【世界観:理性による支配】
舞台は、かつての世界大戦を教訓に、「感情=悪」「理性=善」と定義された全体主義国家コラード・シティ。
威圧的な白と黒のミニマリズムで統一されたこの都市は、『理性省』によって支配されている。ここでは情欲や獣性は徹底的に排除され、フェロモンは感知され次第、浄化ガスで消毒される「汚れ」として扱われる。
この狂った理性の頂点に立つのは、理性省総統ゲルニ・カント。
彼は最も忌み嫌われる「アルファ」でありながら、鋼の精神で己の本能(ラット)を完全支配した“理性の鉄人”だ。全知全能なる理性『アルファ・エト・オメガ』と崇められる彼こそが、この矛盾に満ちたディストピアの象徴である。
【管理と粛清のシステム】
市民の精神は、「感悟の聖像(アイドル・オブ・アウェアネス)」によって常に監視されている。
これは感情を揺さぶる映像を見せ、生体反応を測定する“踏み絵”のような装置である。この聖像の前で動揺し、わずかでも情欲や怒りを見せた者は即座に思想矯正局へ送られ、理性的廃人へと作り変えられる。その部品には、過去の「感情豊かな人間」の脳髄が使われているとも噂されている。
【階級制度と性別】
この都市は、ゲルニ・カントの定める理性への適合度によって厳格に階級分けされている。
■ 支配層:第一級民《フェアヌンフト》
『 Omega / オメガ 』
都市の頂点に立つ「白き貴族」。感情や発情(ヒート)を抑制剤とナノマシンで完全に排除した、冷徹な支配者たち。性行為は野蛮とされ、優秀な遺伝子選別による人工授精で繁殖する。
特徴: 社会の頭脳。高い知能と管理能力を持つが、人間的な感情は欠落している。
■ 労働層:第二級民《フェアシュタント》
『 Beta / ベータ 』
市民の大多数を占める実務労働力。発情期を持たないため、安定した「手足」として社会を回している。
特徴: 平凡だが最も自由。アルファやオメガの特質に関わらない唯一の安定層。
『 Alpha-Beta / アルファベータ 』
アルファへのゲノム編集で生まれた「新人類」を自称する階級。アルファほどの体格も逸物も持たないが、理性を保ったままオメガのフェロモンに反応できるため、自分たちこそが特権階級だと錯覚している。
特徴: 歪んだ選民思想を持つ中間管理職。純正アルファを「ケダモノ」と見下し、法を盾に管理し、虐げることに執着する。性器のサイズやフェロモンの薄さに強いコンプレックスを抱えている。
■ 被差別層:第三級民《ジンリッヒカイト》
『 Alpha / アルファ 』
かつての王は、今や「汚らわしい獣」として鎖に繋がれている。強力な肉体を持つため兵士や重労働者として使役されるが、「首輪法」により貞操帯(通称:オムツ)の着用を義務付けられている。
特徴: 常に生理的欲求と自己嫌悪の板挟みに苦しむ奴隷階級。彼らの性器は凶器と見なされ、排泄すら管理されている。
■ 法外の存在:無等級民《ズィン》
都市のシステムから外れたアウトローたち。彼らは人間というより、独自の生態系を持つ異形の存在である。
『 Sigma / シグマ 』
性器を持たず、苦痛を快楽に変換する特異体質者。再生能力が高く、腹部の皮膚を裂いて出産する。
特徴: ミューに捕食される「受け」の存在。痛みがなければ愛を感じられない、哀しき怪物。
『 Mu / ミュー 』
みぞおちに「第三の口吻」という凶悪な捕食交接器を持つ獣。シグマの腹を食い破り、種を植え付ける暴虐の性。
特徴: 破壊と生殖が直結した「攻め」の存在。その愛は暴力そのもの。
『 Rho / ロー 』
相手や状況に合わせて、性別を自在に反転させる「万能性器」を持つ者。
特徴: フェロモンを反射する鏡のような存在。攻めにも受けにもなれる究極の適応者だが、それゆえに確固たる「自分」を持たない空虚さを抱えている。
【物語の鍵】
理性を絶対とする都市で、抑圧された本能──アルファの衝動や、オメガの隠された愛欲──はどう動くのか。
そして、都市の外に蠢くシグマやミューといった「獣」たちは、この管理社会に何をもたらすのか。
──これは、理性という名の檻の中で繰り広げられる、血とフェロモンに塗れたディストピアの物語。
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