第2話 1日目

 伊藤美咲は時計に目をやった。リビングの時計の短針は7を示し、長針はすでに4分の1を過ぎている。


「コウちゃん、もう行かないと。玄関で靴履いていて」


 美咲は自分の3歳になる息子、浩平に、叫ぶように声をかけた。


 美咲の朝は、毎日が戦争だった。


 浩平を保育園に連れて行き、満員電車で出社する毎日。


 通勤時間が30分と短いのは、唯一の救いだが、それでも精神と体力は毎朝削られていく。


 美咲はシングルマザーだった。元夫の忠弘とは、半年前に離婚が成立した。忠弘が、会社の新入社員と浮気していたのが原因だった。


 それ以来、美咲は息子の浩平と二人で生活している。


 忠弘との結婚の時に入居したマンションは、財産分与で、美咲と浩平が住むことになった。


 2人で住むには広すぎる3LDK。


 美咲は浩平とエレベーターに乗りながら、エレベーター内に設置されたモニターに目をやった。


 このマンションはセキュリティが売りで、エレベーター内は常に録画されており、その様子がエレベーター内のモニターで見えるようになっている。


 ちょっと過剰すぎると思われるが、当時は忠弘の帰りが遅くなることが多かったので、安心だった。


 まさか、彼が浮気しているとは思わなかったけど。


 <つづき>

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