第14話 妖精の味

 僕が宿舎に戻れたのは日暮れ前だ。

 空には藍色の夕陽が広がっている。


 森の外延部沿って立ち並ぶ各屋敷の前に、貴族の遺体が多数並べられていた。

 その前では複数の教員が頭を抱えたように俯いていた。

 同じく平民のものである遺体も間隔を随分と空けた先から並べられていた。

 そこで僕は疑問に思った。


 森に入る前に確認した時、平民の数は貴族よりも圧倒的に多かった。

 ざっと騎士生の三倍はいたはずだ。

 だというのに平民の遺体の数が少ない。

 騎士生の遺体の方が圧倒的に多かった。


 一人の教員が「他に行方のわかっていない生徒はいませんか」と辺りへ問いかける、と歩み寄った貴族の生徒が指で人数を示し答えている姿が見えた。

 指の数は「一」を示していた。


「クライン! どこにいる、クライン!」


 トーマスの姿が見えた。

 流石はお坊ちゃまだ。

 無傷とは感服する。


 その時「ファイブリースくん、見つかったわ!」というレアーナの声が聞こえた。

 森の中より担架をかかえる数人の教員と生徒の姿が見えた。

 深刻な表情で、トーマスは歩み寄った。


 〇


 地面におろされた担架の上。

 そこに横たわるクラインらしきものの遺体を見たトーマスの表情は硬直していた。


「嘘だ……」


 そのグロテスクな有様に、思わずといった様子でトーマスは後退った。


 クライン・シュバルツェの遺体は原型を留めていなかった。

 顔のほとんどは溶けたように崩れていた。

 判別できたのは服装と、偶々行方不明者が一人だったことからだろう。


「これは酸ですね」


 ワルドナー先生は指で溶けた頭部にそっと触れた。


「先生、素手で触れては」とアンダーソン先生。

 どうやらワルドナー先生は指先をリトルバースで覆ているため、酸の影響を受けないらしい。


 教員や生き残った騎士生は物悲しそうにその様子を見ていた。

 見守っている感じだ。

 僕は少し距離をおいた場所から見物していた。


「キリアム」


 声が聞こえたと思った瞬間、ぎゅっと抱き着かれた。


「……レアーナ?」

「良かったわ、無事で」


 レアーナはそう言いながら、少し目を赤くしていた。


「あれ、キリアム、なんか雰囲気が変わってない?」

「え?」

「なんだか急に、血色がよくなった感じがするわ」


 そう言われ、手首の肌の色を確かめてみた。

 言われてみれば、という感じだ。

 だが正直わからない。

 それはレアーナだからわかったことなのかもしれない。


「気のせいだよ」

「でも、こことか、ちょっと肌が白っぽくなってない? 朝は浅黒かったでしょ?」

「……そうかなあ。あ、もしかすると森で栄養のあるものを食べたからかもしれない」

「栄養のあるもの?……ふ~ん、そうなんだ。それより、まだ聞いてなかったわよね。その腕、どうしたの?」


 左腕のことなんてすっかり忘れていた。

 あいつらの顔を見れば思い出すだろうが。


「式を妨害した罰さ」

「え……」


 レアーナは絶句した。


「嘘だよ」


 僕はにこっと笑ってそう言った。

 レアーナは無理して表情を戻そうとしたのか苦笑いをした。


「公園に出かけた時、ちょっとね……」


 僕は含みを持たせて言った。


「まさか、クリーチャー?」

「そんな感じ。でも平気さ、後始末は自分でちゃんとできる。もう子供じゃないからね」

「……クリーチャーには近づかない方がいいわ」


 レアーナは僕の左肩を優しくさすった。

 表情は悲しみに溢れている。


「そうだね。でも、失ったものは戻らないけど、失くしただけじゃ無様だろ? 無茶はしないけど、だけどいつか振り返った時に、あれが僕の分岐点だったのかもしれないって、笑ってそう言えるような経験にしたいんだ。後悔だけするようなものにはしたくないんだよ」

「……大袈裟ね」


 レアーナは微笑むと、左肩から手を離した。


「森はキリアムの庭みたいなものだし、私はそんなに心配してないわ。落ち込んでなくて良かった。何もしてあげられなくて、ごめんね」


 レアーナは申し訳なさそうに言った。


「ううん、いいんだ」


 僕は首を振って言った。


「自分でできるようになったから」

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