本文
二十二時に寝て、二十四時に目覚め、再度四時に目を覚ます。睡眠が浅い。ただそれだけの事。其れに対して思う事は何も無く、ただ平然と同じ毎日が続くだけ。人生とは一体なんなのか。
本日、家の全てを終えた鏡花はリビングに横たわっていた。長い髪が辺り一面に海を作り、円を描いた毛先は渦潮を巻く。適当に放り出された手足は水死体のように投げ出され、生気を失っていた。ただ天井の照明を遮る様に頭上に放置されていた。
そんな彼奴に近寄って、髪に触れる。艶やかだった。滑りが良かった。けれども一部乾燥している。そうして今の此奴は潤いさえ失って死んでいくのだと思った。
「此処で寝るな」
もう二十二時なのだから、お前に取っては就寝時間だろうに。此処で眠ると朝まで寝ることになるぞ。そうしてまた、内蔵を冷やして。
俺が脳内で言葉を繋げる前に、鏡花の口が開いた。あの乾燥した、干からびた魚の口の様な唇から、簡素な言葉を吐いた。
「分かっているよ」
酷く疲れ果てた言葉であった。今にも木乃伊になりそうな、そんな女の声音であった。だから少しでも蘇生させるべく、ただゆったりと頬に手を這わせた。
誰よりも必死に生きてる。だからこそ朽ちてしまう。周りの環境や、人に自分を吸われて、ゆっくりと朽ちて行く。
「あのさ、瑠衣。人生って何だろうね。社会に出て、週休二日の休みがあって、また五連勤。ほぼ変わりのない毎日。嬉しくも、悲しくもない日々。ただそれだけ。
私は一体、あと何回この日々を続けたら、終わるんだろう」
むくりと体が起き上がる。顔は変わらず生気がなかった。どこか虚ろであった。ただだからこそ、温もりを求める様に、人を求める様に、俺に対して腕を伸ばす。背に腕を回し、自分の元へと引き寄せた。
「さぁな。ただ生き様だけは俺もお前も残して来ただろ」
「うん。だから今死んでもきっと構わないんだろうなぁ」
そんな弱弱しい言葉を吐いたあと、俺の肩口に顔を埋め、ただ静かに啜り泣く。俺はただされるがまま、肩を貸し続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。