エロゲーは当倍速で
美しい海は秋
第1話 プロローグとしてのラッキースケベは凶器です
カチカチとクリックの音が部屋に鳴り響く。
着けているヘッドホンからは会話が聞こえる。
「はいはい、聞いたことあるし倍速、倍速っと」
エロゲーをプレイしながら、そんなことを口ずさむ。
重要な
話している内容は途切れ途切れにしか聞こえないが、こういうゲームでは別に選択肢までは会話内容など決まっているので気にしてはいない。
最近は面倒なので、基本的にはこのスタイルでゲームをしている。
エロゲーといえば、多くのジャンルがあったときとは違い、今は手軽にできるものや、ルートが決まっているものが多く。
基本的には選択肢というものは限られている。
「まあ、今回はそれよりかはマシか……」
思わずそんなことを口にするのは、今回やっているエロゲーは、これまでとは違って多くの選択肢から選べるもので、その分値段もしたが、ちゃんとそれに見合うほどのボリュームがある。
エロゲーのタイトルは”エロティックタワー”。
エロゲーとRPGの要素を組み合わせたこれは、名前の通り、メインはそびえたつ塔を攻略するために男女が切磋琢磨……言ってしまえば、くんずほぐれつするというものだが、塔を攻略するときにエロい出来事が多く起こるのがこのゲームの特徴だ。
そんなこのゲームの売りは、全ての女性とヤレるだ。
「くそ、最初はいいけど、こうも何週も物語を進めると飽きはくるよな」
女性たちとの関係を持つことで手に入るギャラリーを集めを何度も行っているものの、うまく全てはうまらない。
「倍速はできても、スキップできないのは辛いよな……」
このゲームでは会話がスキップできないため、倍速を使って選択肢が出るまで進めるのが
とはいえ、選択肢が一つでもずれるとルートが変化するため、一通り会話が終わり、選択肢画面が出たところで少し遡ってログを確認をする必要があるのは面倒くさいものの、やらないことには手に入れたいものも手に入らない。
「えーっと、ここは……」
全員とやれるせいなのかルートが多すぎて、攻略サイトには人気キャラとの行為に進むためのことしか書かれていない。
そのため、今回も自分なりにまとめたノートを確認する。
「これだな……」
しっかりとルートを確認すると選択肢をクリックする。
すでに周回は何百なのか何千なのかすらもわからないほどだ。
こればかりやって楽しいのか?
他の人には、そんなことを言われるかもしれないが、俺だってここまできたらエロゲーだろうとなんだろうと、ギャラリーを全て見たいと思うのが普通だろう。
「ま、こんだけやっても新しいのが見つからないからな……」
だが、今回もギャラリーを手に入れることはできなかった。
「ああ、くそ……ダメなのかよ。後試してない選択肢ってなんだ?そもそもあるのか?」
俺はそう考えるが、いやと首を振る。
文句を言う前にもう少しだけ試すか……時間は……
「こんな時間か……もう一周くらいできるか?」
時計を見ながら、そんなことを考える。
気合を入れるべく何度目かわからないが、新しいエナジードリンクを
「ん?」
変な感じがした。
なんでかはわからないが、よくない気がして、現実逃避気味に疲れたのかとベッドへに寝ようとしたのだが気持ち悪さは余計に強くなる。
「なんだこれ……」
そうは思うものの、体にくる気持ち悪さはかわらない。
そこであることをふと思い出す。
これって、カフェイン中毒ってやつじゃないだろうかと……
絶対に自分はなるはずがない。
これまで大丈夫だったから……
ああ、こう考えてしまうのは人間の心理というものか……
「さ……い……あ……」
最悪だ。
そう言葉にしようとしたところで意識が途切れてしまうのだった。
※
体がどこか温かい。
「う……ああ?」
慌てて立ち上がると、温かい理由がわかった。
「風呂に入っていたのか?というか、いつ入ったんだ?」
裸の体を見て、そんなことを考えたが、すぐにわかる。
「くそ、転生ってやつだよな、これって……」
思い出せる最後の記憶は、エナジードリンクの飲みすぎで倒れたまでのものだった。
もしそうではなく、急に全裸で風呂に入っているという行為をしてしまっているのであれば、俺はかなりおかしな人間で間違いないだろう。
「まあ、俺が住んでいたのが、風呂トイレ一緒のユニットバスタイプの部屋だったからな。こうやって風呂に浸かるなんてことは、長くやってなかったんだよな」
独身ということもあって、部屋で充実しているのはゲームができる環境だ。
よって風呂もゆっくり浸かるよりもシャワーで洗い流すことのほうが多く、これだけ大きなお風呂となれば銭湯か旅館、もしくは帰らない実家くらいだろう。
次に気になった点といえばあれだ、我が息子の存在だ。
毎日のように見慣れたはずのそれではなかった。
「ちっ……ビッグマグナムすぎるだろ!」
ぶらぶらと揺れるそれを見て、思わずそんなことを口にしてしまうほどに、見慣れた息子ではなく自慢の一品になってしまっていた。
だが、どれほどの一品であっても使うことができなければ宝の持ち腐れだということを前世の経験からわかっていた。
イケメンであれば、或いは……
「……まず、このビッグマグナムの持ち主が誰なのかを確認しないとな」
風呂に入っているのだから、鏡の一つくらいはあるはずだ。
そう考えて、どこなのかもわからない風呂場を歩き回ろうとしたときだった。
「まじか!」
風呂場だというのに、慌ててしまったせいなのか、いつもとは違うビックマグナムのせいでバランスを崩したのかはわかならいが、床でつるっと滑ったのだ。
エナジードリンクを飲みすぎたせいで死んだかもしれない少し前のことを思い出すと、今度は風呂場で倒れることで頭を打ってしまい、今度は風呂場で頭を打って死んでしまうなんてこともあり得ない話ではない。
今度は死因が風呂場でこけて頭を打つだと……
「そんなことは嫌だーおぶふ……」
大きな声をあげながらも、なんとか踏みとどまろうと考えたのだが、そんなに世の中うまくはいかない。
片方が滑っているので当たり前だが、もう片方も滑って踏ん張りが気づかず、勢いよく後ろに倒れると、そのまま後頭部をぶつけた俺は意識を失った。
「いっつ……」
頭を打ったせいで頭痛がして頭が痛い。
「今、かなりアホなことを考えたな……」
思わずバカな独り言を口にするのは、一人暮らしをしていた
とはいえ、いつも寝ているベッドとは違うことで、頭を打つ前のことが本当のことだということがわかる。
いつの間にか服を着てはいるものの、これまでの体と違うのは体感というべきか、例のビックマグナムのせいなのか……
鏡を見ていない以上、体の中で一番の変化を感じているのは、その場所だったので違和感を表すためには仕方ない。
だが、これを言っていいのかはわからないが、部屋にはどこか見覚えがあった。
「なんで、見覚えがあるんだ?」
うーんと考えを巡らせたところで、ここがどこかなのかわからない。
転生したのかもよくわからないが、こんな摩訶不思議なことが、現実に起こるとは思わない。
「いや、そもそもが異世界ってことでいいのか?」
見たことがないだけで、実際には違う国とかの知らない人になっただけなのかもしれないとそこで考える。
だから見覚えがあるのではないかと……
「何かの媒体で画像か動画でも見たことがあんのか?」
考えられることといえば、その程度のことだろう。
部屋の中を見渡せば、余計にどこか
いや、実際に見たことがあるのかもしれないが……
昨日は早めに寝たというよりも、落ちたおかげで今は太陽が昇るよりも早く目が覚めたようで、部屋から窓の外を見ると、外が白ずんできているのが見えるが、時間が何時なのかは部屋に動く時計がないためわからない。
「ま、こういうときにめぼしい場所に時計がないから時間がわからないのだけは、なんとかしてほしいよな……いや、こういうのは
知っている知識を全く知らない相手にチート能力のように使う。
それは、ゲームをやったりする人が考える憧れだった。
いや、死んで前世と決まったわけではないが……
まずは自分の姿を確認すれば、この世界がどこかわかるかもな。
ようやくというべきか、俺は部屋にあった姿鏡を見つけるとその前に立つ。
「なんだ、この見た目……古典的すぎないか?」
思わずそう言葉にしてしまうのには理由があった。
イケメンすぎないが整った顔立ちに、声は元のままではあるが、片目が隠れるくらいの髪の長さ……
まるで、とあるゲームの主人公のような……
「いやいやいや……決めつけるのはよくないな。実際どんな世界なのかは、他の人に出会わないことにはわからないよな。よし、部屋から出てみるか」
こういうときには、行動あるのみだというのもあるし、一人でべらべらと話していても何も進まないだろうからだ。
死ぬ前もゲームを倍速でプレイしていたのも、ゆっくりと読むのが面倒になったからで、ジッとしているのが、少し苦手なのだ。
ガチャっと扉を開けると、部屋の外をきょろきょろと見る。
「やっぱり、風呂の大きさと部屋の感じから考えてた通りここって屋敷ってやつだよな。それもなかなかの大きさだな」
寝ていたのが天蓋付きベッドであったり、部屋の中に壺のような調度品があることから、予想はしていたが、知っている知識であっているのであれば、屋敷であることは間違いない。そんな中でも自分の部屋が一番奥にあり、そこから部屋が四部屋は続いているのが見えた。
一つ一つの部屋が、自分と同じ大きさだと考えると、屋敷はかなり大きいだろう。
まだ朝も早いからか、部屋の外である廊下に人の気配はない。
「出てみるか」
左右を確認しながら、こそこそと歩いていく。
先ほどまでいた自分の部屋の中以外を見たいが、誰かがいた場合、対応が難しい。
決して何を話していいかわからないわけではない、決して……
「そうなると、部屋の外からでも中が見える場所がいいな。下なら、そういう部屋があるか?」
窓の景色から、自分がいるのが二階だということはわかっていたので、下に行けばそういった部屋もあるのでは?と考えた。
他の部屋に人がいた場合、起こしてしまうのはさすがによくないので、ゆっくりゆっくりと廊下を歩いていく。
自分の家?だとは思うが音を立てないのは、子供時代に隠れてゲームをやっていたときを思い出した。
そんなときだった。
一階に降りたときに、一つの部屋から明かりが漏れているのが見える。さらにいえば、ドアがないからか人の声も聞こえている。
俺は早速近づきながらも聞き耳をたてる。
「あ……から……に……か?」(あ、今日から学園に入学ですか?)
何かを言っているかのようだが、部屋が遠いからなのか、何を言っているのかは理解できない。
もう少し近づくか……
そう考えて近づいていく間にも会話は続いている。
「は……まと……んへ」(はい、坊ちゃまと同じ学園へ)
「それ……まの……ねが……すね」(それでは、坊ちゃまのことをお願いしますね)
「わか……た」(わかりました)
本当に何を言っているのかわからない。
でも、なんとなく話す内容は理解できる。
というのも、部屋からはいい匂いがすることから、食事を用意している最中で、それについて話しているはずである。たぶん……
自分が聞き取れないだけと考えた俺は、話を聞くためにもう少し近くまで行こうかと思い、明かりがついた部屋の中が少し見たときに、また既視感を覚える。
「やっぱりなんか、見覚えがあるんだよな……」
だけど、やはり考えてもいまいちピンとこない。
もう少し他の部屋でも見れば、何かわかるか?
そう考えて、中にいる人たちに見つからないようにと、
うん?何がどうなってるんだ?
「なんだこれ?」
口は少し動くものの、ちゃんと言えているのかは怪しいし、体は動いてくれない。
そう、まるでこの世界に縛り付けられているように……
そんなときに、勢いよく声が聞こえていた部屋から人が出てくる。
「ぼっ……をお……ます」(坊ちゃまを起こしてきます)
「俺は起きている」
勢いよく出てきた女性に、俺は声をかけるのだが、どういうわけか口が普通ではないくらいに速く動く。
まるで倍速にでもなったかのようだ。
倍速?まさか!
そう考えるが、時すでに遅しである……
女性は急いではいないながらも、倍速だからか凄まじい勢いでこちらに向かってくると笑顔で話しかける。
「あ……ぼっ……ます。ちょ……がで……びに……きゃあああああ」(あー、坊ちゃまおはようございます。ちょうどお食事ができましたと呼びにいこうと……きゃあああああああああ)
嬉しそうに倍速で俺に向かって話をしていたメイドの女性が、こちらに動きは歩き……速度は走って、転んだからだ……
いや、これは吹っ飛んできたのでは?この状況を見ていた人であれば、誰でも思うようなあり得ない速度で、この世界のメイドであり幼馴染であるナオ・ナナナの体が迫っている。
すぐに視界にはその豊満な胸が近づいてくる。
これは、よくあるラッキースケベのテンプレの一つではあるが、倍速の動きから繰り出されるそれは、ラッキースケベではなく凶器そのものだ。
俺は首がもげそうな勢いでぶつかる胸にそんなことを覚えながら、最初のラッキースケベイベントだとわかると同時に、この世界が先ほどでやっていたゲーム”エロティックタワー”であることを理解したのだった。
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