第2話 凛天ギア
―キーンコーンカーンコーン。
今日の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。この音を聞くと、身体に開放感が駆け巡る。帰りの支度を済ませるその一段階ごとに…校門までの道のり一歩ごとに、解放感は心の沸き立つ高揚感へと変わっていく。
なにせ今日は、待ちに待ったフルダイブ型VR対戦ゲーム…『イグニッション・コネクト』の発売日なのだから。
―四人の絆を
―イグニッション・コネクトは、世界初のフルダイブ体験を味わうことの出来る最高のVR対戦ゲームだ!
何度も何度も見返したウェブCMが、頭の中で再生される。
いつの間にか校門を通り抜けていたようだ。徐々に足取りが軽くなっていくのを感じながら、精一杯、現実と言う名のオープンワールドを駆けていく。
(急げ…!急げ、俺。新時代に乗り遅れるな…!)
商店街。名物のメンチカツ屋に並ぶ人たちの無駄に精密なコリジョンが、今日は一層煩わしい。
大通りの信号。大抵の作品は、赤で渡ってもノーペナルティなんだけどな。
住宅街。いつもの道が、制限時間内に家までたどり着くミニゲームの舞台になる。自然と、脚を動かすスピードも上がる。
「はぁ、はぁ…。ニューレコード、ってね。」
息を切らしながら、ようやく家の前に到着した。
呼吸を整えつつ、鍵と言う名のログインパスワードでドアを開け、ガチャリと無機質なタイトル画面の効果音を鳴らす。
「
玄関で、我が一家の大黒柱である姉貴が迎えてくれた。いつもは自室に籠って作業をしている時間だが…やはり今日は特別という事か。
「そうこなくっちゃ。どこまでやった?」
興奮していると、やるとかやったとか、適当に言いがち。
「梱包だけ解いて、部屋に運んでおいたよ。初期設定は自分でやりたいでしょ?」
それでも伝わるのが姉弟というものである。そして、完璧なセットアップ。
まるでチュートリアルで親切に案内してくれるキャラクター…というのは失礼か。
「流石だぜ、姉貴!」
得意気に胸を張る姉貴に感謝しつつ、家の階段を駆け上がり、自分の部屋の扉を開ける。
いつもの自室に、大仰なケースに納められたガジェットが置かれていた。
「こ、これが、
頭全体を覆うヘルメット型のメイン装置…凛天ギア本体は、近未来を思わせるシャープでスタイリッシュなデザインだ。変にゴテゴテとせず、必要十分な部品のみを使うことで手に入りやすい価格を実現したそうな。この凛天ギアを頭に取り付けることで、疑似的に脳を拡張し、なんやかんやで仮想現実へのフルダイブを可能としたらしい。…姉貴に一度だけ詳しく聞いたのだが、殆ど忘れてしまった。
次に、腕や脚に取り付ける、ガントと呼ばれる装置。初見の印象は、血圧計みたいだと思った。身体の様々な神経の動きをキャッチし、より繊細な動きを実現するらしい。将来的には、このガントなしでもフルダイブできる改良版を開発する予定らしく、そちらも楽しみだ。
それぞれは無線で繋がっており、ややこしい配線が無く、これも嬉しい所。唯一の配線は、充電用の電源ケーブルだ。長時間遊ぶときには、充電しながらゲームもできる。
そして、忘れちゃいけないのが『イグニッション・コネクト』のソフトウェア…なのだが、凛天ギアに予めインストールされているので、特別にセットする必要は無い。ディスクやカセットじゃないことを寂しく思う人も居るようだが、個人的にそれらには思い入れは無いので、便利で良いという感想である。
(…よし。これで全部だな。)
一通り確認しながら、凛天ギアを身体に装着していった。現実からログアウトして、物語が始まる瞬間まで…あと少しだ。
(…行くぞ。新時代のゲーム体験へ。そして…。)
俺の興奮は最高中に達していた。
ガントが装着された右手で、本体の電源をオンにする。
(…ここでしか摂れないかもしれない、栄養素を接種しに。)
―生体認証…完了。
―ユーザーID…BCB09C。
―ログインシーケンスを開始します。
脳内に直接、透明感のある声が響いた。
身体の重みがすぅーっと消え、次の瞬間…世界が光に溶けていく。
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