EP.013「分散作戦」
オルタスがくれた48時間——刻一刻と迫る時間制限の中で、八重奏は決断を迫られていた。
カイの提案した分散作戦は危険極まりない。八人が別々の方向へ散れば、クロノスに各個撃破される可能性が高い。しかし、15もの世界を同時に守り、ソフィアを救うには、これしか方法がない。
「作戦はこうだ」
カイはホログラム地図を表示した。
「クロノスが支配している15の世界を、八つのチームに分割する。それぞれの世界には、その世界に適した共鳴体が向かう」
地図には15の光点が表示され、それらが八つのグループに分けられた。
「私が最も危険な三つの世界を担当する」
カイは三つの点を指さした。
「ここはかつて虚無の使徒の拠点だった場所だ。私の経験が生きる」
ヴァルターが兄の横に立った。
「私も行く。父の罪を正すために」
「待て」
アイン・ソフが制止した。
「お前たち二人だけでは危険すぎる。私も同行する」
エラの幻影が心配そうに言った。
「アイン、あなたの力はまだ完全には回復していない」
「それでも行く」
アイン・ソフの声には揺るぎない決意があった。
「これは私の責任だ」
エリアスが残りのメンバーを見渡した。
「では、他の世界はこう分担しよう。セレインとネレイドは生命豊かな世界へ。ルナは闇の影響が強い世界へ。リリアンは高度な技術を持つ世界へ。マルコは——」
「私はソフィアの元に行く」
マルコは遮った。
「妹が一番必要としている時だ」
「だがクリスタルはクロノスの本拠地だ」
リリアンが警告した。
「最も危険な場所になる」
「だからこそ行く」
マルコの目には一途な決意が燃えていた。
「オルタス先生もあそこにいる。二人で協力できる」
エリアスは一瞬考え、うなずいた。
「わかった。では私が他の二つの世界をカバーしよう。機械共鳴体としての力も、そろそろ試す時だ」
「一人で二つの世界?」
セレインが心配そうに尋ねた。
「無理よ」
「大丈夫」
エリアスは微笑んだ。
「調和の力があれば、なんとかなる」
作戦の詳細が決まった。48時間という限られた時間の中で、各チームは以下の任務を遂行しなければならない:
1. 支配された世界の解放
2. 虚無の鍵の分離装置の破壊
3. ソフィアへのエネルギー供給ルートの切断
「一番の問題は通信だ」
リリアンが技術的な課題を指摘した。
「クロノスは次元通信を監視している。連絡を取り合うのは難しい」
その時、エラの幻影が提案した。
「『心の糸』を使いましょう」
「心の糸?」
エリアスは聞き返した。
「八重奏の絆を物理的な繋がりに変換する技術です」
エラは説明した。
「短時間ですが、お互いの感情や危険を感知できます。ただし——」
「代償があるな」
アイン・ソフが重々しく言った。
「糸が切れた時、大きな精神的打撃を受ける」
「それでも必要だ」
カイは即答した。
「孤立無援では勝てない」
全員が同意した。エラとアイン・ソフが力を合わせ、八人の間に光の糸を紡いだ。それは目には見えないが、心で感じられる繋がりだった。
「これで準備は整った」
エリアスは仲間たちを見渡した。
「48時間後、ここで再集結する。どんなことがあっても」
「約束だ」
全員が声を揃えた。
八つのゲートが同時に開かれた。それぞれのチームが、それぞれの戦場へと旅立っていく。
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〚第一戦線:カイ、ヴァルター、アイン・ソフのチーム〛
三人が向かったのは、かつて虚無の使徒たちの本拠地だった「忘却の谷」だった。ここは第0世界の破片が落ちた場所で、次元の歪みが特に激しかった。
「ここは…」
ヴァルターは息をのんだ。
谷は影に覆われ、地面からは黒い煙のようなものが立ち上っていた。かつての使徒たちが、クロノスの支配下で新たな姿に変えられていた。
「奴は使徒たちを『強化』した」
アイン・ソフが分析した。
「虚無の力に、支配の意志を加えている」
突然、影が動いた。無数の使徒が谷の四方から現れ、三人を取り囲む。しかし彼らの動きは以前とは違う——組織的で、戦術的だ。
「陣形を組め」
カイが指示した。
「父が中央で防御を。私とヴァルターが両翼を」
アイン・ソフは両手を広げ、光と闇のバリアを展開した。カイは黄金の剣を、ヴァルターは闇の鎌を構える。
戦いが始まった。しかしすぐに、三人は問題に気付く。使徒たちが倒されても、すぐに復活するのだ。
「虚無の鍵の力で再生している」
ヴァルターが叫んだ。
「源を絶たなければ!」
その時、谷の奥から声が響いた。
「ようこそ、始祖の家族たち」
現れたのは、黒いローブをまとった女性だった。年齢は40代くらい、かつては美しかったであろう顔には、深い悲哀の影が刻まれていた。
「私はモルガナ。かつてはエラ様の弟子でした」
彼女は哀れみ深げに微笑んだ。
「今は、クロノス様の右腕として、この世界を管理しています」
アイン・ソフは驚いた表情を浮かべた。
「モルガナ…お前が生きていたのか」
「死んだ方がましでした」
モルガナの目に涙が光る。
「第0世界が消えた時、私は全てを失いました。クロノス様だけが、私に新たな目的を与えてくれた」
カイは彼女の悲しみを感じ取った。
「師匠も後悔していた。あなたのような弟子を失ったことを」
「遅すぎます」
モルガナは首を振った。
「今の私があるのは、クロノス様のおかげです。ですから、お引き止めします」
彼女が手を上げると、谷全体が闇に包まれた。三人は完全に孤立し、お互いの姿さえ見えなくなった。
「父!カイ!」
ヴァルターが叫んだが、返答はない。
闇の中で、モルガナの声がささやく。
『それぞれの闇と向き合いなさい』
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〚第二戦線:セレインとネレイド〛
二人が向かったのは「緑の楽園」と呼ばれる世界だった。かつては豊かな自然に恵まれていたが、今では半分が灰色の砂漠と化していた。
「なんてこと…」
セレインは胸が痛むのを感じた。
ネレイドは海の感覚を研ぎ澄ませた。
「水が…苦しんでいる。汚染されている」
突然、地面が裂け、無数の根が襲いかかってきた。しかしそれは普通の植物ではない——黒く変色し、棘が生えている。
「自然が歪められている」
セレインは悲しげに言った。
「癒さなければ」
彼女は地面に手を当て、自然共鳴を開始した。緑の光が広がり、歪んだ植物たちを浄化しようとする。
しかし、光に触れた植物は逆に狂暴化し、より激しく襲いかかってくる。
「効かない!」
セレインは驚いて手を引いた。
「待って」
ネレイドが制止した。
「これは自然そのものの防御反応かもしれない。何かから守っているのかも」
二人は注意深く前進した。砂漠の中心に、巨大な装置が建っているのを見つけた。それは虚無の鍵のエネルギーを増幅し、世界全体に広げる装置だった。
装置の周りには、無数の動物の死骸が散らばっていた。それらもまた、歪んだ姿に変えられていた。
「見て」
ネレイドが指さした。
装置のそばに、一人の少年が立っていた。年齢は10歳くらい、目は虚ろで、体からは微かな黒いオーラが漂っている。
「あの子が…この世界の『鍵』だ」セレインは直感した。「彼を通じて、クロノスが世界を支配している」
「でも子供じゃないか」
ネレイドはためらった。
「年齢は関係ない」
突然、少年が口を開いた。しかし声は少年のものではなく、大人の、冷たいものだった。
「私はこの世界の『適応者』だ。クロノス様の意志を受け入れ、進化した」
少年の体が変形し始める。植物と動物の特徴が混ざり合った、恐ろしい姿へと。
「自然の調和を破壊する者には、容赦しない」
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〚第三戦線:ルナ単独〛
ルナが向かったのは「永久闇の世界」だった。ここはノクス・テラに似ているが、さらに闇が濃く、光を完全に拒絶する。
「私の世界に似ている…でも、どこか違う」
ルナは闇の感覚を研ぎ澄ませた。この世界の闇は、自然なものではない。誰かが意図的に濃くしたものだ。
闇の中を進むと、廃墟のような都市にたどり着いた。建物はすべて崩れ、誰もいない。しかし、ルナは「気配」を感じた。
目には見えないが、確かに誰かがいる。
「現れなさい」
ルナは静かに言った。
「あなたの闇は、私には見えている」
影が動いた。無数の人々が、闇の中から現れた。しかし彼らは生身ではなく、影そのもの——闇でできた存在だった。
「私たちは…光を失った者たち」
影の一人が話しかけた。
「クロノス様が、闇の中での新たな生き方を教えてくれた」
「それは生きていることではない」
ルナは言い切った。
「闇の中にも光は必要だ。バランスが大事なのだ」
「光は痛い!」
別の影が叫んだ。
「光は私たちを傷つける!」
ルナは理解した。この世界の人々は、かつて何か恐ろしい光の災害に遭ったのだ。それで完全な闇を選んだ。
「私が示そう」
ルナは両手を広げた。
「痛くない光を」
彼女の黄昏の光が広がる——闇でも光でもない、その中間の優しい輝きが。
影たちは最初は恐れたが、次第にその光に近づいてきた。
その時、地面が揺れた。闇の奥から、巨大な影の怪物が現れる。
「調和を乱す者は許さない」
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〚第四戦線:リリアン単独〛
リリアンが向かったのは「高度技術世界」だった。ここはアイアン・シティに似ているが、さらに技術が進んでおり、人々のほとんどが完全な機械生命体になっていた。
「驚くべき技術レベル」
リリアンは分析器を手に、街を観察した。
しかしすぐに、異常に気付く。人々の動きが完全に同期しているのだ。全員が同じリズムで歩き、同じタイミングで動作する。
「集団意識の統制…恐ろしい」
リリアンが中央制御塔に近づくと、自動防御システムが作動した。レーザー網が張り巡らされ、戦闘ロボットが出現する。
「私は敵ではない!」
リリアンは叫んだが、通じない。
彼女は急いでハッキングを試みる。リリアンの機械共鳴体としての能力が、この世界のシステムと対話を始める。
『外部プログラムを検知。同化プロセスを開始します』
冷たい機械音声が響く。リリアンの意識が、ネットワークに引き込まれそうになる。
「これは…意識の吸収!?」
彼女は必死に抵抗するが、システムの力が強すぎる。完全に機械化された世界の集団意識は、一個人の意志を容易に飲み込もうとする。
その時、リリアンの記憶の中から、ある声が響いた。
>>「リリアン、覚えているか?私が教えた『バックドア』を」<<
オルタスの声だ。彼は以前、万が一のための緊急プロトコルを教えていた。
リリアンはその知識を使い、システムに逆侵入を試みる。危険な賭けだが、他に方法はない。
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〚第五戦線:マルコ単独〛
マルコは直接、ソフィアの元へ向かった。クリスタルは街の中心から移動し、山奥の研究所に移されていた。
「ソフィア…すぐに会いに行く」
彼は密林の中を進む。クロノスの警備兵がところどころに配置されているが、マルコはかつての軍人としての訓練を生かし、巧みに避けていく。
研究所に近づくと、警備がさらに厳しくなる。自動砲台、動体感知器、エネルギーシールド——最新の防御システムが完備されている。
「正面突破は無理だ」
マルコは隠れ場所から様子をうかがった。
「別のルートを…」
その時、彼の背後から声がした。
「待ちましたよ、ヴァレンティ隊長」
振り返ると、見知らぬ男が立っていた。軍服を着て、鋭い目をしている。
「私はクロノス様の護衛隊長、サージェント・ストライクです。あなたのような優秀な軍人を、ぜひ仲間にしたい」
「妹を返せ」
マルコは武器を構えた。
「お嬢様は幸せですよ」
ストライクは冷笑した。
「クロノス様の計画の中心にいます。あなたも加われば、兄妹揃って新世界の創造者になれます」
「ソフィアが望んだのはそんなことじゃない」
「では、実力で確かめましょう」
ストライクが特殊な武器を取り出した。それは虚無の鍵のエネルギーを利用した、存在そのものを不安定化させる兵器だ。
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〚第六戦線:エリアス単独、二つの世界〛
エリアスはまず、最初の世界「機械と魔法の融合世界」へ向かった。ここは技術と魔術が共存する、珍しい世界だった。
街では機械のゴーレムが魔法で動き、魔術師たちがコンピューターを使っている。
「面白い世界だ」
エリアスは感心した。
しかし、調和の共鳴体として、彼はすぐに問題を感知した。技術と魔法が衝突し、不安定なエネルギーが発生している。
「クロノスの装置が、このバランスを故意に乱している」
エリアスは街の中心にある塔を目指した。そこから、虚無の鍵のエネルギーが流れ出している。
塔の前で、一人の老人が待ち構えていた。
「待っていたよ、調和の共鳴体よ」
老人は長い白髭を蓄え、片目は機械の義眼になっている。
「私はこの世界の元老院長だ。クロノス様の計画に反対する者を、ここで止める役目だ」
「なぜ協力する?」
エリアスは尋ねた。
「この世界の調和を乱しているのに」
「乱している?」
老人は笑った。
「私は調和を『進化』させているのだ。技術と魔法の完全な融合——新たな文明の誕生だ」
彼が杖を掲げると、周囲の機械と魔法が一つに融合し始める。しかしその融合は美しいものではなく、歪んだ怪物を生み出していた。
「これが真の調和ではない!」
エリアスは叫んだ。
「強制された統合だ!」
「ならば、止めてみせよ」
戦いが始まる。エリアスは機械共鳴体としての力と、調和の力を駆使するが、老人の力は強力だ。
そして最も危険なのは、エリアスがもう一つの世界にも同時に向かわなければならないことだった。時間は限られている。
心の糸が微かに震える。仲間たちも、それぞれの戦いを繰り広げている。
48時間の戦いは、始まったばかりだった。
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