第4話 束縛系彼氏

「あ、そういえば」

 椿が私の方を向いた。

 椿は、

「啓介とはどう?うまくやってる?」

 と、微笑みながら尋ねてきた。

「……まあね、一応」

 その椿の微笑みが、心の傷に塩を塗る。


 啓介は、一人で会社を立ち上げて。

 いまや、社長となっている。

 そして滅茶苦茶忙しいのに、私のことを大切にしてくれている。

 それはとても有り難いこと。

 だけれども。


「ちょっと、束縛が強いんだよね」

「……え?」

「毎日スマホ見せなくちゃいけないし。今日は何があった?とか。一々、逐一、聞いてくるし。ちょっと疲れてるんだよね」

「え、マジで?矢美子のスマホ、見せろって?」

「そうだよー、一応私の個人情報なのにさ。それをいちいち啓介に見せるのは、すごく面倒だよ」

「……」

 ちょっと愚痴ってみたら、椿は、押し黙ってしまった。


 確かに椿の言う通り、啓介と付き合うことは、幸せなのかもしれない。

 だけれど、本当は、椿と楽しく話していたほうが気が楽なのに、って思ってしまう自分がいる。


 椿は束縛なんてしないし、距離感だってバグらないし、私のことを尊重してくれている。

 かたや啓介は、何かに取りつかれたかのように、何かの恐怖心で動いているかのように、私との関係性だけを壊さないようにしているだけ。

 そういうの、本当に疲れる。


 ……私が幸せだなんて、言えるのかな。


「あ、ごめん。そろそろ啓介が迎えに来るから」

「……あ、そうだった。わりい、引き留めちまって」

「うん。じゃあまた、明日の講義で会おうね」

「……おう」


 ……そう。

 啓介は、講義が終わった後、毎日車で私を迎えに来る。

 そこまでしなくていいよ、啓介も忙しいでしょ、って断ろうとしたら、啓介は、激怒した。

 そして、浮気まで疑われた。

 それからスマホを毎日見せるように言われたんだよね。


 私の父親も、私が幼い頃によく怒っていたから、そういうのは本当に疲れるし、ものすごく怖い。


 そして大学の駐車場に行くと、黒い高級車が停まっていた。

 コンコン、と、窓をノックする。

 窓がスライドすると、啓介がにっこりと笑って、私の方を見た。

「やあ矢美子。講義、お疲れ様。今日はちょっと遅かったね。車乗っていいよ」

「うん。失礼します」

 私は後部座席に乗った。


 そして車が走り出すと。

「なあ矢美子。なんで今日は遅かったの?」

 啓介から話を切り出された。

「あ、遅れてごめんなさい。ちょっと友だちと話していたから」

「ふうん……友達、ね」

 啓介の表情が、ちょっと濁った。

「そう、友だち。だから、気にしないで」

「いや、気になるよ。だって矢美子の友だち、少ないだろ?」

「それは小学生の頃の話でしょ?大学生になったら友だちだってできるわよ」

「ふうん。スマホまた見させてもらうけど」


 そして、いったん間をおいて。

 啓介は、一瞬こちらを見た。

「今日は矢美子に、大切な話をしようと思って」

「……え?」

「僕と、結婚してほしい」




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