スコットの天敵

 翌日、スコットは生徒会室で項垂れていた。


「うわっ、まだその調子なのか!」


 昼食を取ろうと生徒会室にやってきたアーサーだったが、灰のように真っ白になっているスコットを見て、驚かずにはいられなかった。



「だって……」


「え??」



 耳を寄せなければ聞こえないほど小さい声で、スコットは言った。



「亡き父上の想い、ヒスクリフ家の復興、学園の存続……さまざまな想いを背負って挑むはずの選抜戦を、まさかアリストスの道楽なんかに託してしまうとは……。わずかな可能性に賭けるしかなかったとは言え、グレイヴンヒース領に住むすべてのものに申し訳ない」



 領土に学園がある。それは明るい未来の象徴でもある。なぜなら、学園には未来ある若者たちが通い、将来的には領土の発展のために活躍するからだ。そんな若者を増やすため、支えるため、多くの人が集まることから、学園があれば領土の発展が望める。


 これが、スコットがヒスクリフ家を復興し、再び学園を活気づけようとする、もう一つの理由でもあった。



「そんなに不安ならば、もう一度候補者を探しなおすか?」



 提案するアーサーだが、スコットは息を漏らすように悲しい現実を物語る。



「既に朝から百人に声をかけた。しかし、誰もが苦い顔を見せて、今回は辞退する、と」


「賄賂の効果は抜群、というわけか」



 関心するアーサーに、スコットの顎がわずかに傾く。たぶん、頷いたのだ。



「スコットせんぱーい!」


 葬式のように静まり返っていた生徒会室に、やたらと明るい声が、爆弾でも放り込まれたように響いた。響き渡った。


「げっ、ジュリア嬢!!」



 先程まで灰のように真っ白だったが、スコットに生気が戻り、戦闘態勢を取るように立ち上がった。



「ええ、そうです。貴方のジュリア・コウヅキが参りました!」


「な、ななな、何の用だ!!」


「何の用も何も。選抜戦について詳しい説明があるから、生徒会室に来いと仰ったのは先輩では? 時間は指定されていませんでしたが、先輩のご都合がよろしい時間はきっと昼食の時間だろう、と昨日の夜から健気に考えていたのです」



 両手を頬の横で合わせて、恋する乙女のように語るジュリアだが、スコットからしてみると、天敵が殴りこんできたようなものである。



「ふざけるな。僕が賄賂の話を許したと思っているのか? 君と話すことなど、何一つない」


「あらあら。しかし、私以外のロゼス候補が存在しています? 多くはウェストブルック派閥に下り、それに漏れた生徒は賄賂……もとい、突然の幸福が舞い降りて、戦う必要はなくなった。故にモチベーション、フルマックスのわたくしが一番手かと思いますが?」



 自分の行いをやや肯定的に説明し、スコットを納得させようとするジュリア。しかも、それは現状を的確に現しているものだから、スコットは反論がなかなか出てこなかった。


「だがな、ジュリア嬢!」


 スコットは何とか言葉を絞り出す。



「デュオフィラ選抜戦は生半可な気持ちで参加できるものではない。……血と汗が滲む厳しい戦いだけでなく、人の欲望と嫉妬が策略となって交わるような、恐ろしい戦いの日々が続くんだ。君のように道楽だけで参加してしまったら……」


「まぁまぁ、スコット先輩は私の身を案じてくださっているのですか。これほどの美男子に大事にされた経験、前世でもなかったので、何だか照れてしまいますわ」


「違う。遊び半分は迷惑だ、と言っているのだ」



 前世とは何だろう。気になるが、これだけ話の通じない女に訊ねたところで、余計に混乱するだけに違いない。スコットは、どうやってこの迷惑令嬢を追い出してやるか迷っていたが、新たな客が生徒会室に訪れるのだった。



「スコット。スコット・ヒスクリフはいるか?」


「アルバート……!!」



 生徒会室にやってきたのは、 鋭い目つきの男は、アルバート・ウェストブルック。デュオフィラ選抜戦の参加を目論み、学園を手中に収めようとしているだろう、本当の意味でスコットの天敵である男だった。

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