第23話 量産型の視点
吉岡は校門を何とか閉めた。
「田辺くん!こっちは何とか大丈夫だ!・・?・・・田辺くん?」
田辺は道路の端に駐車された車のボンネットの上に倒れていた。
「田辺くん!――」
吉岡はボンネットの上で横たわっている返事のない田辺の元へと駆け寄った。
後から気づいた林も吉岡について行く。
「田辺くん1しっかりするんだ!――」
しかし、返事はない。
その時、林は田辺の前方に位置する道路に、頭に包丁が刺さったまま動かないランナーの姿を見つけた。
「ねぇ!・・あれ!」
「ん?なんだ?!」
林の指さす場所にそれを見つけた時、吉岡は驚きのあまり声が出なかった。
「――林さんと言ったっけ?君はあれが何か分かるかい?」
吉岡はその化け物の死体から目が離れない。
「ゾンビでしょ?田辺はそう言ってた。ほんとくだらないけど――」
「ただのゾンビじゃないさ・・」
吉岡は意識のない田辺を化け物でも見るかのような目で見た。
「田辺くんは個体差があると言っていたが、あれは・・僕の仲間を殺した奴だ」
林はただ気の毒だという表情を見せた。
「まだ分かってないみたいだね?」
林は質問の意味を理解していない。それよりも目の前のそれに嫌悪感を示している。
「仲間はその時、20人いた。俺たちはこの事件の感染源とされる病院を調べに行ったんだ」
「病院?――」
林はその病院が気になった。
「これからだった。中に入ろうとした時、奴は現れた。そして、次々と仲間を襲い、皆・・死んでいった」
「それは・・何というか・・」
「僕は聞いただけだ。最後の生き残りに――そんな奴を、君の友達は1人で殺ってのけた」
林は田辺を見た。そこにいるは林の知らない田辺だ。以前とは違う。
「とりあえず彼を下ろそう。それから適当な民家にでも避難しよう。ここは危ない。いつまたあれが現れるかも分からない」
「分かったわ――」
林は思い出していた。
“「まどか――田辺くんって知ってる?」”
「田辺?――ああ、あのパッとしない人でしょう?」
美鈴はどことなく不安そうな、何かソワソワしたような様子で林に尋ねた。
「パッとしないって――ふっふっ・・まどかは相変わらずね」
美鈴は何故か照れくさそうに笑う。
「何であんたが照れてんのよ?」
「え?私が?――照れてないってば」
「照れてるじゃない――それに何か今日の美鈴、気持ち悪い・・」
林から見ると、いつもと明らかに違う様子の彼女は気味が悪く見えた。
「ねぇ、まどか――田辺くんって彼女とかいるのかなぁ?・・・」
「あれに彼女?いないでしょ。何を間違ったらあんなオタクみたいな人と付き合るのか、彼女がいるなら聞いてみたいくらいよ」
林ははっとした。
「美鈴・・あんたまさか、田辺のこと好きになったとか言わないわよね?」
「私が?違う違う!そういうんじゃないってば――」
「美鈴、あんたねぁー」
「違う!違うってば!――」
そう言って誤魔化し、照れながら微笑む美鈴の顔を思い出していた。
*
民家はどこも扉が閉まっていたが、やっとのことで1件、中に入れそうな民家を見つけた。
林はあまり協力的ではなかった。こちらから頼めば手を貸してくれたのかもしれないが、吉岡は何となく断られそうなオーラを感じた。それに、比較的身軽な田辺一人運び出すくらい簡単だった。
意識のない田辺をリビングまで運び、ようやく吉岡は落ち着くことができた。
「彼はいつも、ああなのかい?」
「え?――いや・・あいつは、その・・あまり学校では目立たないタイプだったから」
「ふーん、なるほど――君にはそう見えていたわけか?まあ、人はみんな自分に都合の良いように物事を見るからね・・」
「違う!あいつは実際、誰とも話さない根暗な奴だったわ」
「だとしたら何が彼をあそこまで成長させたんだろうね?――口は悪いが、僕には強い人間に見えたよ」
吉岡は田辺がランナーに立ち向かう様を思い出していた。
部屋の中は静かだった。風の音と、時折聞こえる物音。
「こいつは私の親友を殺した。そういってた。自分で――平気な顔で・・」
林はうつむいている。
「世の中が変わってまだ数週間しか経ってないが、奴らに噛まれると人は転化する。それだけは分かった。田辺くんにも何か事情があったんだろう。君には分かっているんじゃないか?――本当に彼は平気だったのか・・・あるいは、君にそう見えただけか・・・」
「私は・・・」
「僕にはもう友達や知り合いはいない。仲間も・・実家の両親のことは心配だが、なんとなくもう分かってる。深くは知らないが、君たちは顔見知りなんだろ?だったら今よりも違った関係を築いていけるんじゃないか?」
吉岡は血で染まったナイフをタオルで拭いた。
**********
「お兄ちゃん!お兄ちゃんってば!――」
「結衣!ちょっと落ち着け!――どういうことだ村田?」
車内は騒然としていた。
「少し調べたいことがあるんだ――」
「だから田辺はどうすんだ?!あいつを見捨てんのか?」
冬也の声が車内に響く。
「いや・・むしろ今は田辺くんと関わらない方がいいかもしれない――」
「関わらない方が良いってどういうこと?」
結衣の質問に村田は黙ったまま何も言おうとしない。
「まあなんだ。あいつなら大丈夫だろ?なあ結衣?・・・」
「冬也まで・・みんなおかしいよ!田辺くんは仲間でしょ?!家族でしょ?!」
「言っただろ結衣?俺たちは最初から3人だった。あいつは変わった。今まで見えてこなかった部分も見えてきた。俺たちはあいつと長く関わり過ぎたのかもしれない。だから今は少し距離を置こうってことだろ?なあ村田?――」
村田は何も言わず、ただ下を向いている。
「距離を置くって?いつまで?・・・死んじゃうかもしれないんだよ?・・・」
結衣は涙ぐみながら訴えた。
「結衣?あいつは、お前を守れない。それは村田も言ってただろ?ここらが潮時なんじゃねえか?――」
「私は・・ただ・・・田辺くんが好きなだけなのに・・何で・・」
車内にはただ、小さくすすり泣く声が聞こえる。
「結衣、悪い・・」
その時、ずっと黙っていた村田が口を開いた。
「田辺くんは・・彼は・・・」
――・・・
「感染しているかもしれない・・・」
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