論破スキル『死んでください』を手に入れた俺は、村人を抹殺する!
酒とゾンビ/蒸留ロメロ
第1話
「能無しのお前に! 食わせる飯はねぇ! 生きたきゃこの村を出ていけ!」
それが村長の最後のセリフだった。
生れてから17年。
俺はその、フトウ村で育ち、酸いも甘いも経験し生きてきた。
フトウ村では15歳を迎えると男は近所の森や谷に狩りへ出かけなくてはいけない。
それがこの村の掟であり、そこで取れた肉や魚が俺たちの生命線だった。
もちろん俺もそれを食べてここまで育った。
同期のオスカルやラダンは非常に筋肉質な体をしていた。
もちろん他の大人もそうだ。
この村にはそういう魔法でもかかっているのだろうか?
男は15歳を迎える頃には、皆、鉄板でも入っているのかと言わんばかりの、膨れ上がった胸と腕を携える。
だが俺は15歳を迎えても、ヒョロガリだった。
そしてそれから2年の月日がたった今になっても、それは変わらず、俺はヒョロガリのままだった。
「狩りができないだと?! 一体、お前は何をするんだ?!」
15歳を迎えた時点でオスカルもラダンも巧みに獲物を捕まえていた。
だが俺はむしろ獲物に捕まえられ、殺されそうになる始末。
向いていない……無理だ。
俺は初見で、そう自覚した。
だが村長や村の皆は、俺に狩りを強要した。
“何のために生まれてきたんだ?!”と、俺は存在を否定された。
それまで友好的だった、オスカルやラダンでさえも、俺を見る度に、苦虫を噛み潰したような顔をする。
そして今日、村長や村の連中の堪忍袋の緒が切れた時、俺は自分の堪忍袋の緒が切れる前に、無理やり引きちぎり、「世話になったな! 人でなし共!」の一言を吐き捨て、「もう帰ってくんじゃねえぞ!」という、涙が出てくるような怒号に見送られ、村を飛び出してきた。
そして街道を歩き、辿りついたのがここ、
――デミグラス王国だ。
元々、近場だったこともあるが、魔物に遭遇しなかったことで予定より早く到着出来た。
時間は正午。
「よし! 俺はここで生きるぞ!」
ヒョロガリではあったが、俺は根拠のない自身に満ち溢れていた。
そしてこの自信こそが、今の俺を支えていると言っても過言ではない。
検問を通り過ぎ、俺は国へ入っていく。
他の国には言ったことがないので分からないが、この国は比較的、警備が緩いように思う。
というのも、ここは特に冒険者ギルドがいくつもあり、彼らの活動が盛んなのだ。
そして何かあった時には、彼ら冒険者に任せればいいという、いい加減な考えから警備が他国よりも手薄である。
もちろんこれは俺の憶測に過ぎない。
だが見たところ、大体間違ってはいないはずだ。
そんなこんなで、俺は冒険者ギルドに辿りついた。
他にもギルドはあるから特にここでなくてもいいのだが、他へ行く理由もないので、考えなしにギルドに入る。
「すいません。冒険者登録をしたいのですが?」
「初心者プレーヤーの方ですね? ではお名前をお願いします」
「――ロン太です」
「は?」
そう……俺の名前はロン太。
悪事で肥やした貴族のように、偉そうな姓すらない。
ただのロン太だ。
受付のお姉さんも思わず、聞き返していた。
つまり……そういうことだ。
「あら? ロン太様? どうやら以前にもこちらへ来られたことがあるようですが?」
実はそうなのだ。
このギルドへは幼い頃にも一度訪れている。
その時すでに、冒険者登録は済ませた。
だがもう何年も昔の話だ。
まさかまだ生きていたとは思わなかった。
「あ! そうですか……じゃあ、冒険者カードの再発行だけお願いします」
すると受付嬢は直ぐに、下から新しいカードを取り出した。
「こちらになります」
俺はお礼を言い、その場を後にする。
そして一度、ギルドの中を見渡してみた。
悪そうな奴から、大人しそうな奴まで色々だ。
冒険者の仕事は色々だ。
だが主に依頼を受けることから始まる。
そしてその殆どは魔物の討伐である。
つまり俺一人では、心もとない。
ということで、パーティーを探そう。
どこかに入れてくれそうな奴らはいないか?……
だがそれらしい奴は見当たらない。
1階がダメなら、2階だ。
俺は直ぐに切り替え、階段を上った。
そして最初に目に入った良さそうな“物件”に声をかける。
「あの……すいません」
「ん? なんだあんちゃん?」
と、俺が話しかけたのは、ゴリゴリの体力馬鹿……じゃなくて、たくましい体と鎧を纏った冒険者だった。
「実は参加可能なパーティーを探してまして……」
最初は低姿勢でいこう。
これは基本だ。
「ああ、そうかい。運がいいな? 実は俺たちも探していたところなんだ。昨日の夜、バフのマイケルが死んじまってな? まあバフじゃなくてもいいが、とりあえず代えのメンバーを探していたところだ」
冒険者の世界に死はつきものだ。
マイケルが死んだことも珍しい事ではない。
その証拠に、彼らは特に悲しんでいる様子もなかった。
「それで? 見たところあんたは何も装備してないみたいだが?……魔導師か? どうやって敵を殺す?」
「もちろん、拳で!」
「は?」
いや、マズイことを言ったのは分かっている。
そりゃそうだ。
魔物を素手で殺すなど、チャンピオン級の剣闘士くらいのもだ。
俺のようなヒョロガリが、そう言ったところで、舐めているとしか思われないだろう。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ話には続きがあるんです! 俺は力に自信はありませんが、足だけは速いんです。最初は囮から始めてもいい。だからとりあえずパーティーにですね……」
「ぁあ? ふざけんじゃねえぞ! クソガキがあ! 俺たちは命をかけて冒険者やってんだ! それを素手でパーティーに入れてくれだあ?! 舐めた口きいてんじゃねえ!」
筋肉馬鹿はもの凄い怒号で俺を威嚇してきた。
これが冒険者か……流石に、泣きそうだぜ。
ちなみにさっき言った“足が速い”とかは全部ウソだ。
するとその時、男の剛腕が俺の顔に迫った。
俺は一瞬、死を予感した。
「ちょっと待った!」
だがその時だった。
「ぁあ? 取り込み中なんだ、邪魔すんじゃねえ!」
隣の席にいた男が口を挟んできた。
「いやいや君じゃなくてね? 僕は彼に用があるんだ」
そういったのは金髪のイケメンだった。
こういうタイプの優男はあまり好きではないが、そうも言ってはいられない。
「俺?」
俺はわざとらしく、筋肉馬鹿の前の通り抜け、その優男に近寄った。
「実は私のパーティーも昨夜、トムを失ってね? 新しいメンバーを探していたところなんだ」
どうやら俺はついているらしい。
「おい! まだ話は終わってねえぞ!」
だが筋肉馬鹿がまだ怒っている。
するとその筋肉の後ろにいたパーティーメンバーが何やら、耳打ちをしている。
すると筋肉は、“はっ!”としたように、目を見開いた。
「ちっ! まあいい! おい坊主? もう俺に声をかけんじゃねえぞ? 次やったら殺すからなぁ?」
「了解です!」
何があったか知らないが、何事もなくことを治められるのならと、俺は即答する。
そして俺は優男と話をした。
実はその亡くなったトムというのは、足の速いアタッカーだったらしい。
敵は体勢を崩した隙を突き、素早く命を刈り取るのが役目だ。
だが昨夜、逆に命を刈り取られてしまったらしい。
ということで“足の速い”俺に声をかけたという訳だ。
「よければ内のパーティーに入ってくれないかい?」
「いやいや! 俺なんか頼りないですよ?」
「そうかい? 私は君なら歓迎なんだが……」
「是非! お願いします!」
試に引いてみた。
特に意味はないが。
だが誰でもいいから、という理由で声をかけているという可能性もある。
過言ではあったが俺は先ほど、囮でもいいと言ったんだ。
だが実際、囮にされるのはごめんだ。
俺はそんなに急いでいないし、出来ればゆっくりと金を稼ぎたいのだ。
そして村の連中を見返してやりたい。
「あれ? その子はどうしたの?」
「お! なんだ? 新入りか?」
するとそこへ杖を持った女性と剣を携えた男性が現れた。
「ああ、新しいアタッカーだ!」
すると豊満な胸と魔女帽子を携えた女性が握手を求めてきた。
「はじめましてキャサリンよ。あなたは?」
「どうもです……ロン太です」
俺は頭をポリポリとかきながら、初めてみる魔導師の豊満な胸に見惚れた。
「ロン太か、変わった名前だな? 俺はジョニーだ。よろしくな?」
気さくな人たちだ。
このパーティーは4人構成だが、昨晩アタッカーのトムが無くなった。
そこに俺が入ったわけだ。
そしてリーダーは金髪優男のアルフレッドさんだ。
その後、適当に会議を開き、戦闘において俺は何を出来るのか? ということを話した。
結局、俺は装備がないことから『拳』と答えるしかなかったわけだが、気を遣ったアルフレッドさんが、短剣を一つ貸してくれた。
とりあえず、これを使って素早く切りつけるのが俺の役目だ。
相手の隙を窺えとのことだ。
そんなこんなで、俺たち4人は、デミグラス平原にやってきていた。
目の前には既に対象の魔物がいる。
――オークキング
「あの……いきなりハイレベル過ぎませんか?」
俺は冒険者としても、すべにおいて初心者だ。
いきなりオークの王を相手にするなんてどうかしている。
「そうか? 俺たちはこう見えてもSランク冒険者なんだ。オークの王なんて娼婦に股を開かせるくらい容易いのさ」
ジョニーはかっこつけた表情でそう言った。
何ともゲスい例えだ。
やはり冒険者というのは、こんなもんなのだろうか?
「ロン太! 隙が出来たぞ!」
優男アルフレッドさんの声が草原に響いた。
見るとキャサリンさんの魔法にさられ、オークキングが尻餅をついているではないか。
「はい! ロン太いきま~す!」
俺は目の前の魔物に怯えつつも、気をしっかりと保ち、短剣を握る。
そして刃先をオークキングに向け、そのまま突っ込んだ。
「おりゃああああ!」
だがその時だった。
尻餅をつき隙が出来ていたはずのオークキングが、巨大な剣を振り下してきたのだ。
「今だキャサリン! 隙が生れた!」
「分かってるわ!」
隙? どういうことだ?
優男の指示に従い、キャサリンさんの魔法がオークキングに向かって放たれた。
「ちょ、ちょっと! 俺もいるんですよ!」
「ジョニー! 全力で斬撃を放て!」
「よっしゃああ!」
ジョニーさんの斬撃が飛んできた。
あれ? どういうことだ?
なんで優男さんは、あんな笑みを浮かべているんだ?
「悪いねロン太くん。魔物というのは敵に襲いかかろうとしているその瞬間に、最も隙が生れるんだ」
俺はその言葉で気づいた。
いや、その邪悪な笑みで気づいた。
「じゃ、じゃあ……俺は……」
「すまないロン太。君には囮になってもらった。だけど本望だろ? 元々、囮志望だったじゃないか?」
この人は分かっている。
俺が冗談で「囮でもやります」と言ったことを……。
そして最初から、俺を囮にするつもりだったんだ。
――ガァアアアアア!
背後でオークキングの唸りが聞こえる。
そして大剣を持ち上げた音も。
つまり、まだ討伐できていない。
そうか……俺はここで切り殺されるのか。
俺の人生って一体なんだったんだろうな?
村の皆には馬鹿にされ、冒険者には騙される。
――――。
俺は走った。
泣きながら走った。
ひたすら走った。
特に自信もないその足で地面を踏みしめ、その場から猛ダッシュで立ち去った。
「囮が逃げたぞ!」
途中、そんな声が聞こえたが、もう俺は振り返ることはなかった。
▽
あれから数時間が経ち、俺はデミグラス王国に戻ってきた。
外は夕日に包まれ、
交代の衛兵が、あくびをしながら警備につく。
すると衛兵と目があった。
「ん? なんだ? 中に入るのか?」
俺は答える気力がなかった。
「あ゛あ゛……ああ……」
「あ? なんて言ったんだ?」
腹も減り、力がでない。
すると段々、むかついてきた。
衛兵は呑気に、パンをかじっている。
うまそうだ。
警備をしながら、間食とは……言い御身分だ。
もう消えろよ。
いや、いっそのこと死んでくれ。
俺の顔を見れば分かるだろ?
腹が減ってるんだよ!
いや……こいつは分かっているはずだ。
そうだ! わざと俺に見せつけているんだ!
「死んで……くれよ……」
「ああ? 今なんていった? 聞き間違いだよなぁ?」
衛兵はニヤニヤしながら、パンを頬張っていた。
ほら、やっぱりそうじゃないか。
国に仕えている人間なんてこんなもんだ。
何が衛兵だ……ただの汚い大人じゃないか。
どうせ殴られるだろうけど、もういいかな……。
「――死んでください!」
「ああ?………ゴフッ!」
へ?……
「貴゛様あ゛あ゛! な゛にを゛……しや゛がった゛!……」
その瞬間、衛兵は口から血を噴き出し、死んだ。
「……は?」
なんだ? どういうことだ?
だが答えは直ぐに分かった。
――“『論破スキル〈死んでください〉が発動しました』”
論破スキル? なんだそりゃ?
俺はおもむろに、地面に落ちていた食いさしのパンを拾い、空腹を誤魔化した。
そしてパンをかじりながら、少し考えてみた。
――――。
つまり、
「俺は言葉で人を殺せるわけか?」
驚く気力もない俺は、冷静に分析し静かにそういった。
「それにしても腹減ったな~」
その時、門の向こうに露店が見えた。
店にはたくさんの果物が並んでいる。
俺は衛兵を門の隅に移動させ、露店に足を運んだ。
「果物はいるかね? 甘くておいしいよ?」
と、おばあさんは迎えてくれた。
「そうですね~じゃあ……」
とりあえず空腹を満たそう。
この果物で――
「――死んでください」
「ガハッ!」
するとその瞬間、おばあさんは口から血を吐き、倒れた。
確認してみたところ、どうやら死んでいるらしい。
――“『論破スキル〈死んでください〉が発動しました』”
俺は血のついていない果物を選び、口に頬張った。
「なるほどな、つまり俺は言葉で人を殺せるわけか」
さっきも言ったことだが、もう一度声に出して言ってみた。
「ということは……」
――そう、俺は最強だ。
剣や魔法はおろか、拳を交えることなく相手を殺すことができるのだ。
果物をかじりながら、俺の足は自然とギルドへ向いていた。
目的はもちろん、優男、キャサリン、ジョニーだ。
あいつらには報いを受けてもらおう。
そしてギルドに到着し、俺は2階へと進んだ。
するとそこに馬鹿笑いをしている3人の姿が見えた。
「ん?……ああ! お前! さっきはよくも逃げやがったなあ!」
優男の第一声はそれだった。
どうやらこれが本当の顔らしい。
まるで賊のような口調だ。
「すいませんでした。お昼に食べたタコスがあたったみたいで、腹をくだしてしまいましてねぇ~」
「ああ? てめえ、舐めてんのか?」
悪党は何故、皆『舐めてんのか?』と言うんだろう?
それしか言葉を知らないのだろうか?
「いえ、大真面目ですよ? タコスがスパイシーさに俺の内臓は耐えられなかったみたいですね」
「どうやら死にてえようだな」
するとアルフレッドは剣を抜いた。
「なんだ? アルフレッド? そいつ殺しちまうのか? だったら俺にやらせてくれよ?」
昼間みた筋肉馬鹿がそう言った。
つまりこいつらは知っていたわけだ。
――全部。
「ところでアルフレッドさん、死ぬ前にお願いがあるんですけど?」
「ん? なんだ?
とりあえず、殺したいだけ殺すか?
「――死んでください」
「何゛故゛ッ!」
優男は口から血を吐き、絶命した。
「キャサリンさんも――死んでください!」
「ほ゛げっ!」
キャサリンさんも吐血し、絶命した。
「ジョニーさん――死んでください!」
「イ゛カ゛サ゛マ゛ッ!」
ジョニーさんは首を押さえ、そのまま死んだ。
「では! 筋肉馬鹿さんと! その他の方々も――死んでください!」
“「り゛ふ゛じ゛ん゛っ!」
その瞬間、その場にいた全員が口から血を吐き、倒れた。
確かめなくても、もう分かる。
俺はテーブルに置いてあった肉と魚をつまみ、腹ごしらえをする。
「よし! 次は村の皆を殺しにいこう!」
俺は冒険者を辞め、再びフトウ村へ向かうのであった。
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