗的な態度を取る部員も。本来なら二刀流のスーパーエースだった龍だが、いま彼が宿っているのはあくまで一般的な高校生である英虎の身体。この英虎の身体能力で、いかにして周囲から認めてもらえるだけの実力をつけるかという練習風景も見どころである。
また本作が優れているのは、昭和のやり方を全否定するのではなく、当時の部活動の美点にもきちんと目を向けている点だ。未来的な視点から正論を語る龍だが、その考えが常に正しいとは限らない。そうしたバランス感覚を備えているからこそ、本作は単なる知識チートにとどまらず、リアリティがある青春スポーツ小説として楽しめる作品だ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)