第23話。

 王都の喧騒から少し外れた場所に、その家はある。


 立地は悪くない。

 利便性も、防御も、逃走経路も考えて選んだ。

 拠点としては、申し分ないはずだった。


 扉を開けると、空気が少し重い。


「……味気ない部屋で、すまない」


 そう口にしてから、

 本当にそうだろうか、と一瞬だけ考える。


 家具は最低限。

 だが、よく見れば、

 人がいた痕跡は残っている。


 使われていない椅子。

 埃をかぶった食器棚。

 壁際に寄せられたままの寝具。


「昔ね」


 べヴァに向けて、特別なつもりもなく言った。


「何人かで、ここに住んでた時があった」


 一時期だけ。

 長くは続かなかった。


 実力の差は、最初から分かっていた。

 無理をさせている自覚もあった。


 それでも皆、最初は言った。


 ――大丈夫です。

 ――ついていきます。


 結果は、同じだった。


 誰かが怪我をする前に。

 心が折れる前に。


「……自分には、ついていけない」


 責められたわけじゃない。

 嫌われたわけでもない。


 ただ、

 成立しなかった。


 だから、この家は途中で止まっている。

 人を迎える準備を、やめたまま。


「空いてる部屋はいくつかある」

「好きに使ってほしい」


 決めつけたくはなかった。

 選ぶのは、彼女だ。


 それから、言葉を選ぶ。


「これから、忙しくなるかもしれない」

「毎日は帰らないと思う」


 期待させたくない。

 誤解もさせたくない。


「けれど——」

「君の家だと思ってほしい」


 拠点ではなく。

 仮の宿でもなく。


 べヴァは少しだけ考えてから、静かに頷いた。


「……それなら、助かります」


 無理をしていない声だった。


 ああ、

 この人は、追いかけていない。


 並んで、立っている。


 人と組むことを、

 諦めたわけじゃなかった。


 ただ、

 成立する形を、

 今まで知らなかっただけだ。




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