一目惚れという言葉がピッタリの恋物語です。それはボーイズ・ラブも一緒。松本昴は夏山彗星の特徴的な髪色と端正な顔立ちに目も心も奪われてしまうところから物語は始まります。
彗星には親友の諏訪太陽が、昴には憧れの先輩・小鳥遊深月の存在がありました。仲睦まじい太陽と深月。はじめはぎこちない関係の昴・彗星のいいクッション役として和らげてくれます。その中でお互いの気持ちや認識が改められ、温められ、穏やかな気持ちになっていく。この展開は読み手を飽きさせない工夫が凝らされていて気づけば毎話引き込まれてしまいます。
四人での食事から二人だけの水族館。
そして冬山での星空を見るイベントの数々。
徐々にステップアップしていく恋の行方。
これらの一連の運びはまるで星座が夜空の向こうから見守るような自然体を思わせます。
お互い手に取り合いたくなる星のファーストネーム。その名前を呼びたくなるのは心の距離が近づいている証拠。
お泊まり確定イベントにはお約束のドキドキがもれなくついてくる。どのように接するのか、どんなことを話すのか、一言たりとも見逃せません。
しかし、恋には失言や誤解はつきもの。
両想いからの勢いにのって、先入観でつい思い込みの発言が飛び出してしまう始末も。焦燥感からの恋の本質がきちんと丁寧に描かれているので焦ったさも甘酸っぱさもあって読む手が止まりません。
相手を想う純粋な気持ちと、ささやかな羞恥心と、そして何より心を許せるかけがえのない絆とが美しい素敵な恋愛譚。
ここにオススメします。
『星を辿る』は、恋をすることの眩しさと怖さ、そして誰かを大切に想うことで少しずつ世界が広がっていく過程を、とても優しく描いた物語です。
本作の中心にいるのは、メンタルセラピストとして働く松本昴と、明るく人懐っこい青年・夏山彗星のお二人です。
昴は、家族思いで、優しくて、けれど自分のことになるとどうしても臆病になってしまう人です。
誰かに迷惑をかけたくない。拒絶されたくない。傷つきたくない……そんな気持ちを抱えながらも、それでも誰かを好きになってしまう。
一方の彗星は、周囲を自然と明るくできる人です。
距離の詰め方が上手くて、軽やかで、誰とでも仲良くなれそうな雰囲気を持っていて。
けれど彼もまた、「本当に誰かを好きになる」という感情を知らないまま生きてきた人物でもあります。
そんな二人が出会い、少しずつ近づいていく。
この物語の素晴らしいところは、恋をただ甘く描くだけではないところです。
好きだから嬉しい。
好きだから不安になる。
好きだから相手の過去が気になってしまう。
好きだから、自分の弱さや醜さまで見えてしまう。
でも、好きだからこそ、逃げずに向き合おうとする。
その揺れが、とても丁寧に描かれています。
昴の恋は、決して最初から堂々としたものではありません。
むしろ、何度も戸惑い、怖がり、悩みます。
けれど、その臆病さがあるからこそ、彼が一歩踏み出す場面が本当に尊いんです。
彗星もまた、ただ完璧な王子様のような存在ではありません。
自分の感情に名前をつけることに戸惑いながら、それでも昴を大切にしたいと願い、言葉と行動で想いを伝えようとします。
この二人の関係は、「不安がなくなる恋」ではなく、「不安があっても、そのたびに想いを伝え合える恋」だと思うんです。
だからこそ、読んでいて胸が温かくなります。
そして本作は、恋愛だけでなく、友情や家族愛の描き方もとても魅力的です。
前作から続く太陽と深月の存在は、昴と彗星の恋をそっと見守る優しい光のようです。
太陽と彗星の幼馴染としての距離感、深月が昴に向ける穏やかな眼差し、四人で過ごす時間の温かさ。
そのどれもが、物語に奥行きを与えています。
また、昴の家族や彗星の家族も印象的です。
家族だからこその遠慮。
家族だからこその心配。
家族だからこその自然な受け入れ方。
そこには、誰かを愛することを特別視しすぎず、けれどちゃんと大切に受け止める温かさがあります。
私は、この作品を読んで、「多様性を尊重する」とは、難しい理屈だけで身につくものではないのかもしれないと思いました。
誰かの恋を知る。
誰かの不安を知る。
誰かの勇気を知る。
誰かが大切な人の隣にいたいと願う気持ちを知る。
そうして物語を通して心を寄せていくうちに、自分の中の愛情の引き出しや器が、少しずつ広がっていく。
『星を辿る』には、そんな力があります。
同性同士の恋だから特別なのではありません。
けれど、同性同士の恋だからこそ生まれる不安や覚悟も、確かにあります。
本作はそこを重く描きすぎることなく、かといって軽く流すこともなく、優しいまなざしで丁寧に描いています。
だから読後に残るのは、偏見や構えではなく、
「この二人が幸せでいてくれたらいいな」
という、とても自然で温かな願いです。
それこそが、この作品の大きな魅力だと思います。
『星を辿る』というタイトルも、本当に美しいです。
昴、彗星、太陽、月。
名前に込められた光のモチーフが、物語全体を優しく照らしています。
人は誰かと出会うことで、自分ひとりでは見つけられなかった星を見つけることがある。
誰かを好きになることで、これまで知らなかった世界へ歩き出せることがある。
不安を抱えたままでも、大切な人の隣を願っていい。
そんなメッセージが、物語の中に静かに、けれど確かに息づいています。
甘くて、可愛くて、何度も胸がぎゅっとなって、最後には心がぽかぽか温かくなる。
恋愛小説が好きな方はもちろん、優しい人間関係の物語が好きな方、誰かを大切に想う気持ちを丁寧に味わいたい方に、ぜひ読んでほしい作品です。
読み終えたあと、きっと夜空を見上げたくなります。
そしてどこかで、昴と彗星の幸せを願いたくなるはずです。