スキル【致命眼】の初級魔術〈ファイアボルト〉は最強

酒とゾンビ/蒸留ロメロ

第1話

 メリット――。

 それは17歳になった朝に発現するとされる、大地からの贈り物である。


 初等部で基本的な魔導書を読み込んだ魔術師見習いたちは、中等部で魔術解禁となり、初級魔術の習得に入る。

 高等部では中級魔術だ。

 特に優秀な生徒は上級魔術にも着手するが、そのレベルの生徒は中々いない。


 高等部2年目にメリットを発現し、魔術師見習いたちはメリットを用いた独自の戦法なんかを模索し始める。

 そして3年になり、大学校へ進学するものは勉強、騎士団に入隊する者は試験や面接、冒険者を目指す者は、冒険者ギルドなどへ出向き、自分を売り込む営業の日々に追われ始める。


 俺はというと、はっきり言って論外だった。


 18歳になってもメリットが発現せず、さらに高等部を卒業する時点で使えた魔術と言えば【ファイアボルト】だけだった。

 【ファイアボルト】は初級魔術である。

 火属性の基礎魔術【ファイア】と中級魔術【フレア】の堺に位置する、なんというか中途半端な魔術だ。

 中等部の2年男子が謎に好むくらいの魅力しかなく、高等部ではこれを中二病と言った。


 そんな俺が同級生連中から何と呼ばれていたか……。

 ――「デメリット持ちの中二病」である。

 よく「おい、デメリット!」とか「おい、中二病!」とか言って、用もないのに声をかけられた。

 時に下級生からもバカにされた――。


「――【ファイアボルト】!」


 赤い魔法陣が突き出した拳の先に現れ、燃える球体がハムラビットに命中した。


「これでやっと5匹だ」


 町の近所の森。

 午前から始めて、空にはもう夕暮れが見えていた。


「もうこんな時間か」


 俺は今日5匹目のハムラビットを布袋に詰め、肩に担いだ。

 一日に打てる【ファイアボルト】は、俺の魔力量では5発程度が限界だ。

 無理して発動し魔力欠乏で死んだ魔術師がいるらしく、これ以上は下手に打てない。


 冒険者ギルドの受付でハムラビットを買い取ってもらった。

 4匹で銀貨一枚――1000G。

 これを銅貨10枚で貰う。

 もう一匹のハムラビットは100Gを払い傍の食堂で焼いてもらう。

 300Gでビールを買い、焼き上がったハムラビットに簡単な味付けをしてもらい晩飯の完成だ。


 俺はその二つを持って席についた。

 握りしめていた残りの600Gをポケットに入れた。

 これも明日には飲み物や飯代に消える。


「お、シンクじゃん!」


 それはエルマーだった。隣にはリナリーの姿もある。

 二人は高等部の頃の同級生だ。

 確か魔術大学に進学したと聞いた。


 適当に「ちーっす」と反応だけしておいた。

 エルマーには昔せんどバカにされた。

 記憶が正しければ最初に俺をデメリット呼ばわりしたのはエルマーだ。

 ただいつだったか不憫に思ったらしく、謎に魔術の指導をしてくれたことがあった。

 まあ、一ミリも効果はなかったけど……。


 二人は向かいの席に座った。

 俺と同じで飯時だったらしい。

 だがその品々は同じではない。

 ハムラビットの丸焼きに加え、葡萄ぶどう酒やサラダやガーリックライスまである。


「なんだよ、そんな睨むなよ。昔の仲だろ?」

「久しぶりに見るけど、あんた、何か目つき悪くなってない?」

「そりゃ悪くもなりますよ。お二人と違って僕はウサギ一匹だし……。箸にも棒にも引っかからない、ただの冒険者くずれですから」

「見違えるくらい卑屈になったなー、シンク」


 イラっとして睨むと、エルマーは「冗談だって」と笑った。

 なんか知らんがサラダをくれたので流してやった。

 

「もしかして、まだメリットないの?」

「“メリットは発現していないのか?”――聞くならそう聞いてくれ」

「え、嘘でしょ?」

「発現してないけど?」

「おいおい、マジかよ。遅くても普通、17歳と半年以内には発現するもんだぞ」

「なにを今さら……。卒業式で校長先生が俺の時だけ“メリットなし”って言ったの覚えてないのか?」

「いや、覚えてるけど……」

「そうだよなあ? みんな、あんなに楽しそうに笑ってたもんなあ? 忘れる訳ないよなあ?」


 俺はヴァイキングのようにハムラビットの足を食いちぎった。


「明るさだけが取り柄だったのに、あんたやっぱり卑屈になってない?」

「……お前らは親がいて金もあって、だから魔術大学にもいけて幸せな毎日送ってんだろうけど、俺は親なし金なしメリットなしだ」

「三重苦ってやつか……」


 また睨んでしまった。

 エルマーは目をそらす。


「正直ギルド内じゃ冒険者とも認められてない。【ファイアボルト】しか使えないんじゃパーティーには入れてもらえない、デメリットにしかならないからな。だからソロでやってる。多分、これからもずっとそうだ」


 肉を食べ終え、ビールを最後まで流し込み席を立った。


「サラダ、ありがとう」

「もう行くのか?」

「二人は将来有望な魔術師だろ。卒業したら、宮廷魔導師とかになんの?」

「リナリーは目指してるけど」

「……そっか。住む世界が違うな」

「シンク……」リナリーは同情の目を向けた。

「だったらあんま俺みたいな奴に近寄らない方がいい。悪評がうつったら内申書に響くぞ」


 それを捨て台詞に、食堂に皿とジョッキを返し、俺はギルドをあとにした。


 家に帰ってから、ギルドでのことを少し悔やんだ。

 高等部にいた頃、あいつらも俺をバカにする連中の一部だった。

 だが今となっては悪意なんてないだろう。

 分かってはいても、理屈通りにはいかない……。




 〇




 それから俺はまた毎日ハムラビットを狩り続けた。

 たまにちょっと強めのビーフラビットにも手を出した。ほんのちょっとだ。

 調子に乗ってナイトラビットを相手にし、倒せず魔力を使い切って一銭も稼げない日があり、身の丈に合わないことはするもんじゃないなーと学んだ。


 それから月日が過ぎ、21歳を迎えた朝。

 俺はなんとも中途半端なその年齢で、メリットを発現した。


「ぎょわっ!……な、なんだ?」


 寝起きで洗面台に向かった時のことだ。

 鏡に映った自分の両目が、何故か赤く発光していることに気が付いた。

 それに何だか肉付きもいい。

 胸板や二の腕に筋肉がついていた。


 ファイアボルトバカとも呼ばれたこの俺の才能に気付き、伝説の魔物が殺しに来たのかと思った。

 冗談だ。そんなことは一ミリも思ってない。


 鏡に顔を近づけ確認すると、瞳は食紅のように真っ赤だ。


「充血してる? って訳じゃなさそうだなー。てかこっわ」


 魔法陣にも似た模様が赤い瞳に現れている。


「メリットだよなあ、これ?」


 そうとしか考えられなかった。

 服に着替え、俺は早速日課のハムラビット狩りに森へ出かけた。


 いつもの森に到着し、散策を開始する。

 慣れたもんで、すぐに一匹目のハムラビットを見つけた。


 ――『【致命眼マグニ・トラウマ】が発動しました』


「――だっ、誰だ!?」


 急に背後で声が聞こえた。


「……」


 だが振り返っても誰もいない。


「気のせいか?……」


 気を取り直しハムラビットを目視する。

 そこで異変に気付く。


「……なんだ?」


 ハムラビットの額に、小さな黒い火が灯っていた。

 新種のモンスターだろうか?

 だが見た目はいつものハムラビットだ。

 ビーフラビットのように体が大きい訳でもなく、ナイトラビットのように二足歩行でもなく、剣や盾だって持っていない。


「ま、いっか……」


 とりあえず狩ってしまおう――。


「【ファイアボルト】!」


 突き出した拳の先に赤い魔法陣が現れ、そこから燃える球体が飛び出す。

 火球はいつもの感じで飛んでいき、見事命中した。

 手慣れたもんだ。


 最初の頃はよく外していた。

 モンスターには刃物も有効だから市場で安くかった短剣を持ってはいる。

 だが防具を買う金はない。

 こんな無防備な状態で、下級であれモンスターに近づく訳にはいかない。

 調子に乗った結末は経験済みだ。


「ん?」


 仕留めたハムラビットに近寄った。

 そこで一つ、いつもと違うことに気付いた。

 胴体を狙ったはずが、火球は額をぶち抜いていたのだ。


「あれ? おっかしいなー、手元狂ったか?」


 【ファイアボルト】しか使えないから、とにかく命中精度だけはそれなりに鍛えてきたつもりだ。完璧とはいえないが。

 それと、ハムラビットの額には黒い火など灯っていなかった。

 さっきのは見間違いか?……。


「なっ!?」


 そのとき、森からモンスターのものと思われる鳴き声が聞こえた。

 ――間違いない、ナイトラビットだ。


「まずい……」


 その場から避難しようとしてすぐ、森の茂みからモンスターの陰が現れた。


「くそ……」


 ナイトラビットではなかった。

 そのさらに上位――アリスラビットだ。


 アリスラビットはラビット界の魔術師。

 紫のローブを着込む二足歩行のラビットで、サイズは成人男性ほど。

 首から下げた銀の懐中時計で催眠魔術を使い、対象をあの世へいざなうと言われている。

 餌食になると死体も見つからないらしく、実際のところどうなるのかは分からない。


「こんな時に……」


 確認だけのつもりだったのに……。

 だがやるしかない。


 と、そこでまた声が聞こえた――。


 ――『【致命眼マグニ・トラウマ】が発動しました』


「だから誰だよ!」


 だが辺りには俺とアリスラビットしか……。


「え!?」


 アリスラビットの胸元にある懐中時計に、黒い火が灯っている。

 さっき見た時はなかったはずだ。

 それにラビット種が黒い火を灯すなんて聞いたことがない。


「どういうことだ?」


 ハムラビットの額にも同じものがあった。

 だが殺した時には火なんかなかった。

 胴体の中心を狙ったはずの【ファイアボルト】は、勝手に黒い火の灯っていた額をぶち抜いていた。


「まさか……」


 まさか俺のメリットって……。


 そのとき、アリスラビットの懐中時計がリンリンと鳴り、狂ったように震え始めた。

 奴はまるで勝ち誇ったように耳の痛い雄叫びを上げる。

 マズい――。


「――【ファイアボルト】!」


 俺はなりふり構わず魔術を放った。

 確信はある。

 俺の考えが正しければ、これで――。


 放った火球はアリスラビットから少しズレた方向へ飛んだ。

 狙っている暇はなかった。だがそれでいい。


 懐中時計を警戒し、俺はすぐさまダッシュした。火球の様子を確認する。ダメか……。

 だがそう思った時だ。

 火球の進路がアリスラビットのいる正確な方向へ修正された。

 そのまま懐中時計のど真ん中に直撃した。


「当たった!」


 ――やっぱりそうだ。


 つまり、この目は対象の急所を見抜き、そして魔術を急所へ誘導する。

 ハムラビットの額に黒い火が灯っていたのはそういうことだ。

 【ファイアボルト】が5発までしか使えないから、俺は普段ミスらないように的の広い胴体を狙う。

 だが本当は頭の方がいいことは知ってる。

 ハムラビットの弱点が頭の、それも額だからだ。


「つまりアリスラビットの急所は、あの懐中時計だってことか」


 よし、もう一発だ。

 残りの3発全弾、奴の急所にすべてぶつけっ……。


「へ?……」


 白目をむき出しにし、アリスラビットは背中から地に倒れた。

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