第3話 水色に咲く微精霊
それから二人は、日が傾くまで語り合った。
話しているうちに分かったこと。
ルイは「弱いから殺される」と言われ、村から逃げてきたのだという。
そして、二人は同じ年、同じ日に生まれたこと。
「生まれたのが同じだなんて…すごい偶然ね」
スミレの声は少し緊張しつつも、嬉しさを含んで震えていた。
ルイの頬がわずかに赤く染まり、互いの存在が少しずつ心をほどいていくのを感じる。
笑い声や、風に揺れる木々のざわめきが、二人の周りに柔らかく漂う。
日が傾き、湖面にオレンジの光が反射するたび、五年前の光景がふと重なった。
水面を蹴ってはしゃぐクリスタたちの声。
その中に自分がいるような錯覚に、スミレの胸は締めつけられる。
「あっ、そろそろ帰らないと…また明日会いましょう」
スミレは立ち上がろうとするルイを見上げ、ふと提案する。
「そういえば、家はどうするの? 追い出されたのなら、よければ私の家に来る?」
ルイは驚いたように首を振る。
「い、いや、大丈夫だ。俺は寒さには慣れてるから」
「そう? じゃあまた明日、ここで会おう」
「あぁ…」
家に戻ると、そこには母、メイサが待っていた。
「何をしていたの! 家から出るなって、あれだけ言ったでしょう!?」
五年前の事件以来、母はスミレに容赦なく厳しくなった。
外出もほとんど許されず、友人と過ごす時間も制限されている。
普段は強く優しいメイサの表情も、今は怒りで硬く閉ざされていた。
―多分、母さんは私が友達も守れない、役立たずだと思っているのね―
スミレは胸の奥で静かに呟いた。
「姉上、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ」
りりなとしゅんが心配そうに声をかけるが、スミレは何も話さなかった。
何か嫌な予感があったのだ。ルイとのことは、二人には内緒にしておこう。
「何も。ただ、ぼーっとしてただけで、こんな時間になっちゃった」
そう言うと、スミレは自分の部屋へと戻っていった。
数日後、スミレは再びルイと会い、森の中で散歩を楽しむほどに親しくなった。
「昨日、リリナが何もないところで転んで、くるくる回って壁にぶつかったの」
「ははっ、本当に君の妹はドジだな」
笑い声が二人を包み、湖の水面が光を反射してきらめく。
だが、ふと背後から、微かに泣く声が聞こえた。
「誰かが泣いてる…?」
二人は声のする方へ向かう。そこは花畑で、甘く優しい香りが漂っていた。
小さな微精霊が、花の間で涙を零している。
「どうしたの? 微精霊さん」
「あのね…私の命形めいけいが育たないの」
微精霊の下には、まだ蕾の花がひっそりと咲いている。
「命形…?」
ルイは首をかしげる。
「命形は精霊の命そのもののようなもの。生まれてから五十年ほど経つと、精霊へと成長できるの」
微精霊は小さく震えながら訴える。
「でも、私の命形は百年たっても成長しないの…」
スミレは微笑み、優しく手を伸ばした。
「大丈夫。あなたの魔力が足りないだけ。私がすぐに助けてあげるわ」
深く息を吸い、スミレはそっと歌い始めた。
『ルマ ヴェイリ シャラ ノ レニ
ティラ ソルン エイラ フェヤ
ヴァシャ エルン キレス ノラ
セリ シラ フリャ ヴェア
アル ヴェンナ シヨ トラ ルム
フェヤ フィラ ノ セルン
ティラ ソル ルマ シラ
ニラ ヴェア シャイン
キレス ノ リナ ア ノル
シラ ヴェア シャラ レニ
ティラ フェヤ ルミナ ノ
ア シャイン フォーエバー
ヴァシャ エルン シラ ソラ
ティラ ルミナ ヴェイリ
ア マイ ア ルム フリャ
ニラ シャイン ヴェア ア』
歌が終わると、蕾だった花は淡い水色に輝き、花びらがゆっくり開いた。
微精霊は、もやもやとしたピンク色の姿から、水色の花のドレスをまとった精霊へと変わる。
「ありがとう…私の命形を育ててくれて。あなたに、世界樹の加護がありますように」
精霊は微笑み、森の中に静かに姿を消した。
湖面には光の輪が広がり、五年前の笑い声と風のざわめきが、微かに重なって聞こえるようだった。
その瞬間、湖のほとりに一人の女性が立っていた。
その瞳は深く、温かく、スミレの胸に不思議な安心感を与えた。
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