彼女と同棲するまでの話し-The story until live in with her-

クランボラム豊田

プロローグ

登場人物

皆瀬春馬(みなせ はるま) 北条陽菜が好き

近藤泰夏(こんどう たいか) 那都茉莉と気が合う

筒井柊吾(つつい しゅうご) 鶴見御冬を応援している

北条陽菜(ほうじょう ひな) 皆瀬春馬が好き

那都茉莉(なつ まつり) 近藤泰夏が気になっている

鶴見御冬(つるみ みふゆ) 皆瀬春馬が好き 北条陽菜と幼馴染

速水來玲愛(はやみ くれあ) 皆瀬春馬と幼馴染




高校3年の夏が終わり、新学期を迎えて1ヵ月、多くの生徒たちは2年以上続けていた部活動を引退し、青春を謳歌している。

俺たちも例に漏れず、全ての授業が終わった後、男女3人ずつ、6人で放課後も教室に残って談笑していると、教室を通りかかった教師に注意されたので場所を移してショッピングモールで遊ぶ流れとなった。

フードコートで買ったばかりのポテトをシェアしてみんなでつまみつつ、教室からの話しが続いていた。

話しが一段落すると那都茉莉が新作の冬服を見たいと言い出したので、一緒に見て回ることになる。かと思いきや。


「ゴメンだけど3人は他で1時間くらい時間潰しててもらない?」


と言われ、一旦男女に分かれて別行動することになった。


「時間潰してか、どうする?」

「本屋に行きたい」

「俺は昨日行ったばかりだから時間潰すのはちょっときつい」


田舎の高校生の行動範囲なんてある程度限られている為、行動がダブる事は過去にも何度かあった。


「だったらゲーセンなんてどうだ?2人とも普段行かないんじゃないか?」

「ほとんど行ったことないな」

「俺は昔、結構行ってたぜ。つっても小学校の頃だけど」

「2人がいいならゲーセンでにしよう」

「別に構わないが」

「いいぜ」

「よし決定だな!」

「……珍しくはしゃいでるな」

「え、そうか?いつもと変わらないだろ」

「0.3オクターブいつもより声が高い」

「全然わかんねぇーよ。お前ちょっとキモイぞ」

「2人で何喋ってるんだ?早く行こう!」

「ほら、ちょっとだけ声が高くなってるだろ?」

「いや、だからわかんねーって!」


「メダルゲームか」

「軽く遊ぶには丁度いいからね」

「いくら使う?」

「とりあえす3人で1000円分のメダルと交換して分けて使おう」

「分かった」


1000円札をメダル交換機に入れるとカップの半分が埋まるくらいまでメダルが排出される。


「後で返す」

「でも1000円だと割れなくね?」

「そこはいいよ。言い出しの俺が100円余分に出すから。さて、どれで遊ぶ?柊悟は何やってみたいのあるか?」


皆瀬春馬がゲーセン初心者の筒井柊吾に尋ねる。


「あの釣りをやってみたい」

「お、いいじゃん!ガキも沢山遊んでるし、人気があるんじゃないか?」

「確かに面白いよ。だけど今は3人分の空きがないね。どうせならみんなで遊びたいから別のにしないか?」

「確かに空席は一人分しかないな。子供と混ざって遊ぶのも悪くないと思ったけど仕方ない」

「後で空いたら遊ぼう」

「あ、あれ!あれやってみようぜ!」


近藤泰夏が声を荒げて指をさす。

あれは……暗殺拳伝承者が主人公の漫画だったか。


「良いんじゃないか?」

「誰も座ってないけど、大丈夫なのか?」

「平日の夕方だからだろ?とにかくやろうぜ!」


現在のゲームセンターには人が疎らに居るだけで決してどのゲーム機も満席には至っていない。

しかし、泰夏が指を差したゲーム機だけは誰も遊んでいなかった。

3人で並び、一つのコイン口に座る。


「これ射出口が二つしかないな」

「俺がメダル転送するから二人で撃ってくれ」

「一番金払ったのに春馬はやらなくていいのかよ?」

「俺はいいよ。どうせなら二人に楽しんでもらいたいから」

「なんか悪いな」

「柊吾は遊び方はわかるか?」

「なんとなくは」

「簡単に説明するとステージ台の下部分に通過口があるだろ?あそこにメダルを飛ばすとメダルがチャッカーを通過する度に液晶で演出が起きる。液晶内の数字が揃ったら大当たりでメダルが排出される」

「なるほど」

「俺もこの機種では遊んだことはないけど、基本的なゲーム性はどの台も変わらないはずだ」

「へぇー共通なのか」

「作ってるメーカーもほとんど同じだよ」

「そうなんだ」

「いいから早く遊ぼうぜ」

「せっかちだな」

「悪い悪い。それじゃメダル送填するよ」


1000円分のメダル全てを台に送填し終えると二人でメダルを撃ちだす。


「なぁ、これやばくないか?」


遊び始めてまだ2分しか経っていないにも関わらず。手持ちのコインは既に半分以上失っている。


「これ吸い込みえぐいって」

「モンスターマシーンだな……もうやめとくか?」

「そうだn」

「ここで引いたら負けだろ!取り返さねーと」


熱くなった泰夏の一声で一番の経験者である春馬の声はかき消され、更に2分経った頃にはー


「全部なくなっちまった」

「だから止めたのに……」

「お、追い銭して」

「止めとけ」

「けどよぉ!まだゲーセンに着いて10分も経ってねぇぞ?あと40分もどうすんだよ」

「……まだ遊ぶにしても別の台にしよう」

「でも他の台もこの速度で溶けたら破産しちまうぜ?」

「それは大丈夫だ。他の機種は大体遊んだことあるから。こんな一瞬でなくなることはないよ」


次どうするかを話し合ってると第三者が声に掛けられる。



「あれ?こんなとこで何やってんの?」

「クレア」「あん?」「速水か」

「ちゃっす~。普段見かけない場所で知ってる顔があったから思わず声かけちゃった。で、三人共こんなところで何やってんの?」


ギャルらしい少し特徴的な挨拶で声を掛けてきたのはクラスメートの速水來玲愛。


「見りゃわかんだろ。コインゲームだよコインゲーム」

「もしかしてこれ(神拳)で遊んでたの?」

「そうだけど」

「マジ?はぁ~……ハル何やってんの!」

「やっぱりやばいやつだったのか?」

「一番手を出しちゃいけない機種。当たれば楽しいけど、中々当たらないし、当たってもそんなに出ないし。急いでメダルを消化したい時とかはいいけど、メダルは無料で預けられるし、よほどこの機種が好きとかじゃない限りはまぁ遊ばないよね」

「今身を持って体験したばかりだよ」

「なんでそんな機械が置かれたままなんだよ」

「そんなことあたしに言われてねぇ?今日はいないけど、毎日これで遊んでる常連の人がいるからじゃない?」

「そいつ石油王かよ」

「あたしはガチおじって呼んでる」


神拳をもじって真剣(ガチ)ってことか?


「知らないおじさんにあだ名付けるのは辞めた方がいい」

「別によくない?悪口って訳じゃないんだし。おじも女子高生に認知されてるって知ったらきっと喜ぶって」

「そういう問題じゃないから。トラブルに巻き込まれないようにだから」

「えーそしたらその時はハルが助けてよ」

「俺が近くに居たら助けるけどさ」

「頼もしいーっと話しが逸れたね。あたしら高校生のお小遣いじゃ神拳はハードル高いけど、1万円もあれば多分1日中遊べるから大人なら問題ないんじゃない?」

「嘘だろ?俺たちの1000円はたった4分で消えたんだぜ?本当かよ」

「1000円が4分ってそれは流石にないでしょ」

「「「……」」」

「え、マジ?なんで?うーん。あ、もしかして交換機のメダルで遊んだ感じ?」

「うん。そうだけど、なにか不味かった?」

「はぁー……もう本っ当にハル何やってんの?」

「ごめん?いや俺もこの機種で遊んだことがなかったから」

「速水はなんでそんなに怒ってんだ?」

「別に怒ってないし!呆れてるだけ!メダル交換機で交換すると確かに貰えるメダル自体は多いんだけど、神拳は直接100円入れるとボーナスタイムが貰えて特殊抽選受けれて大当たり確率を上げられるから結果的にすっごい損してるの!」

「マジかよ」

「マジだよ。それであんたたちはこれからどうすんの?」

「クレアのアドバイス通りこの台は止めて他の台で遊ぶことにするよ」

「お金は?メダルはまだあるの?」

「え?まぁなんとかするつもりだけど」

「……ちょっと待ってて」


俺たちに待機するように命じてこの場を離れていく。


「なんか教室に居る時とイメージが違うな」

「口うるさい感じが俺のおかんみたいだったわ」

「ここはクレアのホームだからな」

「え、速水ってここが実家なの?」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「ホームコートってことだろ」

「ああ、そういうことか」

「お待たせ。はい、コレ」


戻ってきた彼女の手には満杯に詰まったドル箱が3つ。


「うお、なんだよこれ。どうしたんだよ!なんでお前こんなにコイン持ってんの?」

「あたしここの会員だから貯めてたメダルを下ろしてきたの。これだけあれば満足に遊べるでしょ」

「こんなに貰ってもいいのか?」

「その為に下ろして来たんだけど?」

「ありがとうございます!神様、速水様、來玲愛様!」

「ちょっと、こんなところで大声で名前出すの止めてよ。ハズい」

「引くわー。ちょっとキモいぞ」

「柊吾、てめぇーさっきの意趣返しかぁ!?」

「クレアありがとう。本当に助かる」

「別にいいよこれくらい。大したことないでしょ」

「今度何かお礼するよ」

「そう?じゃあ期待しとくから」

「クレアは今から遊んでくのか?」

「うーん。どうしよっかなー。本当は預けてたコインの有効期限がそろそろ切れそうだったから一度ログインしに来ただけだったんだけど」

「良かったら一緒に遊ばないか?」

「え、良いの?……あーでも今日は一人で遊ぶから困ったことがあったらまた声かけてね。そんじゃ」

「いやー。まさか速水とこんな場所で会うとは意外だわ。しかもこんないい奴だったなんて」

「分かる。ゲーセンってイメージはなかった」

「そうか?女子ってゲーセンで友達とプリクラ撮ったりしてるからイメージ通りじゃないか?」

「ああ、プリクラね。それならなんで意外なんだ?矛盾してるぞ」

「いや1人だったし、それにここってコインゲームのエリアだぜ?」

「クレアは昔からコインゲームが好きなんだよ」

「へー、そういえば春馬って速水と幼馴染なんだっけ?」

「まぁ」

「しかしめっちゃコイン貰ったな」

「俺たちが1000円で買ったメダルの6倍以上あるじゃん」

「これだけあれば神拳でも何とかなりそうな気がするけど、どうする?続ける?」

「できれば貰ったコインは増やして返したいからこの台は止めとこうぜ」

「泰夏がそれでいいならいいんだけど……釣りはまだ空いてないな」

「今度は春人が遊びたいやつを選ぶといい」

「そうだなーじゃあこの台はどうかな?」


ー40分後ー


「そろそろ切り上げないと時間に遅れてしまうな」

「もうちょい!もうちょっとだけ!」

「遅れると茉莉に文句言われるぞ」

「う、あいつ時間に厳しいからなー」

「このコインはどうする?」


俺たちが座った台はすぐに大当たりし、その大当たりからジャックポットに当選して気がつけば貰ったコインが3倍に増えていた。


「速水に返せばいいだろ」

「それはそうなんだけどよー。これだけ増えるとちょっと惜しいなって」

「屑だな」

「じょ、ジョーダンだよ冗談!無料で遊ばせてもらったし、このくらい当然だよな!」

「じゃあ俺はクレアを呼んでくるから二人は待ってて」


「うわ、短時間でこんなにも出たの?ここ設定良いのかなー?てか本当に全部貰っていいの?」

「勿論。クレアのおかげで追い銭しなくて済んだし、それに俺たちは次にいつ3人で来られるかわからない」

「あー受験だもんね。でも筒井はともかくハルと近藤はそのまま上でしょ?」


上というのはエスカレーター進学の事で俺達が今通ってる津雲高校は津雲大学の付属校になる。


「よく知ってるじゃん」

「そりゃあたしでも普段授業の光景見てたらわかるって」

「すでに推薦や内部進学で進路が決まっているやつと他校の受験組では授業に臨む姿勢が違うもんな」

「速水も進学だよな?内部進学?」

「あたしが内部で通してもらえるわけないじゃん。だから今日も帰ったらベンキョー。ホントだるい」


うちの高校は付属高校とはいえ、平均以上の成績、若しくは部活動で特出したの成績を残せていなければ一般試験を免除してもらえず、簡単に進学することが出来ない。

付属高校のはずなのに成績不良者優遇してもらえない。そのせいでこの時期に進路先が決まっているのはどのクラスも5割程しかいない。


「俺は勉強を怠いとか感じた事はない」

「嘘、まぢぃ?やばぁーそりゃ頭も良くなるし、いい大学に行けるわー」

「まだ進学は決まってない」

「いや絶対イケるってあたしが保証するし」

「速水に保証されてもな」

「クレアだってうちの高校入れたんだから中3の時みたいに受験勉強頑張ればまだ入れる大学はまだまだいっぱいあるって」

「それは~ほら、あの時は家庭教師が良かったっていうか?」

「そんなにいい家庭教師がいるならまた頼めばいいんじゃねーの?」

「だってさー?どっかに進学先が決まっていて時間が取れる先生が居ないかな~?ねー、センセー」

「え、優秀な家庭教師って春馬のことかよ」

「俺は特別なことはしてない。クレアが真面目に取り組んだ結果だから」

「あ、そういえば、メダルあげたお礼してくれるんだよね?ハルに家庭教師お願いしちゃおうかな~?」

「お、いいじゃん!春人俺たちの分も頼むぜ!」

「……後で連絡する」

「りょーかいっ!待ってるね」

「それじゃまた明日な」

「うんバイバイ。3人共コイン増やしてくれてありがと」


コインを全て速水に譲渡して俺たちは待ち合わせ場所へ移動する。


「速水の雰囲気教室に居る時と全然違うのな。印象変わったわ」

「俺も思った」

「いつもあんな感じじゃないか?」

「全然違う。今日は親しみやすかった。普段はもっと近寄りがたイメージが有る」

「いつもはもっと尖ってるしな。なんか話しかけたら怒られるんじゃないかってくらい」

「クレアはそんな奴じゃないって」

「まぁそういう雰囲気があるってことよ」

「俺、速水とちゃんと喋ったの今日が初めてだ」

「半年も同じクラスだったのに?」

「ガリ勉とギャルって正反対だしな」

「別にガリ勉じゃないが?」

「お前学校終わってからいつも何時間勉強してるんだ?」

「6時間くらいだな」

「ガリ勉じゃねーか」

「受験生ならこれくらいが普通だ」

「まじかよ。俺には絶対無理だ。内部推薦取れてよかったぜ」

「でもそれなら今日は遊びに誘ってよかったのか?」

「嫌なら断ってる。たまには息抜きも必要だし」

「だったらいいんだけど」


集合場所に着くとほぼ同じタイミングで女子3人も反対側から歩いてきた。


「タイミングばっちりだね!」


出会って最初に声を掛けてくれたのは北条陽菜。


「まぁな」

「泰夏はもうちょいって粘ろうとしてた」

「おまっ馬鹿!チクるな」

「ほお~?」

「時間通りに着いたんだから良いだろ」

「そっちは何か良いもの見つかった?」

「まぁまぁかな」


買い物をした形跡はなく、手荷物は鞄以外に見当たらない。しかし何かしらの収穫はあったらしい。


「そういえばさっき柊吾に家帰ったら何時間勉強してるか話しになったんだけど、御冬はどれくらい勉強してる?」

「えっわ、私?私は大体4~5時間くらいかな?」

「やっぱ結構やってるんだな」

「だから言っただろ。別に俺はガリ勉じゃない」

「筒井くんは何時間勉強してるですか?」

「俺は6時間だ」

「私ももっと勉強しないといけないのかな……?」

「量じゃなく質が大切。ただ長ければいいという問題でもない。だから俺も6時間以上は勉強しない」

「スポーツでも量より質って言うよね」

「勉強とスポーツだと全然違うように感じるけどそういうもんなの?」

「長時間やると 集中力が落ちていくから共通する部分はある」

「へー」

「柊吾と御冬以外は勉強してる?俺は英語だけは引き続き勉強してる」

「私は元々毎日2時間勉強するのが日課だったから今も続けてるよ」

「え、嘘。陽菜そんなに勉強してるの?」

「その反応茉莉はやってないな」

「どうせあんただってやってないんでしょ」

「まあな!」

「二人とも大学が決まったとはいえ、私たちと同じ大学なんだから学校の授業だけでも集中して聞いとかないと大学入ってから大変になるよ?」

「「……はい」」

「勉強の話しはこれくらいにしてこの後どうする?」

「あっ!私さーあれ乗ってみたいんだよね~」

「あれってまさかあれか?」

「そうそう!」


那都茉莉の視線の先を追った近藤泰夏が前方を指差した先にはジェットコースター。

このショッピングモールの横に本格的に作られた絶叫マシーンと夜景が見える観覧車が人気の遊園地が併設されている。


「実は私、ジェットコースターって人生で一度も乗ったことないんだよね」

「え、そうなの?」

「高いところが苦手なのか?」

「単純に機会がなかっただけ。苦手だったらそもそも行きたいなんて思わないし。もしかしたら苦手なのかもしれないけど」

「みんながいいって言うなら行く?」

「いいよ」「行こう」「大丈夫」「うん」

「みんなありがとう~~」


全員の同意を経て遊園地に行くことが決まった。

園内に入るとジェットコースターの乗り口まで直行する。

平日なのですぐに乗れると思っていたけれど、人気スポットなだけあって列が形成されており、少しだけ待つこととなる。


「2人並びだけど、席どうしよっか?」

「6人だし、じゃんけんでいいんじゃないか?ぐーちょきぱーで3組作れるし」

「ふっふっふ実はね、事前にあみだくじを用意したのだぁ」

「別にじゃんけんでよくね?じゃんけんならすぐ決まるしさぁ」

「馬鹿ねぇ!考えてみなさい。じゃんけんだと同性同士でペアになるかもしれないでしょ!私らはそれでもいいけど、あんたらはそれじゃつまんないんじゃないの?あみだくじなら3本線の上に男子の名前、下に女子の名前を書けば上手く男女でペアが作れるでしょ」

「茉莉!お前天才か?!」

「じゃあ男子から先に上に名前書いてね」

「俺は真ん中ー!春馬と柊吾お前ら左右どっちがいい?」


女子の3人はタイプが違えど、それぞれみんな可愛いので実際の所、当たりしか存在しない神クジと言える。


「泰夏に任せるよ」

「頼んだ」

「なんだよお前ら2人とも冷めてんなぁー」

「じゃあ左が春馬で右が柊吾っと」

「書き終わった?」

「おう」

「じゃあ貸して」


3人の名前が書かれた紙が那都茉莉へと渡る。


「ねぇねぇ。こっち(女子)の名前は私が書いてもいい?」

「う、うん」

「いいよー」

「よし、書けた。それじゃ開くね!」


あみだくじの折られた部分を広げて開封される。


「あ、春馬くんとだ!よろしくね」

「陽菜、こちらこそよろしく」

「春馬くんは絶叫マシーン大丈夫?」

「ここのは何回か乗ったことあるから大丈夫だよ陽菜の方は?」

「私はちょっと苦手。乗れないってこともないんだけど、もしかしたら叫んじゃうかも」

「絶叫マシーンって言うくらいだしね。何かリラックスできる話しでも考えてみようか?」

「わー助かる」


「俺は茉莉とか」

「何、泰夏は私じゃ嫌なの!?」

「そんなわけ無いだろ!」

「えっ!?」

「絶叫マシーンが初めてなら一番新鮮な反応見れそうで楽しみだぜ」

「あーそういうことね」

「乗る前にポイント解説してやろうか?」

「いや、いい」

「えー聞いといた方が楽しめるぞー?」

「だからいいって」

「なんか急に不機嫌になってないか?」

「なってない!」


「よ、よろしくお願いします。筒井くん」

「よろしく。鶴見はここの絶叫マシーン乗ったことは?」

「うん、あるよ。茉莉ちゃんがちょっと特殊なだけじゃないかな」

「この辺に住んでたらな一度は乗る機会があるよな」

「そうですね。私は流されやすいので友達と来るとなんだかんだ毎回乗せられてる気がします」

「じゃあ意外と好きだったりするのか?」

「そういうわけではないです」

「そうか」

「はい」


並びながらペア決めを行っていたので、席順が決まってすぐに順番が回ってくる。

係り員の説明に従って順番にコースターに乗り込み、簡単な説明を受けて安全バーが下がったのが確認されると発進する。

ゆっくりと徐々に高度を挙げていくコースター。


「私、この瞬間が一番ドキドキする」

「時間を掛けて恐怖心を煽ってるんだよ」

「ねぇ、さっき言ってた気が紛れる話し、なにか思いついた?」

「……近い内にこの中の誰かが死ぬ」

「えっ?ちょっと急にどうしたの?どういうこと?もしかして春馬くんも本当は怖かったりして?」

「……」

「絶叫マシーンに乗ってるときに人が死ぬなんて冗談はシャレにならなっ」


丁度最高地点を折り返したコースターは急速度で降下し、レールに沿って左右上下、時には回転したりとあっという間に終着点まで到達し、終わりを告げる。


「久しぶりに乗ったら力が入った」

「みんな大丈夫?気分悪かったりしない?」

「私は大丈夫。でもちょっと休憩させて欲しい」

「はぁ~超楽しかった~~私これハマちゃうかも」

「茉莉は大丈夫そうだね」

「びびり散らかす茉莉が見れなくて残念だぜ」

「ちょっとそれどういうこと!?」

「同乗者の反応を楽しむのも絶叫マシーンの楽しみ方の一つだしな」

「むぅー」

「春馬はどこいった?」

「トイレじゃないか?」

「俺がどうかした?」

「うおっ、いきなり背後から現れんなよ!びっくりするだろ」

「ごめんごめん。ほらお詫びにコーラ」

「冷たッ!普通に渡してくれよ……でもサンキュー」

「柊吾はエナドリ」

「ありがとう」

「陽菜はレモンティーだよね?」

「うん、あってるよ。ありがとう」

「茉莉にはカフェオレ」

「ありがとう。よく覚えてるね」

「御冬はお茶とミルクティーがあるけど、どっちにする?」

「じゃあミルクティーを……ありがと」

「春馬のこういうところズルいよね」

「へ?何が」

「よく全員分の好みを把握しているな」

「俺はみんなと接点が多いし、観察していたら意外とみんな毎回飲んでいる物が偏ってたから」

「気に留めたことなかった」

「本当に気が利くね~」

「尊敬する」

「そうだ。忘れない内にジュースのお金払うよ」

「別に良いよ。今度またみんなで集まった時に次は誰かが奢ってくれればいいから」

「そう?だったら今日のところはご馳走になっておくねありがとう」

「もう暗くなったし、御冬が動けるようになったら帰ろうか」

「あ、待って!せっかくここまで来たんだし、アレにも乗らなきゃ勿体ないでしょ」


そう言って今度は観覧車を指す。


「またペア決め直すのもなんだし、さっきと同じペアでいいよね?」

「え?俺、また茉莉と?」

「何?嫌なの?」

「別にそういうわけじゃねぇけど」

「なら文句言うなし」


絶叫マシーンに乗るようなノリで女の子と2人きりで観覧車に乗るはちょっと違う気がする。


「うん。いいと思う。観覧車なら御冬も大丈夫だよね?」

「う、うん」


俺が異論を唱える前に4/6の過半数を占めたので次の予定が決定してしまう。


「ねぇねぇ、さっきのジェットコースターに乗ってた時の話し」

「ああ、ごめん驚かせちゃったよな。逆に驚かせたら緊張が取れるかなって、驚かせるための冗談だから忘れて欲しい」

「良かった~」


観覧車にもジェットコースターの時と同じく、列が形成されていたので列に並ぶ。

しばらく待つと先程と自分たちの番が回ってきたので観覧車に乗って行く。1周するまでに15分とちょっと、その間密室の中で女の事二人きりになる。

並んでいる間は普通に話せていたのに、いざ観覧車の中で対面すると俺たち二人の会話は無くなっていた。

時間にして7分経ったくらいだろうか、一番景色が良い頂上を迎える辺りで突如、彼女の口から告白を受ける。


「私、皆瀬春馬くんのことが好き」






観覧車を降りた後、一番最後に乗った俺たちをみんなが出口で集まって待っていた。

一息吸い込み、吐き出す。


「実は陽菜と付き合うことになった」

「まじかよ!」

「やったね!おめでとう」

「陽菜……おめでとう」

「おめでとう」

「みんなありがとー」

「で、どっちから告ったんだ?もちろん春馬からだよな?」

「えっとね。実は私から、なんだ」

「嘘!?まじで!!陽菜ちゃんに告られるとかうらやまっ!人生の絶頂期じゃん」

「絶頂期って」

「モテない男の発言ね」

「うるせー」

「……泰夏も顔は悪くないのに」

「なるほどな。春馬が今まで女の子の告白を断り続けてた理由が分かったぜ」

「それなら陽菜もこれまですごい数の告白、断ってたよね」

「代理マウント合戦は止めてね?」

「なぁ、き、キスって、もうしたのか?」

「ちょっとあんた何てこと聞いてるの!?……あたしもちょっと気になるけど」

「してないしてない。外ではそんなことできないよ」

「なんだまだかー」

「理性的なんだろう」

「だったらキスだけ!キスだけしたら教えてくれ」

「そういう話しはちょっと……」

「なぁ春馬今度こっそり教えてくれ」

「こっちにも聞こえてるってというか陽菜が居る前で聞く?」

「あっ」

「言わないでね?」

「言わないよ」

「ぐっ」

「バーカ」

「もうすっかり暗くなっちゃったね。そろそろ帰ろ?」

「泰夏、俺たちをからかうのはもういいだろ?」

「別にからかってるつもりはないけど」

「私は乗りたいもの乗れたからもう帰っても良いけど」

「俺も満足した。そろそろ帰って勉強しないとだしな」

「私も……ですね」

「それじゃ帰ろうか」



翌朝学校に着くと下駄箱で男3人が揃う。


「おはよう」

「おはよう」「うっす」

「昨日あのまますぐ解散してよかったのか?せっかくなら陽菜ちゃんを家まで送ってけばよかったのに」

「みんなの前だと恥ずかしくて一度解散した後にメッセージで家まで送るよって言ったんだけど、用事があるって断られたよ」

「用事があるにしろ移動するだろ?目的地まで送っていけばのに」

「付き合って早々しつこいと思われるのもあれだし」

「難しいな」

「三人ともおっはよー!」


3人で雑談しているところに後ろから来た速水來玲愛から元気よく挨拶される。


「「「おはよう」」」

「昨日はありがとね!3人から貰ったコインあの後、更に増やせた」

「おーよかったじゃん」

「俺たちの方こそ助かった」

「また困った時は助けてくれ」

「なに?また借りる気?ウケる。筒井ってそんなキャラなん?」

「柊吾は真面目だけどユーモアな所があるかな」

「今の発言だけ切り取られてもただの図々しいだから褒められても嬉しくない」

「へー」

「興味なさそうだな」

「いや?前よりは全然興味湧いたし?」

「よかったな柊吾」

「おう?」

「そっちこそ興味なさげじゃん」

「戸惑ってるだけだ」

「ふーん。まぁいいや。そういえば春馬昨日連絡くれなかったじゃん!待ってたのにー」

「あーごめん。昨日はちょっと色々あって忘れてた」

「ちゃんと家庭教師してよね?じゃーまた教室で」


俺たちを追い抜いた後は駆け足で嵐のように去っていった。


「なんか速水すげー機嫌が良かったな」

「あの後どんだけ出たんだ?」

「うわっ、それ家の親父っぽい」

「え?」

「パチカスっぽいぜ」

「なんでだよ」

「そういえば春馬言わなくて良かったのか?」

「え?あーそうだな」

「いくら幼馴染とはいえ、彼女持ちが他の女と二人っきりで勉強は良くないだろ」

「そう、だな……」


教室に着くと自分の席に荷物を掛けてから座席に座る。女子は3人共まだ来て居らず、空席のままだった。


「クレア今日ご機嫌だねー!なんか良いことあった?」

「えーそんなことないしー」

「いやいや、明らかにいつもと違がうから!絶対なんか良いことあったでしょ」

「うちも気になる」


荷物を整理していると2人が俺の席に集まって来たタイミングで……


「みんなおはよう」

「おはよう陽菜」「おはよー」「おはよう」

「おはよう春馬」

「あれ、呼び方変わったじゃん陽菜ちゃん」

「えへへ、まずは呼び方から変えていこうかなって。駄目だったかな?」

「勿論いいよ。俺は元々呼び捨てにしてたしさ」

「あー羨ましいぃぃぃ俺も彼女欲しいー」

「相手を選べばすぐ出来る」

「そうだね」

「間違いない」

「え、どういうことだよ?相手を選ばなきゃじゃなくて選べば?俺のこと好きなやつが居んの?誰だよ教えてくれ」

「内緒だ」

「自分で気付けるようになろう」

「あははは」

「4人共おはよー」

「「「「おはよう」」」」

「何々4人でなんの話ししてたの?私も混ぜてよ」

「陽菜の呼び方がちょっとだけ変わったって話しだよ」

「へぇ~?」

「茉莉、顔に出すぎだよー」

「え?私どんな顔してた?」

「笑顔で口元が緩んで目が^^ってなってた」

「擬音で表すなら口元はニタァーって感じだったな」

「嘘ぉ!?」

「本当」

「ええ!?」

「やっぱ付き合い始めたら色々変わるよな~」

「……ごめん。あたしちょっとトイレ」

「ん?ついってこっか?」

「ううん。いい」

「いってらー」


こんな感じで一日が始まった。


予鈴が鳴り、SHR(ショートホームルーム)の時間が始まると担任教師は簡単な連絡事項を告げるとすぐに退室した。

1限目は移動教室を伴う授業だったので、すぐに移動を始める生徒と教室で友人と雑談をしてから移動する生徒に分かれる。

俺はいつもは早々に移動するタイプなのだけど、すぐ近くで2人女子生徒の話し声が聞こえたので、少し気になってその場に留まって耳を傾けることにした。

盗み聞きみたいになってしまうが、昨日の事もあって俺は二人がどんな会話をするのか気になった。


「一緒に行かなくていいの?」

「うん。付き合い始めたからってずっと一緒なのも違うかなって。受験頑張ってる人たちもいるのに近くでベッタリしてるカップルがいたら鬱陶しいだろうし」

「私は……別に気にしないよ」

「そう?でも、なるべく今まで通りがいいな」

「そういうことなら」

「あ、でも受験があるし、勉強の邪魔だったらあんまり話し掛けないようにするから遠慮なく言ってね」

「休み時間の間は気にしないで大丈夫だから」

「それならよかった。あ、そうだ昨日のドラマの最終回見た?すごく面白かったね」

「ごめん。録画はしてるけど、まだ見れてないかな」

「そうなの?教えてもらったからてっきり追えてると思ってた。見終わったら教えてね」

「うん。あ、そろそろ移動しないとだね」


時計を見ると急いで準備を始めないと授業に遅れる時間になっていた。

鞄から教科書とノート、筆記用具を取り出そうとしたら筆箱が床に落ちて中身が散らばり、集めていると遠くに転がって行った消しゴムを一人の女子生徒が拾ってくれた。


「はい、これ。いつもは早いのにこんな時間まで教室に残ってるなんて珍しいね」

「ありがとう。考え事してたらこんな時間になってた」

「それってもしかして私のこと?なんてね!」

「半分はそうかな」

「え、本当に?冗談だったのに」

「うああ”あ”あ”あ”」


人が少なくなった教室で突如奇声が鳴り響く。

声の元を見るとこちらに突進してくる女子生徒。その手には光り輝く物が見えた。

いつもとは違う、異様な光景がスローモーションのように流れ、たった1秒がやたらと長く感じる。

肌では危険を感じとっているのに身体はまるで動かない。


「ーーッ!!!」


そんな中、昨日『俺』に『告白してきた女の子』が『もう一人の女の子』を庇うように身体を覆い被せて守ろうとする。

その行動を見て、俺も金縛りが解けたかのように身体が動き、二人をギリギリの所で思い切り突き飛ばす。


「あいたたたぁ~。え?急になに、どうしたの?」


北条陽菜には今の状況がまだ飲み込めていないだろう。

突然、奇声が聞こえていたものの、気に留めずにそちらを見ていなかった。

すると突然、先程まで話していた相手、鶴見御冬に後ろから身体全体を覆われ、間髪入れず、目の前に居たはずの男の子に身体が机に思い切りぶつかる力で突き飛ばしてきたのだ。

奇声を上げて突進してきた速水玲愛が振り上げた光り物、長鋏は俺の胸元、心臓に深く突き刺さり、制服の上から血が滲み出す。

あまりの痛みに声も上げられずに膝をつく。


「ち、違う……」

「きゃああああぁぁぁぁ!!!!」


一連の様子を離れて見ていた女子生徒が悲鳴を上げる。


「え、筒井くん?御冬?速水さん……?」


速水は俺(筒井柊吾)の胸を刺した後、そのまま呆然と立ち尽くして動かない。


「どうしたんだ?」

「何?今の声」

「なんだ?なんだ?」


女子生徒の悲鳴を聞いて教室に人が集まり出す。


「保健室!違う、先生を呼んできて!早く!!もしもし、救急者一台、至急津雲高校までお願いします。胸に刃物が深く刺さっています」


まだ混乱しているはずなのに断片的な状況から事態を理解した後の北条の動きは迅速で的確だった。周りに指示して救急車の手配を済ませた。

速水が俺の胸に刺さった鋏を抜こうと思ったのか、手を伸ばそうとすると。


「駄目!!触らないで!絶対に抜いちゃ駄目」


と大声で警告する。


「わ、私、見た。速水さんが筒井くんを刺す所を」

「ち、ちがっ!」


辺りが大騒ぎになっているのに関わらず段々と声が遠のいていく。

昨日、春馬が呟いた『近い内にこの中の誰かが死ぬ』という言葉。

あれはまさか俺のことだったとはな。

今まで生きてきた中で一番強い心臓の鼓動と傷口からの燃え滾るような熱を感じながら意識は途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る