サイドカーで駆ける異世界生活
LA軍
第1話「URAL!!」
「ふふふふ……!」
ついに、
ついに──!
「ついに買ったぞ、俺の念願のサイドカー!!」
──俺こと、室戸零士(むろとれいじ)の目の前には大型サイドカーが燦然と輝いていた。
くぅ~苦節3年!
少ない給料をやりくりし、そして長年勤めた会社を退職したそのお金で、ついに購入したのが、この目の前で燦然と輝くロシア製サイドカー『URAL:ギアアップ』であった。
「いやー。たまらんな、この無骨さとゴツさっ!」
まさに軍用車──!
そしてまさにサイドカーの頂点というべきこの雄姿。
「大戦中のドイツ軍が使っていたサイドカーの流れを汲んでいるっているけど、確かにその名残があるな」
シンプルなデザインの中にも、頑健さを兼ね備えており、いかにも几帳面なドイツ人が原型を設計しただけはあると思わせる。
それに、細部にこだわったデザインとも機能美ともいうべき、機器や部品の数々。
「うぅ……ほんとーに長かった。これを雑誌で見て以来一目ぼれして、ついに俺のもとに!」
ある程度お金をため、一時金を払ってからも納車まで1年も待たされた。
まぁ、ロシア製というだけあって、いろいろね。戦争の影響とか……ね。
ちなみに製造はカザフスタンで、本社はアメリカ。
そして、大阪にある日本の支社を経て届くというなんともよくわからない流通の果てにコイツはある。
「へへ、じゃあさっそく!」
ハンドル左側面についたキーボックスに鍵を差し込むと、唸るようなかすかな電子音とともに電源ON!
「U R A L」のデジタル表示がともっていく。
おぉ……かっこい。
そして、いよいよお待ちかね、スターターの儀!!
カっ!!
ボォォオン!
「おぉぉ、力強い!」
さすがは750cc大馬力エンジン!!
ツインエンジンから、立ちのぼる熱の陽炎。
そして、ツインエンジンとはこれまた贅沢。このサイズのエンジンにしては大型だが、それだけに余裕のある設計と言えるだろう。
その余裕のある構造のおかげで華奢なエンジンサイズのスポーツバイクと違って、ロシアの過酷な環境で、野外走行を視野に入れたその設計思想はちょっとやそっとの悪環境にも値を上げないだけの堅牢さがある。
そうして、エンジンが落ち着いていくと、ッドッドッドッドッド! と人間の鼓動にもにた振動が緩やかに全体に伝わっていく。
たまらん……。
たまらん──!
「たまろんぞなもしぃ!」
よっしゃ!!
さっそくツーリングだ!!
ブォォォオオオオオン!!
退職以来、家に籠りがちだった室戸は、いきなりのロングツーリングを慣行したわけだが、
その心は軽やかだった。
なによりツーストロークエンジンの心地よい振動と、初夏のさわやかな風を切って、どこまでもどこまでも走り続けていけそうだ。
「……ははっ、ブラック企業で心をすり減らした今──俺は風と一体になっている!!」
なかなか臭いセリフを吐きながら快調に走り続ける〇〇。
そして、景色とともに走馬灯のように流れるブラック企業時代のつらい記憶──。
そうして、無職という将来へ不安をさて置きつつも、
初日のながいなが~いツーリングを経て、本日の宿に到着したところで異変は起こった。
シュゥゥ──。
カンッ、カンッ……。
エンジンが空冷する独特の音を聞きながら、静かにキーオフ。メインライトが消えると真っ黒に染まった山奥の光景。
「あれ? ここであってるよな?」
買ったばかりのスマートモニターに表示されたナビは、間違いなく宿の到着を告げている。
しかし、周囲は暗闇に沈み、シンと静まり返っていた。
──あっれれ~?
「おっかしいなー? 今日予約していたはずだけど……」
キャンプの予定は明日なので──
本日だけは、ちょっ~と贅沢して山奥の瀟洒な山荘に泊るつもりだったのだ。
なんか妙に静か。
それに……。
キョロキョロと周囲を見渡すも、
道路は闇に沈み、山荘はどこか
そして気が付けば、すべてが闇に溶けていく。
まるで、世界から染み出すように、徐々に徐々に闇が満ちていく。
「うぇ?!」
え?
え?
え?
ええええええええええ?!
「なんじゃこりゃぁぁぁ…………!」
ついには、サイドカーと自身を除いて、すべてが闇に包まれたとき、意識がプツンと途切れたのであった。
そして、次に気づいたときには、先ほどの闇よりはマシといった程度のぼんやりとした灯のともる空間に自分がいることに気づいた。
「う……な、なんだったんだ、今のは?」
どうやら、体は無事らしい。……おそらく、初サイドカーの興奮のせいで、長距離運転をしすぎたのだろう。おかげで疲れがピークに達したのが原因に違いない。
そのせいで貧血でも起こしたかと思って
……へ?
「お、おぉ! 成功だ!!」
「やったぞ!! 勇者の到来だ!」
は?
え?……だ、だれ?
「勇者??」
―――― あとがき ――――――
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