8話「戦女神のイタズラ」

タブールに足を踏み入れて、俺はすぐに布切れを纏った。

左腕を隠すためだ。


今思えば――

それが最大の失敗だったんだろうな。


弱そうに見えたのか、貧乏な旅人に見えたのか。

理由は知らねぇが、案の定だ。


チ「おいテメェ、どこ見ながら歩いてんだよぉ!」


墨「……あぁ、どうも。すみません」


こういう時は素直に謝る。

それが俺の流儀だ。

無駄な争いは、できるだけ避けたい。


――避けたい、はずだった。


チ「なんだぁ?!てめぇ!」


チンピラの声が、やけに通る。


チ「戦女神の名のもとに!

  ナヨナヨしたてめぇに“決闘”を申し込むぅ!!」


その瞬間、空気が変わった。

人が集まる。

野次馬は即座に観客へと変わり、この余興の始まりを待ち始める。


墨「……」


日「……」


墨「日丸、離れていろ」


日「まさか入都直後に絡まれるとは……才能ですね!」


墨「いらねぇよ、ンな才能!」


軽口を叩く間にも、チンピラの苛立ちは限界だったらしい。


チ「恨むんならなぁ!

そのナヨっとした格好でこの街に来たことだなぁ!」


どこから取り出したのか、ナイフを振り回して突っ込んでくる。

策もへったくれもない。


――だから、終わるのも早い。


墨「……はぁ」


一歩踏み込み、腹に一撃。


チ「おげぇッ!!」


墨「……あ」


力、入れすぎた。


倒れかかるチンピラが、悪あがきにナイフを振り回す。

その刃が、布切れを裂いた。


ビリッ――と音を立てて、

隠していた左腕が、白日の下に晒される。


日「……あ」


墨「……あ」


民衆「「「……あッ!」」」


ざわめき。

驚愕。

そして、理解。


布の下から現れたのは――

明らかに“普通じゃない”義体の腕だった。


墨「……」


俺は、頭を掻く。


墨「……まぁ」


この街に来たのが、失敗だったかもしれねぇな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る