唐突で恐縮であるが、私は握手に一時期凝っていたことがある。
握手にあまり馴染みのない日本人は知らない人が多いと思うが、あれは単なる礼儀作法ではない。手と手を繋ぐことで、実は様々なコミュニケーションをしているのだ。
例えば手を強く握りしめられたとする。これ自体には意味がない。ただ、こちらも強く握り返すと、これは「私は寂しがり屋です」という意思表示になる。
「私を強く抱きしめて。ええ、強く! もっと強く!」みたいな意味合いであろうか。
勿論、相手もそれを察した以上、さらに強く握り返してくる。決して挑発に乗ってきたと力試しをしようとしているわけではないが、この意味を知らないと無駄ないざこざに発展しかねないので注意が必要だ。
では何も反応しないと、どうであろうか。実はこれはこれで「今日の私は勝負下着を穿いています」の意味になる。
男性同士の握手であっても、それは変わらない。故に屈強な男が手を強く握ってきて、それに対してポーカーフェイスを決め込むのは実に危険な行為と言えよう。ましてや相手がニヤリと口角をあげた時は、今夜はもうお楽しみである。
ちなみに私はこの二択を回避するために、握手する時は最初から全力で相手の手を握ることにしていた。判断される側ではなく、判断する側に立つ方がまだ被害が少ないからだ。
なお、お互い同時に最初から全力で握手した時のことを「マッスルパッショネイト」と呼ぶが、特別意味はない。
さて、そんな握り方ひとつで様々なコミュニケーションが可能な握手であるが、達人ともなれば握手しただけで相手のことが手に取るように分かるようになる。
性格や血液型は勿論のこと、健康状態や今日の運勢、さらには趣味、好きな芸能人、カラオケで歌う定番曲、今日の晩御飯の献立から唐揚げにレモンをかけたら怒るか怒らないかまで、ありとあらゆる個人情報が手を握っただけで分かるらしい。
残念ながら私はそこまでには至っていない。
が、しかし、多少なりとも心得があるので、その人の手の温度でおおまかなことはわかる。
例えば手が温かい人は、真面目な性格であることが多い。
しかし、真面目な性格が故に他人にいいように使われることが多く、おかげで毎日残業続き。そんな日々のおかげで健康状態も芳しくなく、つまらないミスを連発して周りから蔑まれ、同期でなにかと要領上手くこなす奴には出世レースで大きく引き離されてしまう。
そして「こんなのもう酒でも飲まなきゃやっていけねぇ」と慣れないヤケ酒を煽ったある日、たまたま手相の婆さんと出くわして、奇妙な運命が始まるのだ。
なので手が温かい人は気を付けた方がいい。え、手が温かいかどうか自分では分からないって?
じゃあちょっと「その手」を貸してみて。ほほう、これはこれはホクホクの「あったか」だね。
おあとがよろしいようで。